第4話 漆黒の大太刀 肆
松明の炎を先頭に、暗い山道を走る三騎の騎馬。そして、それを追う一台の馬車。
月光の光量が少ない夜、松明の明かりが届く範囲でしか視界がない。原因はそれだけではないけれど、馬の速度を十分に上げることができないでいた。
「大将と剛は大丈夫だろうか・・・。」
馬を走らせつつ
報告の任があるとは言え、今の二人は頭がないのと変わらない。
「報告をさっさと済ませて戻らないと。今更だが、あの二人では職人達から事情を聞き出せるか分からないからな。」
仲間と職人達の心配をしつつ馬を走らせる。
しばらく走っていると、夜の静けさの中に微かな異音があった。鉄と鉄が打ち合っているような金属音。それと、悲鳴。一つや二つではない、もっと多く。この山道の先から聞こえてくる。
「
部下の進言。しかし、状況が分からない
部下の言葉通り、この音は戦の音だ。戦っている両陣営については何も分からない。まさか敵国が進行しているとは思えない。仮に敵国だとして、相手にしているのは盗賊?戦力がありすぎじゃないか。盗賊達がそんな愚行をするとは思えない。次にこちらの戦力は、
時間にして非常に短かったと思う。
「お前達二人は十吉殿をお守りしろ。路肩に寄せてなるべく身を隠すように。私はこの先の様子を見てくる。」
部下に下した指示は短かった。それから
脳筋は俺も変わらないのかもな、
山道を進むと戦闘の音と悲鳴が徐々に大きくなってくる。さらに先へ進むと、道の先で複数の者達が見えた。
首元に赤い布を着けた男たちが複数人見えた。この辺りの盗賊の特徴と合致する。だが、ここからでは盗賊しか見えない。
あいつらは何と戦っているんだ。
嫌な予感がする。状況がまるで掴めていないにも関わらず。このまま逃げる事ができればどんなに楽か。残してきた部下と
それであるならば、盗賊達と戦っている者が何なのかを知るのは必要だ。
菊之助は暫く様子を見ることにした。
時間の経過と共に盗賊達の囲いが薄くなっていく。不思議と逃げる者は居なかった。盗賊達が減っていくのが早い、もはや早すぎると言っても過言ではない。
囲いの隙間から戦っている者を薄っすら確認できた。多くの盗賊達に囲まれているのは一人だった。正確には黒衣の外套で身を覆っているので性別までは分からない。しかし、盗賊達より頭一つは大きい身長ので男だろう。
男は手にした武器を振り回している。槍ではない。おそらく太刀。闇と同化しているそれは太刀にしては非常に大きく、男の背丈はあろう長さであった。
盗賊達が矢継ぎ早に男へ襲いかかる。その度に振るわれる大太刀が盗賊たちを文字通り斬り飛ばす。
「し、死神。」
進めば死を思わせる男の大太刀を見て盗賊達に逃げる者が現れた。一人、それを見てもう一人。次々に逃げ出す盗賊達。男は盗賊を追うことはしなかった。
血の海の中に浮かぶ骸。そして、その中でただ一人立っている男。幾人を斬ったのだろうか。持っている大太刀は闇を固めたような漆黒。
「逃げずに留まった気概は褒めてやる。だが、それは蛮勇と知れ。」
男が声を上げた。誰かに告げている。だが、その誰かは逃げるでも姿を見せるでもない。判断を委ねていたであろう男は業を煮やして気配を感じる方へ視線を向けた。
まさかの私か。
歩み寄る男。まだ距離がある。
あの男、本当に私に気付いている?他に誰か隠れているのではないか?いやいや、ここは最悪を想定して・・・それならば盗賊の仲間だと思われているのか。このままでは斬り殺されてしまうじゃないか。そもそも、この男に話は通じるのだろうか。
一瞬で様々な疑問が頭を駆け巡る。
まだ大太刀でも届かない間合い。
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