第3話 死神の大太刀 参
「とりあえずこれを飲め。それから頭を整理するんだ。落ち着いたら話せ。言葉は選べよ。・・・と言うか、そもそもお前は何者だ。」
男が水筒を受け取る。蓋を開けると、大きな一口で水を飲んだ。すると、顔から焦りの色が薄らいだ。
男が礼を言いつつ水筒を
戻って来た水筒がやけに軽い。中身が半分なくなっているようだ。こいつの一口はどれだけ大きいんだ、
「お見苦しい所を・・・。私は家族で各地を巡り、行商を営んでおり、名を
「それで、行商人がそれほど慌てる事態とは何だ。盗賊にでも出くわしたか?」
「いえ、私共に被害はありません。ですが、この山道の先。
「盗賊同士の抗争か、それとも、この辺に大型の獣が巣食ったか。何があったのかは知らんが、職人達に被害が無いと良いのだが。」
話を聞いた
「俺はあれが嘘を言ってはいないと思う。おそらくだが、本当に橋の先には行っていない。
「ああ。」
「ならばこの情報を持ち帰る者と、この先の集落を調査する者、部隊を二つに割ってはどうだろうか?」
「この人数で戦力を分けるのは少々危険な気もするが、
「俺と
だけど
「大将と剛だと上手い報告できないだろうから、私が適任って訳だ。二人共語彙力が低いから仕方ない。」
そんな二人のやり取りを黙って見ていた
何事かと
「そう言えば、そう・・・死神と会いました。」
夜の山道を歩く餓狼。外套の色も相まって闇に同化している。
街から離れているので明かりになる物が無い。月明かりに期待しようにも降り注ぐ光量が弱い。星はよく見えるが、歩き難さが先にたつ。通り抜ける風が木々を揺らしているが虫の声は聞こえない。木々が擦れるサワサワとした音だけが耳に入ってくる。
暦上では初春と呼ぶのにはまだ早い。
餓狼が不意に立ち止まる。そして、空を見上げてため息をついた。
幼い頃の自分は、将来こんな生活をしていることを想像していただろうか。戦で名声を上げる事を夢見ていたのではないか。
「・・・感傷が過ぎるか。俺らしくもない。過去は捨てた身じゃないか。」
自虐的な笑みを浮かべた
しばらく進むと、林の左右から複数の気配を感じた。少数ではない。明かりも灯さない彼等の動きは淀みがない。だが、気配までは消しきれていない。故に野性動物ではないことは分かる。
これは人の・・・そう、山歩きに慣れた人の気配だ。気配が
狙いは俺か。
正面に立つ一際大きな男が餓狼が言った。
「お前か、俺の手下共を可愛がってくれたのは。」
「どうだかな。少なくともお前の手下と遊んだ記憶は無い。俺が可愛がるのは女だけにしている。臭い男を相手にしても気分が萎えるしな。見たところお前の手下は男ばかりじゃないか。俺にそっちの趣味は無い。男色の勧誘なら他をあたってくれ。」
「そうか?俺の手下がお前の特徴的な外套を見たと言っている者がいてな。
男の恫喝、その声には品性の欠片もない。
「お前達が俺の相手をするってことか?それは当然命の取り合いをしようって話だよな。」
おそらく目の前にいる大男がこの盗賊達の首領。手下の落ち着き様を見ると、この首領の強さにを信頼しているようだ。確かに体格は目を見張るものがある。腕力だって相当なものだろう。
盗賊の首領が長柄の斧を掲げる。すると、手下達が一斉に得物を抜いた。影になってよく見えないが、刀、槍、斧、各々が使用する武器が違う。
「殺せぇー。」
首領が叫ぶ。大地を揺るがすほどの声量。それに反応した盗賊達が一斉に襲いかかってきた。隊列も何もない。これに作戦名をつけるのなら力押しであろう。
これが戦術と言うなら、兵法家なんて存在しなくていい。
「馬鹿は何処まで行っても馬鹿か。それじゃ、返り討ちにしてやるよ。覚悟しろよ。」
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