第27話
この生活が始まってしばらくたった頃、準備が整ったとユリウスから言われ、オデットは部屋を移動することになった。
案内された部屋は今までいた部屋の倍の広さがあり、中央には大きな寝台が置かれている
「今夜から、ここを一緒に使いましょう。あなた好みの大きな寝台を用意しましたから」
「……一緒に?」
「もちろん、夫婦の寝室です」
また胸が痛くなる。夫婦だとか妻だとか、ユリウスがよく口にするその言葉が、オデットは大嫌いだった。こんな関係夫婦であるはずがない。
寝室を一緒にしたことにより、朝まで共にすごすようになると、ユリウスは当たり前のようにオデットの身体に触れるようになった。
最初は、寝ている間の無意識の不可抗力だと思っていたが、数日後にはお互いが眠りに落ちる前に、しっかり腕に囲われていた。
最低限の妻としての役目も果たせないのに。ただ監視するために一緒にいるだけのはずなのに。
自分という存在を肯定してもらえた気がして、はっきり嫌だと口にすることができなくなる。
狭い世界で思考が麻痺していく。ユリウスの腕の中が自分の居場所のような気がしてくる。彼に守られているような気持ちになる。
その心境の変化が恐ろしくもあり、心に蓋をしなるべく見ないようにした。
その朝。ユリウスに髪を撫でられている感触で、オデットは目を覚ました。
ゆっくりと浮上する意識のなか、小鳥の囀りが聞こえてくる。
「おはようございます、オデット……朝ですよ」
「ん……」
声を無視して、オデットは朝日の眩しさから逃れるために、毛布に潜り込んだ。
毎朝ユリウスはオデットより早く起き、忙しそうに出かけていく。マクシミリアンに仕える騎士なのだから、当然任務があるのだろう。
一方何もすることがないオデットは、見送りをせずにまた眠り、ゆっくり起きて、日中はだいたい一人で過ごす。暇つぶしと言えば読書くらいしかない。部屋の外に出ると、ハンナに小言を言われるので逃げているのだ。
服はなんとか自分で着られるようになったが、長い髪は相変わらず結い上げることができないでいる。ボサボサにならないのはユリウスが夜、丁寧に梳かしてくれているからだ。
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