第二幕
第二幕①
ウエンディが『目覚めた』のは、三歳の頃だった。丁度、
この乳母は、乳母といっても、当時
全てはっきりと
「ふさわしいとされるスカートの
「お酒を飲む時は、量の多いグラスになさい。その方が
「
他にも色々とあったが、残念ながら覚えているのはこんなところだ。
いやもうひとつ、
「女子たるもの、
という教えについては、その日からずっと守っていたりする。
ウエンディにとって、この乳母は、レヴァーゼという国での唯一の優しい記憶だ。
しかし、彼女には彼女の子がいて、乳母という役目は貴族としての責務であったので、任を解かれれば去り行く者でもあった。
「良い子でお過ごしなさい」
別れの日。彼女がそう言った
三歳だったウエンディの頭が、
あまりの痛みに泣き叫んだが、当の乳母は、別れを
「ごめんなさいね王女様、私には私の子が待っているの」
と、そう
残されたのは、メイドとウエンディの二人だけで、そのメイドは、ただひたすらウエンディが泣き止むまで壁際に立っていた。
後に分かったことだが、それが彼女の仕事だった。メイドは
とにもかくにも、頭痛にのたうち回り、それが
『
ウエンディとしての自覚もあった。ただ、ウエンディは三歳のなんの教育も受けていない幼児でしかなく、行動範囲も恐ろしく
乳母とのほんのわずかな会話以外、ろくに話しかけられることもないから、聞き取りは出来ても、話すことは単語でしか出来ない。
乳母がいなくなってからは、泣いても
だから、前世の記憶を取り戻してからは、ウエンディはウエンディでありながらも、意識はほとんど雪乃に
沢渡雪乃は、日本人だった。
ごくごく
仕事は楽しく、つらいこともあったが、やりがいを感じていた。
「まさか、その前に事故で死んでしまうとは思わなかったけどね」
ぽつりと、日本語で
さて、そういうわけで、ウエンディは、雪乃として日本での生活を二十九年間してきた記憶がある。
室内の調度品、メイドの仕事などを
『雪乃』としての貴族の知識は、せいぜい教科書か物語によるものだが、実の両親ではなく乳母がつくことや、成長に合わせて家庭教師がつき、座学や
自分の環境に当てはまることも多いが、教育に関してだけは、開始が
「まあそのうち始まるでしょう」
そう最初は
ただ、幼児の体は、とにかく
英語でもフランス語でもドイツ語でも、ましてや日本語でもないこちらの言葉は、発音することが難しい。だから、自分から何かアプローチすることも出来なかった。
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