よくある試される大地に降り立つ男子小学生・前編。


津軽海峡か。爺ちゃんがよく聴いていた演歌を思い出す。

そこに一隻の真っ白い船がある。クルーザーだ。

白い船体に黄色い線が引かれ、中型のクルーザーと説明された。


船名は『ゴールデンシーホープ号』


「まさか人生でこんな金持ちな船に乗るなんて」


これが完全に観光だったら最高だったなあ。ここから見える北海道は完全に霧に包まれていて何も見えない。


「単なる霧じゃないなあ」

「正介様。情報がありました」


うやうやしくプラチナブロンドの美女が僕に一礼して報告する。

様付けしなくていいと言っているけど、頑として様付けするから諦めている。


「情報?」

「退魔師が動いていたようです」

「……やっぱり」


晴音さんとミカグラはこの北海道にいる。


「残念ながら音信は途絶えてしまいました。退魔師連盟も手をこまねいています。現状、何も出来ません」

「しっかし、なにが目的なんだろう。怪魔にしてもここまで大げさにしたら色々とやり辛いだろうにね」

「わかりません」

「まぁいいか。じゃあ、掴んだんで行ってきます」

「えっ、あの正介様!?」


フッと僕は転移する。視界に現れたのは雪のように真っ白い霧に包まれた世界。一寸先は通常なら何も見えない。でも霧も幻なので見破ればなんてことはない。


「あれ? なんだここは? うーん。参った。どこだろうここは?」


おっかしいな。転移がズレた。

ビルが沢山あるから都会なのは分かる。でも地理無いからなあ。それと人の気配が全くない。無人だ。


「あっ、コンビニ……え!?」


思わず二度見する。それほど驚いた。

店前の垂れ幕にはデカデカと堂々と『北の大地フェア~いま試されるシンフォニー~』と書かれているじゃないか。どういうことだ。予告じゃないっ! 思わず店に入る。普通に自動ドアは作動した。店内にはフェアの看板や宣伝やポスターとかこれでもかと貼ってある。ひょっとして現地だから前倒しとか? そうだ。だったら幻のマボロシチキンは!? いや待て。この地が封鎖されてからどれだけ経った?


「でも腐った臭いはしないんだよなぁ」


たぶん時間が停まっているからだろう。

そしてカウンターのフライヤーにデカデカとチキンがある。

値札には幻のマボロシチキンとあった。


「こ、これが……あの!?」


あの幻鶏を使ってあの幻のチキンの名店とコラボ。幻の油と幻の小麦粉で幻のソースを漬けて揚げた。幻のマボロシ味……幻のマボロシチキン……。


「黒……真っ黒だ」


幻のマボロシチキンは真っ黒だった。タールを漬けたような照る黒さ。


「…………」


しばらくジッと見つめる。いくら時間が停止していても何があるか分からない。

もちろん。僕なら諸々クリアして食べることが出来る。腐っていても毒が入っていても呪われていても、その程度なら問題ない。お金も払う。それでも食べるわけにはいかない。そうだ。これは心理的衛生上で論理的な判断に基づいている。ここで食べるのは正直頭おかしいし異常だ。異常過ぎる。だからここで食べるのはあり得ない。例えそれが念願の幻のマボロシチキンだとしてもだ。幻の油と幻の小麦粉で幻のソースを漬けて揚げた。幻のマボロシ味がするとしてもだ。それでもだ。僕は断固として食べないぞ。食べてやるものか。そうだ。僕は食べないぞ。


「ふぇったい。ふぇったいだ。たふぇないほおぉっっ、うっめえええぇぇぇぇ」


ウマアアアアアアァァァァァァァァッッッッ!!!!


すっげ。幻のマボロシチキン。すっげえ。いやもう凄っ!!

これで400円(税込み)っ!? 採算とれるのっ? 

思わず2個も食べてしまった。800円。だが後悔はない。


自販機でトマトジュースを買って飲む。


「なんか来る」


気配が三つ。こっちに近付いてきている。人の気配じゃない。それならあれだ。

怪魔か。と思ったら。


『ガルルルルルゥゥゥ』

『グルウゥゥゥゥ』

『バルルルルルウウゥゥ』


「なんだ。犬か」


ちょっと大きくて霧っぽく揺れていて獰猛そうで一つ目だけど、うん。犬だ。


「あっ、あれ、ひょっとして、あの有名な!」


そうだ。札幌といえばこれだ。時計台。思わず走る。

前に着く。へえーこんなところにあったんだ。


「……へえー……」


これがあの有名な時計台か。

へえぇ……はじめてみた。


『ガルルルルルウウウウウゥゥゥ』

『グルウウウウウゥゥゥゥ』

『バルバルバルルルウウゥゥッッ!!』


「おっと忘れていた」


3匹の犬が吠えながら身体の半分を霧状にして襲ってきた。

ならそのまま霧散させてしまおう。指を鳴らす。


『ガルル!?』

『グルウウ!?』

『バルバルバル!?』


焦る犬たちの身体が完全に霧になって消えた。


「君たちが悪いんだよ。そんな半端なことをするから」


半端な魔法の使い方は逆手に取られてしまうことがある。

今回みたいなのは特にそうだ。


「反応はこの先だ」


そういえば五稜郭ってどこにあるんだろう。この辺にあると思ったんだけど。

時計台は見れたからせっかくだし見てみたかったけど。それ以前に……はあ。


「参ったな。全く分からない」


うーん。北海道まったく知らないしなあ。

時計台があるから札幌だとは分かった。札幌味噌ラーメン食べたかったなあ。

ふたりの反応は分かる。分かるけど、分かるんだけど。


「……霧深いなあ…………」


僕は反応の元に一気に転移しようとした。

その転移が出来なかった。

この霧の所為だ。濃霧が一種の結界になっているみたいだ。この程度とは思ったけど、瞬時に転移できないのは大問題だった。

転移は気楽に使っているけど、本来はかなり繊細で絶妙な魔法だ。もちろん。この程度なら強引に使えば転移することができる。ただし。無理やり転移したらどうなるか分からない。時空間が崩壊して北海道が本当に消えるかも知れない。


「ん? 何か近付いてくる」


また犬かな。そう気配を消すと、違った。人型の怪魔だ。いつもの触手型の怪魔と見たことが無い人型の怪魔だ。ふむふむ。これは使えるかもしれない。


僕は気配を出して彼等の前に現れた。


『誰ダ?』

『ガキ?』


僕はわざとらしく自然に倒れる。

2体は僕に近付く。


『回収忘レカ?』

『そうみたいだな』

『ダガ目覚メテ居ナカッタカ?』

『気のせいだろう』


触手型が僕を捕まえて包む。


『女ガ良カッタ』

『そうだな』


そうして僕を連れていく。ふたりの反応があるところへ。








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