よくある秘密結社の新たなる総帥と男子小学生。


僕は黄金の球体を見る。


「そうだ。これがあった。これを使おう」

「使うって、どうするつもり……」


僕は黄金の球体を握った。それをフレイアーナさんの身体の真ん中に持っていく。火華さんが口を開けたまま固まっているけどスルーする。さてこのままフレイアーナさんに入れるのは芸が無い。そこで僕は少し考え、亜空間庫から金属製のケースを取り出した。ケースの中には白と黒の針が交互に並んで入っている。針は右から段々と細く鋭くなっている。白12本。黒12本。全部で24本だ。火華お姉さんが興味深そうに、でも不安げに尋ねた。


「それはなに?」

「お姉さんは身体に針を刺す健康法は知っている?」

「ええ、施術や治療で針を使うのは知っているし、経験したこともあるわ」

「これから行うのもそれと同じ。針を使って黄金の球体の呪いを緩和させる。この白と黒の針は、正の霊針と負の霊針。色々と用途はあるけど、今はとりあえず」


僕は黄金の球体にワイヤーフレームの幻影を重ねる。フレームを動かして『魔穴』を探し、幻影上に24の穴が浮かぶ。その穴に白と黒の針を刺していく。


「針だらけになったね」


ハリネズミみたいになった。僕は聖路ゴテと魔路ゴテを手にし、フレイアーナさんの胸から腹部に聖魔回路を描いていく。


「ねえ、これはどうするの?」

「今はそのままで、その間にこっちを完成させておかないと入れられない」

「やっぱり入れるんだ。そうするとフレイアーナ様が総帥になるんだけど」

「どうかな。なりたければなればいいよ。それでいいんじゃない」


その後は知らない。大人の話だ。さて、できた。後は、黄金の球体から白と黒の針を抜いていく。すると見る見るうちに黄金の球体が小さくなっていった。

その代わり、黄金の輝きは強くなっていく。


「きゃあああっっ眩しいぃっっ!?」


これは強烈だ。僕は遮光結界を張る。


「ふう。先にやっておけば良かった」

「い、いまのは、なんで黄金魔法がこんなに小さく……?」

「昇華して祝福にしたからね。黄金の魔法自体は呪いだから祓えなかったんだ」

「昇華?」

「少なくとも黄金郷狂いにはならなくなったかな」


元々黄金郷を追い求めていたのは黄金魔法という呪いだ。

黄金魔法はミダスの呪いの一部で、それが大本の呪いに戻ろうとしていただけだ。

要するに呪いの源へ戻ろうとする呪いの性質によって黄金郷狂いになっていた。それ以外は元々の性格だから擁護するつもりはないけどね。そして元の話からすると元々は善行の願いの結果だった。つまり祝福だった。ただしミダスの怨念が祝福を呪いへと変えた。それなら昇華すれば元の祝福になるはずだ。祝福になれば相反するので呪いの性質が無くなる。黄金郷狂いにはならないわけだ。


凝縮した黄金の球体・黄金魔法をフレイアーナさんの身体に入れていく。

彼女のお腹の部分にスッと入っていくと青白い聖魔回路が黄金に染まっていき、ドクンっとフレイアーナさんの身体が激しく痙攣する。


「ああああああああぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!」


彼女のツインテールにした赤髪の先端が白から金色に変わった。


「フレイアーナ様が……」


黄金の聖魔回路が元に戻るとフレイアーナさんはぐったりする。

ぴくぴくっとしているけど気絶していた。

僕は火華お姉さんに小瓶を渡す。


「完了したから、これを飲ませれば目を覚ますよ。もう帰らないと」


なんだかんだ時間が掛かってもうこんな時間だ。

飛鳥に怒られる。火華お姉さんは困ったように言う。


「……色々と聞きたいことがあるんだけど……このままっていうのはさすがに困る」


それもそうか。僕はスマホを出した。


「じゃあ、連絡先を交換しよう。いいかな」

「うん。いいけど」


スマホを合わせて交換する。


こうして僕は転移して帰宅した。

それから少しして……火華お姉さんからフレイアーナさんが目覚めたとチャットがあった。そしたらフレイアーナさんもチャットに参加して連絡先を交換する。そして来週の日曜に支部でまた会うことになった。1週間後か。まぁしょうがないか。


瞬く間に時間は過ぎて、1週間後の日曜日。

支部の最上階。ずらりと並ぶ黄色い装束の女性陣。真ん中に玉座みたいな椅子に座る黄金の瞳をしている真っ白い装束のフレイアーナさん。傍らには黒い装束の火華お姉さんが控えていた。この雰囲気———緊張感———どうやらフレイアーナさんは総帥になったみたいだ。どっかの馬鹿と違って迫力が段違いだ。その彼女の斜め上に白い球体型のドローンが浮いている。なんだろう。

フレイアーナさんが真っ赤な唇を小さく開いた。


「久しぶりね」

「まあ一週間ぶりかな」

「そうね」

「元気そうだね」

「お陰様で、絶好調すぎるわ」

「それはよかった。総帥になったみたいだね」

「ええ、潰すのは惜しいから。1週間でなんとかまとめることができたわ」

「ところで、そのドローンは?」

「例のAIよ」


ああ、あのアトランティスとかいう。


『ワたしはアトラン。古代アトランティスのAIであル』


「久瀬正介。男子小学生だよ」


『シっている。家族構成も知っていル』


「ふーん」


僕はちょっとイラっとした。ドローンの表面に傷が入る。


「!?」

「正介くんっ?」


余波を受けて火華お姉さんたちも慌てた。

何人か女性が失神する。


『マて。敵対するつもりはなイ』


「正介さん。落ち着いて。勝手に調べたのは謝罪します」

「あーし達は何かしようとは思っていないよっ!」


『ソうだ。危害を加えるつもりは全く無イ』


「……わかった」


ちょっとムカついた。

こういうの感心しないなあ。


「まず、そうね。わたくしはどうなったの?」

「どうなったのって」


そう聞かれても健康になった……かな。

それにしてもなんかこう―――妙だな。

フレイアーナさんを視る。


「あっ、寿命が無くなっている!!」


それだけじゃない。不死になっている。

うーん。原因は祝福に反転させた黄金魔法だろう。一部とはいえ秘密結社の総帥になれる強烈な呪いを祝福にしたんだ。それくらいの副作用はあるだろう。

と、いうわけでまっいっか。


「え? 寿命が?」

「不死って…………もうなんでもありね」


呆れたようにフレイアーナさんは微笑する。


「不死といってもいくらでも殺す方法はあるから無敵でもなんでもないけどね」

「そうなの?」

「アンデッドも不死だからね。不死属性ってやつだよ。不死を消せばいいだけ」

「それは正介さんも出来るんでしょう」

「もちろん」


なんともいえない顔で見合わせるふたり。

フレイアーナさんはため息をついた後、掌を小さく掲げる。

その掌に何かが集まって輝く金属の球が出来る。おやこれは。


「色々と試したらこんなこと出来るようになった。でもこれは黄金じゃないわ」

「それはオリハルコンだね」


僕があっさり答えると大きなざわつきが起きた。


「か、神の金属……」


『ヤはり、そうだったか。アトランティスではアトランティス合金といウ』


黄金より遥かに価値がある金属だ。

どうやら黄金魔法はオリハルコン魔法になったみたいだ。


「ふふっ、もう迂闊に使えないわね」


フレイアーナさんはハイライトの消えた瞳で遥か遠くを見る様に言った。

傍らの火華お姉さんもなんと言っていいか分からないみたいだ。


「それよりAIに聞きたいことがあるんだけど」


『大怪魔・蜃気狼のことカ。あれをアラニに教えたのは、スポンサーのひとつ。カイマ貿易ダ』


「怪魔貿易……」


名前からしてアウトなんだけど。

つまりやっぱりというか。怪魔が裏で糸を引いていたのか。


「知りたいことを知れたからいいか」

「もしかして蜃気狼をどうにかするつもり?」

「まぁ、あれには恨みがあるからね」


フェアの恨み。マボロシチキンの恨み。


「正介くん。良かったら、あーし達にも手伝わせてくれる?」

「黄金結社としてあなたに協力したい」

「いいけど」


『津軽海峡までの快適な交通ルートを提供すル。3日待てくレ』


「でも学校あるから」


今日は日曜で3日後は水曜だ。平日だ。無断で休めない。

次に動けるとしたら来週の土曜か日曜かな。よし。土曜にしよう。


『では、来週の土曜までに完璧な最速快適運航プランを構築しておク』


「わかった。頼んだよ」

「あーし達ももてなすから!」

「礼を尽くしても足りないですから」

「うん。わかった」


女性陣の皆が嬉しそうに沸いた。


こうして僕は来週の土曜に北海道へ行くことにした。

そういえば、先週から晴音さんとミカグラから全く連絡が来ない。


どうしたんだろう。




















北海道。

札幌。蜃気狼の巣。

濃霧の中。

沢山の怪魔の触手でふたりの退魔師の美少女・芦屋晴音と阿部観歌が捕らえられ、吊られていた。ふたりの退魔装束は所々破け、色々ときわどいところも含めて素肌が丸見えだ。擦り傷と軽い切り傷も負っている。


ふたりとも意識が無く眠ったような状態だ。


狼たちの遠吠えが霧の空に木霊した。


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