よくある試される大地に降り立つ男子小学生・中編。


人質になる。実に確実で楽な潜入方法だ。

なにせ敵がアジトに安全に運んでくれる。


ちらっと見る。なんかドーム? あっ、これ札幌ドームか。

へえー、これがあの札幌ドームか。うん。ドームだ。そのドームの中に運ばれていく。ここが本拠地なのかな。ドームの中は真っ白で巨大な水晶があちらこちらに生えていた。中心に巨大な何かがいる。狼? 異世界のフェンリルぐらいの大きさだ。

ああ、なるほど。あれが蜃気狼か。凄い迫力だな。眠っているけど。急に触手が僕から離れて、怪魔たちは去って行った。


「ふむ」


僕は立ち上がる。さて晴音さんとミカグラはどこだろう。それにしてもこの見上げるほど巨大な水晶———の中には人が閉じ込められていた。それもひとつの水晶に数え切れないほどの人数が閉じ込められている。水晶を見て回る。晴音さんとミカグラの反応はこの水晶にない。ドームの中心。蜃気狼が寝ているところにある。


「まぁ対決は避けられないよね。あっ」


自販機が見えた。ちょうど喉が渇いていたんで喜んで自販機に向かう。

えーと……おっ、『北海道産トマトジュース』がある。いいね。

買って飲む。ほう。ふむふむ。


「味の違いが分からない」


甘味が僅かにある? うん。分からないや。

だけどこれだけは言える。トマトジュースはいい。実にいい。


「よし。心の栄養補給完了」


では蜃気狼の元へ。


「待て」


向かおうとすると声を掛けられた。

男だ。人間じゃないのは額の角で分かった。異世界の魔族に似ている。

背が高く目つきが鋭く、筋肉質の素晴らしい肉体をしていた。

服装は変な格好ではない。ジーンズ地のジャケットに黒いシャツにジーンズ。

なんか格闘ゲームのキャラって感じで似合っている。


「つくづく思うんだよね」

「?」

「いや人間の敵なのに人間の格好する……なんというか妙な感じがするんだよね」

「敵を知る為だ」

「嘘だね。本当は人に憧れているんじゃないのかな」


異世界でもそうだった。

それなのにどうして争うのだろう。


「……何者だ? 偶然、起きた子供では無いな」

「そういうあんたこそ、単なる怪魔じゃないね」


途端、切り裂くような空気になった。

男が僕に敵意を放つ。容赦なく小学生に敵意を向ける。


「戦士だ」


僕は喜んだ。敵に男女子供の区別がない。


「退魔師か。それにしては聞いたことがない。それに俺の妖気に耐えるだと?」

「退魔師じゃないよ。名を聞いておこうか?」

「……竜図だ」


構える。うん。いいね。実にいいね。戦士だ。本物の戦士だ。

オラ、ワクワクしてきたぞ。


「僕は久瀬正介。小学5年生」


僕も構える。肩幅に足を開いて腰を落とし、右手を顔の前に、左手を腰へ。


「参る」

「応!」


僕達は高く跳躍した。空中で同じ速度で拳と拳がぶつかり合う。

向こうは丸太のような腕と岩のような拳。対して僕は子供の腕と小さな拳。

だが水滴は岩を穿つ……つい最近、習った。これ好き。だから水が滴る感覚で1秒間に1000発の突きを彼の拳に入れる。


「ぬおぉっ!?」


竜図は弾かれた。すかさず追撃。


「舐めるなぁっ!」


竜図が妖力を塊にして放つ。避けるのは簡単だが、あえて受ける。


「おぉっ!?」


意外に強い。いいぞ。いいぞ。これこそ戦士だ。

竜図と僕は殴り合う。激しく格闘するが徐々に竜図が後退していく。


「馬鹿なっ馬鹿なっ、俺が、押されているっ!」

「喰らえ、飛竜アッパーっ!」


竜図に渾身の1秒間に1万発のアッパーが炸裂する。

派手に竜図は吹っ飛んでダウンした。


「…………そんな馬鹿な……俺が……負けた……?」

「あんたは強かった。久々に本物の戦士に会えた」

「……戦士か……ならば……俺を戦士と思ってくれるならば……分かっているな」

「分かっている」


僕は竜図にトドメを差した。

彼は戦士だった。さてと、六つの瞳が僕を見ている。

ドームの中心に居た蜃気狼が目覚めた。


「晴音さんとミカグラはどこかな」


反応は蜃気狼からだ。

妙だな。食べられたという感じはしない。


『グルルルルルルウウゥゥゥゥゥゥッッッッ』


蜃気狼がゆっくりと立ち上がって唸る。

六つの瞳は完全に僕を敵として捉えていた。


「蜃気狼か」


なんだろうな。なんだろう。

さっきからずっと思っていたけど、このフェンリルぐらいある大きな狼。

実体がない。これって存在していないんじゃないのか。うーん。僕はやや悩みながら無防備にスタスタと近付く。蜃気狼が動いた。立ち上がり、六つの瞳で睨みながら僕へと向かってきた。腕を振り上げる。僕は何もしない。振り下ろした爪先からそのまま蜃気狼の中に入る。深い深い濃霧に包まれたが、僕は晴音さんとミカグラの反応がある方へと進んでいく。今度こそ会えるだろう。


進んでいくと光が見えた。そして―――なんか廊下に出る。


「ん?」


やたら豪華な廊下だった。まるで城みたいな。


「なんだ貴様!」


兵士に見つかった。


「え?」

「侵入者だぁっっ!」

「へ?」


あっという間に大勢の兵士に囲まれて捕らえられた。

そして。


「怪しいヤツめ。ここに入っていろ」


ガチャン。


「…………」


牢屋に入れられた。




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