マユリ、呪われる

タルタルソース柱島

元ポルターガイスト、いまエンタメ。布団ダンス伝説

 朝のホームルームが終わると同時に、マユリは隣の席のミホに向かって高らかに宣言した。


「ミホミホ、あーし決めたわ」


 ミホはすでに嫌な予感しかしない顔をしている。


「何を?」


「天下無双になる」


「……またかよ」


 マユリが突拍子もないことを言い出すのは、もはや日常茶飯事だった。しかし、今回はいつにも増して意味がわからない。


「いや、そもそも何の天下を取るの?」


「ダンス」


「おお……意外と普通」


「布団ダンスで」


「普通じゃなかった!!」


 ミホは机をバンッと叩いて叫んだ。


「布団ダンスって何!?」


「知らんの? 今、海外の動画サイトでバズってる『布団ごと踊るヤツ』!」


 マユリがスマホを取り出し、動画を見せてくる。そこには布団をすっぽりかぶった人間が、リズミカルに動きながら、突然バク転したり、布団の中から手足を出してシュールなダンスを披露したりする映像が流れていた。


「え、何これ、どういうこと……?」


「つまり、布団を纏いながら踊ることで、自由自在に変幻自在なダンスができるってわけ! しかもこれ、顔バレしないし、個人情報も守れる!」


「守るべき個人情報ある?」


「布団なら衣装代もかからないし、技さえ極めれば世界大会だって狙えるんじゃね?」


「世界!? ちょっと待て!」


「しかも、布団は一家に一枚はあるから、誰でも参戦できる! これはもう革命でしょ!?」


 そう言って、マユリは興奮した目でミホを見つめる。


「だから、今夜、あーしの家で布団ダンス特訓するから!」


「いや、私はやらないからな!?」


 しかし、ミホのツッコミは当然のように無視され、気づけば夜。





「よし、ミホミホ、準備はいい?」


「帰っていい?」


「ダメ」


 マユリの部屋の中央には、大量の布団が積み上げられていた。そこにスマホのカメラがセットされ、すでに「世界を狙う布団ダンサー」の準備は整っていた。


「まずは基本の『布団スライド』からね!」


「何それ」


「こうやって、布団を肩にかけたまま、スッ……と横移動する! ほら、影武者みたいでカッコよくね!?」


「いや、もうそれダンスじゃなくて忍者だよね?」


「じゃあ次、『布団フリップ』!」


「嫌な予感がする」


「布団の中に入ったまま、勢いをつけて……」


 マユリは器用に布団を丸め、自らの体を布団で包み込むと、勢いよく前転した。


「いっくぜぇぇ!! 天下無双ォォォ!!!」


 ――ゴンッ!!


 布団ごと壁に激突するマユリ。


「……おお、今のはミスったわ」


「何が天下無双だよ!! ただの自爆じゃん!!」


 転がった布団から顔を出し、マユリは悔しそうに唸った。


「でも、見た? この布団の躍動感」


「いや、見たけど……見たけど!!」


「これを極めれば、世界はあーしのものだわ」


「そんな世界いやだ」


 その後、ミホの必死の説得(という名の脅し)によって、深夜の布団ダンス特訓は中止となった。しかし――




翌日、布団ダンスはバズっていた。


 次の日の朝、ミホがスマホを開くと、マユリがアップした布団ダンス動画がすでに何万回も再生され、コメント欄は「天才」「革命的」「これぞ天下無双」と大盛り上がりしていた。


「……え、なんで?」


「ミホミホ、あーし、時代作ったかも」


「待て、止まれ、それ以上進むな、人類には早すぎる」


 こうして、マユリの「天下無双の布団ダンス伝説」は幕を開けてしまったのだった――。

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マユリ、呪われる タルタルソース柱島 @hashira_jima

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