第2話 群衆とともに

 やがて司会者が鳩丸氏の到着を告げ、人々から大きな拍手が沸き起こる。時折、掛け声も入る。内容は「ハトマルさーん」とか、あだ名である「ウーピー」とか「待ってましたー」とか「人民党に勝ってくれー」など。

 鳩丸氏が選挙カーの壇上に上がり、聴衆に手を振り、マイクを手に話を始める。何を言うのか。竹志が聞きたいのは、庶民の生活が楽になるのか?だ。熱狂とともに鳩丸氏は話の口火を切る。

「みなさん!子供手当二万六千円。もらいたいと思いませんか」

 いきなり核心から入ってきた。みんなの関心が一番強い民衆党の目玉政策から話を始めた。そうだ、そのことをもっと聞きたい、と竹志も思う。

「それにはみなさんの一票が必要です。やろうじゃありませんか、みなさん!」

 聴衆は大きな拍手で応える。さっき地方選の候補者に送られた拍手の数倍の圧倒的な拍手だ。さらに鳩丸氏は、子供手当以外の民衆党の目玉政策を並べた。高速道路無料化、沖縄の基地移転先見直しなどのそれら政策は、連日報道され多くの人が知るところとなっている。政策のひとつひとつを鳩丸氏が口に出すたび、熱のこもった拍手が送られた。

「やろうじゃありませんか、みなさん!」と鳩丸氏は締めくくる。

 あまり具体的な話はない。そのことに一抹の不安を覚えないでもないが、生の鳩丸氏がこうして目の前で力強く話をしていることで、鳩丸氏率いる民衆党が政権を獲った暁にはそうした政策が実現するのではないかと思えた。

 マスコミの論調は、国に巨額の借金があるのにどこから財源が出るのかと懐疑的だが、民衆党が政権を獲ったらお金の配分も全面的に見直して何とかしてくれるのではないだろうか。自信たっぷりに演説する鳩丸氏の姿を見てそう思った。

 演説の後、鳩丸氏は大勢の群衆に囲まれながら電車の駅へと向かって行った。これから群衆もとともに電車に乗り、車内で話をする機会を設ける、とのことで、竹志もついて行って色々と質問をぶつけてみたくなったが、鳩丸氏を取り囲む群衆の数は物凄かったのと、買い物の荷物も持ったままで中には生ものもあり、テレビカメラやテレビ局の巨大なマイクも一緒に鳩丸氏と群衆の中に紛れ込んで見え、テレビに映ってしまったりするのも嫌なので、やめておくことにした。民衆党が選挙に勝った後、具体的に世の中がどう変わっていくかは、いずれ分かるだろう、と思った。

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