第3話 政権奪取
衆議院総選挙では民衆党が予想を上回る三百二十議席を獲る圧勝で、百議席余りしか獲れなかった人民党に代わって政権与党の座に就いた。鳩丸氏は首相となった。
竹志は妻と娘が寝静まった後、今まではあまり見なかった報道番組を熱心に観るようになった。新政権の財務相が出演していて、子供手当などの財源が出ることに国の借金などを理由に疑問を呈していたニュースキャスターの問いかけに対してきっぱりと、できるんです、配分を変えれば良いんです、とロジカルに説明していたことに心強くなった。そう言われると本当に出来る気がしてきましたね、とキャスターも応じていた。
職場の介護施設でも利用者が民衆党の政権奪取を喜んでいた。民衆党が介護職員の給料を上げることをアピールしていることも皆知っているらしく、良かったね、と言ってくれる。老人達の方が一日中テレビを観ているので世の中のことをよく知っている。おめでとう、とまで言う人もいる。
職員の方は複雑な表情でテレビのワイドショーやニュースを仕事の合間にちら見している。今まで給料のことでは散々幻滅させられていた。前年に民衆党などの野党が提案し、人民党が譲歩する形で導入が決まった介護職員処遇改善手当だが、竹志が働く施設では施設が経営の為取り分を多くして、職員には少ししか回さず、月二千円程度の賃上げにとどまった。一般のサラリーマンと介護職員の収入差は月額十万円とも言われる。そうした経緯が重なり、多くの職員は疑心暗鬼になっている。
祝いの言葉を述べる老人に対して鼻で笑うように「あいつらも人民党と同じことしますよ」と言ってのける職員もいる。
竹志は、今回は国の中枢が根本から変わったので、変わる、と思いたかった。そう思うことで日々の仕事へのモチベーションも上がる気がした。
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