民衆党

松ヶ崎稲草

第1話 民衆党代表、駅前に来る!

 普段は閑散としている、駅前広場とも言えない中途半端なロータリーに、このさびれた町のどこか湧いて出たのか、と思えるほどの数の人達が集まり、熱気を醸し出している。

 多くの人々の目には希望の灯がともっているようにも見える。もちろん中には懐疑的な視線を向けて腕組みする人の姿もあるのは世の常だ。家族連れもいる。

 家族で行動する事の多い竹志だが、この日はたまたま一人で駅前へ買い物に来ていた。ショッピングモールから出てくると、この尋常ならざる人だかりに出くわし、車道の方から選挙カーが見え、遠目に垂れ幕も見える。民衆党・鳩丸代表来たる!と大書されている。

 あまりの熱気ぶりに、人ごみをかき分けて自宅方向へと進むのも面倒になったので、ちょっと話を聞いてみることにした。

 今度の総選挙が注目されていることは知っている。長らく政権の座にあった人民党が、今回は鳩丸代表を擁する民衆党に負けるかも知れない、と言われている。

 総選挙にあたって、選挙公約のマニフェストなるものを掲げた民衆党の最高の目玉政策は子供手当月々二万六千円であり、三歳の一人娘を来年幼稚園に入れるか保育園にするのか検討中の竹志一家にも大きく関係する政策だ。さらに、介護職員の処遇改善、将来的な月四万円の収入増などを訴えており、介護職員である竹志にとってはダイレクトに希望の持てる内容となっている。少し話が上手すぎる、とも感じてもいる。そうした疑問や不安をこの街頭演説を見ることによって解消できれば、と思った。

 主役はどこでも引っ張りだこで、なかなか現れないのは世の常で、前座、と言うか前説のような感じで、衆院選と同日に行われる地方選の候補者の演説が行われていた。わりに退屈に感じるが、それでも群がる人々は鳩丸氏の登場を待ちわびているようで、立ち去ろうとする人の姿は全くみられない。それどころか、地方選の候補者の話のところどころで温かい拍手が送られている。鳩丸氏の仲間である民衆党の候補者達だからか。

 何人かの候補者が話をし、その合間に司会者が鳩丸氏はこちらへ向かっていること、あと数分で到着することを告げる。それを聞くと竹志の少し萎えかけた気持ちも消え、鳩丸氏の姿を生で見て、じかに話を聴こう、との意欲が湧いてくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る