その先にあるものは

@nyoronyro

第1話

 無茶のしすぎだと分かってる。

 分かってても続けることしか出来ない。

 凡人と天才の差。

 埋めるためには、がむしゃらに必死で努力するしかないのだ。

 たとえそれが破滅の道だと知っていたとしても。




 一度きりの人生、一瞬のキラメキ。

 画面越しに映る舞台は、満員の観客席。

 確かに私は、あそこに立っていたんだ。

 センターに位置取り、観客全員の視線を集める。

 息をするのも忘れるほどの静寂の中で行われる演舞。

 終わった後のスタンディングオベーションと拍手喝采。

 それらを一身に受けると世界が私を中心に回ってるかのように錯覚する。


 唯一無二と言われ、真似することのできない私だけのダンス。

 天下無双とまで褒め称えられた踊りは、裏を返せば難易度からして怪我のリスクが高いということ。

 他の人が真似をするのを止めるぐらいに突き詰められたダンスは、天才と呼ばれる者達を倒すために練り上げられた凡人の結晶。

 

 代償を未来へと先送りしたプログラムは、メディアに取り上げられるたびに披露を要求され、売れていくほど回数を重ねることになる。

 埋め尽くされたスケジュール帳。

 疲れを取る暇なく行われる仕事は、体に負担と疲労を蓄積させる。

 時折する痛みに見ない振りをして、ファンのため、自分のためといくらでも理由をこじつけ言い訳にすると、今日もまた本番を迎える。


 それは何時しか負債に変わり限界を迎えると取り立てにやってくる。

 いつもと変わらない公演中、突然に襲う痛み。

 倒れこみ唸り声をあげる私の耳には、観客の悲鳴が聞こえることは無かった。


 


 私が次に気が付いたときには、病院のベッドの上に寝かされていた。

 起き上がろうとすると走る痛み。

 耐え切れず、痛み止めを看護師からもらう。

 程なくしてやってきた医師から告げられた言葉。

 説明はほとんど頭に入ってこなかったが簡単に説明すると、リハビリが順調なら日常生活は普通に送れるが、前と同じようにダンスをすることは難しいということ。

 聞いた瞬間、今までに培ってきたものが音を立てて崩れ落ちる。

 自信だった唯一の武器を失い、布団に潜り込むと声を押し殺して涙を流す。

 手に入れたものと失ったもの。


 真っ白になったスケジュール帳に、これからの人生を書いていく。

 

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