踊れ、武蔵

奈知ふたろ

MUSASHI

 武蔵は激怒した。

 必ず、かの天下無双のダンサー王タマゴポテチを除かなければならぬと決意した。

 武蔵にはダンスが分からぬ。武蔵は転生者である。両手に剣を取り、佐々木小次郎を倒してからは独り山奥に暮らして五輪の書を書き上げて没した。

 それなのになんということか、行き先は天国かと思いきや気がつくと渋谷という街で名もなき場末のダンサーに生まれ変わっていた。


「行くわよー! はい、ワンツー、ワンツー……」


 おネエダンサーのマロピタが今日も武蔵を鍛える。


「ダメじゃなあい、ねえ、武蔵ちゃあん。そこはもっと脚をまっすぐにあげてぇ、ほらあ」

「う、うむ、これでもダメでござるか、マロピタ殿。拙者の脚はもうこれ以上上がらぬでござるが」

「ダメダメぇ、そおんなんじゃ、いつまで経ってもタマちゃんには勝てないわよぉ」


 マロピタのオネエ言葉にも熱がこもる。

 なにしろ大会は一ヶ月後に迫っている。

 大手のスポンサーがいくつも着いたダンスコンテストである。

 優勝すれば大金と名誉、そしておまけに大きなステージや有名アーティストのコンサートバックダンサーとしての仕事も選び放題となる。

 武蔵は崖っぷちだ。ヤバいところからかなりの額の金も借りている。

 仕方がなかったのだ。この時代は転生者に優しくない。与えられたスキルはストリートダンスとヒップホップダンスのそれぞれレベル1だけだった。

 今度の大会で優勝できなければ、ダンサー業をやめなければならないかもしれない。酷な話である。もしダンサーを辞めれば、もうあとは借金のカタとして刃物を渡されて組の鉄砲玉として使われることに内定している。


「いいこと、武蔵ちゃあん。大会でタマちゃんに勝つにはこのツインソードダンスを完成させるしかないの」

「しかしそうは言ってもマロピタ殿、この両脚を同時に高く上げて二本の剣に見せるというところでござるが、これはもはや人間ができる技ではござらぬのでは?」

「もう、おばかぁぁッ! 諦めたらそこで試合終了よ。家に帰って布団にくるまって寝るしかないのよ、武蔵ちゃあん。学校で先生にそう教えられなかったの!」


 マロピタが激怒した。

 なので武蔵は慄いて謝罪した。


「すまぬでござる」

「分かればいいのよ」


 二メートルを超える巨体のマロピタが怒ると怖い。

 そして武蔵は頭を下げながらあの屈辱の言葉を思い出していた。


「おめえは巌流島に行ってフォークダンスでも踊ってろや」


 タマゴポテチの言葉である。

 そして奴こそが転生した佐々木小次郎であった。

 彼は武蔵と違って長身で見目麗しく、そしてダンスレベルも最初から5以上が与えられていた。


 武蔵はあらためて激怒した。


 神様とやら、これでは不公平が過ぎる。


 武蔵、泣いちゃう。


 <了>

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踊れ、武蔵 奈知ふたろ @edage1999

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