やさしい、あなたの、お人形

 KAC2025のお題を全て入れたお話。

 日本人形といえば、ぎろっと目が動いて髪を振り乱し宙を飛んだりするホラーとお馴染みであるが、人形とは、幼子のお友だちである。
 そして、ひなまつりといえば、まだ寒い春の或る日に忽然と家の中に現れる雅で、ままごと道具と思ったのだろうか、お輿入れ道具と嫁入り道具が並べられた七段目と六段目にしきりに手を伸ばしていたひどく幼い日の記憶がある。

 天辺には屏風とぼんぼり、そして男雛と女雛がちまっと座っており、それを見ながら幼馴染と雛あられを食べたりしていた。

 人形はやさしい。やさしい記憶と繋がっている。
 それを揃えてくれた祖父母や親がおり、当時の家があり、成長するごとに、毎年見ていた春がある。

 人形が人の手から手へと受け継がれていき、手入れをされて、大切に飾られる時。
 人形のほうも、人間に何か返したくなるものなのかもしれない。

 ――大切にしてくれてありがとう。

 そんな人形の顔はきっとやわらかい。