居所
妹島の浮気相手、保育士の女。名前は、
「紗栄子さん、すみません。その佳菜江さんの写真ありますか?」
「写真ですか?」
紗栄子が、写真を探してスマホをいじる。
しばらくして紗栄子が見せてきたのは、保育園入園式の写真だった。
写真を見て、高崎は、確信する。
「やはり……」
「どうしたんですか?」
「俺に紗栄子と名乗って、仕事を依頼してきた人物と似ているんです」
ほっそりとした体形に、長い黒髪。笑う口元は、あの依頼人の女に似ていると思う。残念ながら依頼人の女はサングラスで目を隠していたからはっきりと断定はできないが、まず間違いないだろう。
「佳菜江が仁子を……」
「紗栄子さん? どうしました?」
「ええ、そういえば、保育園に今日、佳菜江が来ていたと、仁子が言っていたんです。園長にでも用事があったのだろうと勝手に思っていたのですが、その時に仁子に指示していたのかもしれません」
「決まりですね。では、佳菜江さんが、仁子ちゃんを誘拐した可能性が、やっぱり高い」
だが、佳菜江が誘拐したとして、一体どこに仁子を連れて行ったのだろう。
犯人が分かったとて、仁子を保護できなければ意味がないのだ。
「もう一度、仁子の写真を見せてくれませんか」
「もちろんです」
高崎は、再度、仁子の手の映った写真を紗栄子にみせる。
穴のあくほど紗栄子が写真を見ているのは、何か場所を特定できるヒントが写真にないかと、探っているのだろう。
しばらく写真を見つめていた紗栄子が、「これ……」と、つぶやく。
「椅子、見覚えのあるものです……」
「椅子ですか?」
仁子の手の下には、赤いプラスチック製の椅子の座面が写っている。
「ええ。これは、まだ離婚前に妹島と仁子と私の三人で行った、水族館の椅子です」
「水族館……?」
「とても仁子が気に入ってた水族館で、確か、夜間の限定公開が……」
紗栄子は、スマホで水族館の情報を調べる。
「あった」
紗栄子のスマホに映っていたのは、予約制の夜間公開の情報だった。
大水槽の前で寝袋やブランケットを敷いて泊まれるプランとなっているようだ。
「私、今から行ってみます!」
紗栄子が立ち上がる。
「紗栄子さん、俺も行きます! タクシーを呼びましょう!」
高崎は、そう言うと、自分のスマホでタクシーを呼ぶ。
仁子を助けにいくなんて高崎にとって、自分でも信じられない言葉だった。
今までの高崎だったら、仁子を一緒に助けにいくなんてことは、思わなかっただろう。今までの高崎ならば仁子を依頼主のいるであろう場所へと探しに行くだなんて、思いもよらなかっただろう。
二人して道路脇で待っていると、電話で呼んだタクシーが止まる。
黒い色に、タクシー会社の名前のロゴが入ったタクシーの車内から、「ご予約の高崎さん?」と、運転手が声を掛けた。
高崎と紗栄子は、タクシーに乗り込むと、二人して水族館へと向かった。
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