第3話
「ならば、本物である事の証明を見せてやろうっ」
彼女は余りにも不遜な態度を取るカツオに対して憤りを覚えた。
そして、彼に対して力を見せると宣言し、それに対してカツオは恐れる事も警戒する事も無く笑っていた。
「何を見せてくれるんだ?全裸でダンスでもするのか?」
そう言ったが、カツオは目を大きく見開いた。
彼女の瞳が、カツオの体を見詰めている。
その真剣な表情に、カツオは声を失っていた。
否、肉体が、物理的に変化を齎している。
段々と、カツオの肉体が熱くなっていく。
彼女の深海の如き蒼い瞳が段々と光り出した。
「が……ッ」
苦しみだす、カツオ。
彼は、自分の腕を見た。
硬く、鱗に覆われつつある体。
段々と、皮膚が硬くなっていく。
そして、カツオの喉元がばっくりと割れる。
首の筋に、鰓の様なものが出来ていた。
人間の様な顔は、次第に魚の様に変化していく。
それはさながら、滄溟主が相手に与える呪いに近しかった。
「むっ……ぷはっ、はあ……はあっ」
集中していた彼女は息を吐いた。
そこで、カツオの肉体が、海洋生物の様な形状から、元の人間の姿に戻っていく。
自らの掌を見ていたカツオは、次第に指の股にあるヒレが元に戻っていくのを確認した。
「はあ……はあ……ど、どうじゃ、父上の様に完璧な呪いは与えられんが……妾を愚弄した罰じゃ、次はもっと長く魚に変えてやろうかのっ!!」
「……おい、お前、マジでリヴァイアサンの娘かよ」
カツオは人間の肉体に戻った事で、ゆっくりと立ち上がる。
そして、彼女の元へと近付くと、カトラスを握り締めて、檻の前に立った。
「な、なんじゃ、妾の凄さ、分かったじゃろ?」
「ああ、だから……此処からが取引だぜ」
そう言って、カツオは檻の前に身を乗り出して彼女の顔を見た。
「此処から出してやる、その代わり、俺の仲間になれ」
唐突な勧誘だった。
まさか、急に仲間として誘われるなど思ってもみなかった。
彼女は、目をぱちくりとしながら、彼の言葉を復唱する。
「仲間……じゃと?」
「そうだ、仲間になるんなら、檻から出してやる、そしてその力を俺に使え」
カツオは、リヴァイヴァーとしての力を評価している。
海底に沈んだ物資の回収以外にも、あちら側から流れ込んで来た建物がある。
その建物には、多くのお宝が眠っており、しかしそれを回収するには、人間の力では限界があった。
しかし、リヴァイヴァーになる事が出来るのならば、話は別である。
「わ、妾は、リヴァイアサンの娘なんじゃぞ……?」
「お前が誰の娘で、何処の神だろうが、知ったこっちゃねぇよ、お前の力が欲しいんだ、嫌ならこのまま置いて行く」
その言葉に、彼女は慌てる様にして言った。
「ま、まて、待つのじゃッ!置いて行かれたら困る……分かった、貴様の仲間になってやる、その代わり」
彼女は自らの指を噛んだ。
指先から赤色の血が流れ出る。
それを、カツオに向けた。
「妾の血を飲め、あちら側での契約のやり取りじゃ……如何なる不正も許さぬ血の取引、これを成してでも妾が欲しいのならば、この血と共に契りを示せ」
彼女の指から滴る血を、カツオは迷いも無く口に咥える。
そして、血を呑んだ末に、カツオは笑みを浮かべて言った。
「これで契約は成立だなあ、俺の名前は海野カツオ、お前は何て言うんだ?」
その言葉に、彼女は自らの名前を口にした。
「妾は……メリュジーヌと呼ぶが良い」
名前を聞いたカツオは立ち上がる。
カトラスを鞘に仕舞い込むと、ベルトに手を掛けた。
「じゃあこっちも契約をして貰うぞ、こっち側のやり方知ってるか?」
「な、なんじゃ、何故ズボンを下すのじゃ?」
不思議そうにしているメリュジーヌ。
彼女に対して、カツオは簡単に説明をした。
「血を舐める代わりに、こっちじゃ別のもんを舐めて貰うんだよ」
嘘である。
彼女が此方側の知識が無いと知っての行為であった。
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