第2話



「はあ……ねえ、カツオ、終わったけど、何もしてないあんたがどうしてそんなにゲッソリしてんの?」


船へと戻るエイファの言葉に、煙草を銜えながら空を見上げているカツオ。


「それはだな……今後の事を考えると頭が痛くなってるからだ」


「まあ、それは大変、大丈夫?あたしが慰めてあげよっか?体で」


エイファがカツオに近付くと、彼の耳元で囁いた。

カツオは彼女の頬に手を押し付けて引き剥がす。


「やめろ、二度とお前とは寝ないって決めた」


「んはっ、搾り取られるの、そんなにいや?可愛くて好きなんだけどなあ……あたしのナカ、きもちいいでしょ?」


自らの下腹部に手を添えて淫魔の如き舌なめずりを行うエイファ。

彼女を抱いた日の事を思い出して身震いを覚えた。


「火、持ってないか?」


話を逸らすカツオに、エイファは分かりやすいと笑みを浮かべる。

手に装着した鉤爪を一つ一つ外していくと、自らの尻尾に鉤爪を通していく。


「だから、ライターだけじゃなくて、マッチも常備しとけばって言ってるのに」


「うるせぇな、持ってるか持ってないのか聞いてんだよ」


舌打ちを打ちながら、口から煙草を離すカツオに、エイファは煙草を奪った。


「欲しければ、船の中でも調べたら?あたしは疲れたからパス」


口に煙草を銜えて、そのまま船内へと入っていくエイファの後ろ姿を見て、カツオは再び舌打ちをした。


「はあ……処分するか、面倒臭ェ」


海賊であるシーマンを皆殺しにしたエイファ。

船の中の全てを回収しても、誰も文句は言わない。

カツオはシーマンたちが乗っていた船に乗る。

死んだ目をしているシーマンたちの死骸。

思わぬ力仕事が起きてしまった為に、カツオは溜息を吐きながら一体一体、シーマンたちを船から海面に向けて投げ落とす。


「しっかし……結構デカいな、この船」


大型の船は木製で出来ている。

シーマンたちは、あちら側からやって来た異世界人だ。

その文化も文明も此方側よりも遥かに低いのだろう。

木製の船に居ると、海賊船に乗っている気分になる。


「……いや、海賊だけどな」


そう思いながら、カツオは船内を見る。

船内は兎に角臭かった、魚を大量に乗せて腐らせた様な臭いである。

思わず吐いてしまいそうになるカツオだったが、廊下を歩き続けて船内を探索した。


「マッチくらいあるだろ……」


そう思いながら部屋の中を探した時、広めの部屋に入った。

どうやらそこは倉庫だった、シーマンたちが集めた大量の資源が其処にあった。


「これを一人で持って降りるのは……マジで骨が居るな、しかも数が多すぎる、荷を積む事が出来ねぇ」


勿体無いと、カツオがそう思った時。

奥深くに、何かが蠢いていた。


「ッ」


咄嗟に、腰に携えたカトラスを引き抜く。

もしもリヴァイヴァーであれば、銃火器は使えない。

それに、カツオが持つカトラスは深海産である。

異世界から漂流した、特別な魔力を帯びた武器だった。


しかし、相手は接近して来なかった。

目を凝らすカツオは、ゆっくりと近付くと、それは小型の檻だった。

人が一人、入れる程の檻、其処に、一人の人間が閉じ込められていた。


「人間……いや」


その見た目。

頬は鱗に覆われている。

髪の毛は珊瑚の様なピンク色で、地面にまで垂れている。

衣服を纏ってはおらず、真っ白な肌を晒していた。

檻の中で体育座りをしている少女を見たカツオは、ふむ、と考えた。


「……シーマン共の慰み者か」


そう納得した。

全裸で、首に鎖を付けて檻に繋がれている。

シーマンたちが、性欲を発散する為に使われた、と考えるのが正解だろう。


「可哀そうに、どれ程滅茶苦茶にされたか、想像も出来ん、……シーマンどものアレって凄いのか?」


カツオはデリカシーに掛ける質問をしたと同時。

その少女が、近くにあった資源を掴んだ。

それは鎧の兜であり、それをカツオの頭に向けて投げると、カツオは思い切り頭を打ち付けた。


「妾が、あんな下等生物に破瓜されるワケ無いじゃろうがッ!!痴れ者めがッ!!」


「ってェな、オイ!!テメェ何しやがんだッ!!」


檻の中で立ち上がる、ピンク髪の少女。

カツオは涙目になりながら叫んだ。


「妾を誰だと思うておるッ、かの深海の主、滄溟主リヴァイアサンの娘であるぞッ!!」


と。

胸を張りながら、ピンク髪の少女が叫ぶのだった。

聞き捨てならない言葉に、カツオは目を丸くしていた。

そして、にへらと笑うと、指を差して笑う。


「んなワケねぇだろッ!!バカみてぇにデケぇ龍みたいなのがリヴァイアサンだぞ!?それが、お前、どうやって子供を作るんだよ、あっちの方もデカいだろ、リヴァイアサンのリヴァイアサンは」


「妾の父の性器をリヴァイアサンと言うでないッ!!下等生物めがッ!!痴れ者ぉ!!」


リヴァイアサンの娘、そう豪語するピンク髪の少女はカツオを檻の中から睨んでいた。


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