第4話


「口の中が……ぬめぬめするのじゃ」


「お前の血もぬるぬるしてるからお相子だな」


ずん、と船が揺れる。

その揺れを船内で惰眠を貪っていたエイファは勘付いた。


「あ……戻ってきた」


居眠りをしていたのか、欠伸を一つすると共に体を起こす。


「カツオ、何か掘り出し物でもあったあ?こんなにおっきい船だし、結構イイものでもあったんじゃ……?」


カツオの脇に抱えている不満げな表情を浮かべているピンク色の髪をした少女。

頭部から珊瑚の様な角を生やしている彼女は口を閉ざしてしかめっ面をしていた。


「……はあ?」


エイファはそのピンク髪の少女を見て、眉を顰めながらそう声を漏らした。

何故、カツオが裸にひん剥いた少女を抱き抱えているのか、と、そう思い、彼に視線を戻す。


「カツオ、これどういう事?なに、オンナを引き連れてんの?あたしやシャチがいるでしょ?」


エイファの尾の先端がカツオの首筋に向けられた。

彼女の神経毒は、彼女の意思で自由に分泌が可能である。

なので、この場合、カツオに向けられた尾の先端は、神経毒は無かった。

それを知っている為か、カツオはエイファの尾を無視して、脇に抱き抱えていたピンク髪の少女を船上に投げ落とす。


「ぎゃっ」


尻持ちを突いた少女は痛そうな声を口から出した。


「も、もっと丁寧に扱わんかっ!妾は、リヴァイアサンの娘じゃぞッ!!」


「はいはい、分かった分かった……はあ、疲れたわ、エイファ、こいつ、メリュジーヌ、俺達の仲間になった」


エイファに簡単な説明を行うカツオ。

当然、急に説明されても、エイファの反応は難色を示す。


「……はあああ?」


益々不可解と言った表情をするエイファ。


「まあ、聞けよ」


そう言いながらエイファと共に船内へと入り込む。

何が不味い事になったのか、そう思いながらエイファも同じ様に船内に入った。


「ありゃ、金になるぞ」


そう言いながら、カツオは胸ポケットに入れた煙草を取り出した。

口に咥えて、火を点けようとポケットを弄るが、ライターが切れている事を思い出す。


「金になるって……身売りでもさせる気?」


「んなワケねぇだろ、それよりも利用価値があんだよ」


ソファに座り、灰皿に指で折った煙草を投げ捨てながら、カツオはテーブルの上に置いたガラス瓶に手を伸ばす。

蓋を開けると、ぷしゅ、と音と共に、弾ける炭酸水を喉奥へと流し込んだ。


「はああ……ありゃリヴァイアサンの娘だってよ」


「なにそれ?……それよりも、カツオ」


カツオの隣に座り、エイファは鼻をすんすんと鳴らした。

ソファに座るカツオの股に顔を近づけて、匂いを嗅ぐと、冷めた目付きを向けた。


「このニオイ、なに?……シたの?」


「冗談言うなよ、ちょっと揶揄っただけだ」


ふうん、と言いながら、エイファの指がカツオの首に触れる。


「欲求不満ならあたしが相手してあげるけど?」


冷めた口調でそう言った。


「それこそ、冗談言うなよ……」


生きた心地がしない。

その様にカツオは呟くのだった。

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