フィデリオ様っ!


「フィデリオ様っ!?」


ラウラは驚きのあまり、次の言葉が出てこなかった。


門の向こうに、フィデリオ様がいる!

たった一週間なのに、懐かしくてたまらない……。

でも、どうして?


戸惑うラウラに、フィデリオは裏門を開けて手招きをした。

ラウラが門の中へ入ろうとすると、フィデリオは深くかぶったフードに手を伸ばした。

濃紺色のフードがふわりと外れ、夕日がラウラの顔を優しく照らす。

その顔を見て、フィデリオはホッとしたように微笑んだ。


「よかったラウラ。心配していたよ」

「え、あの……あっ! おかえりなさいませ」

「うん、ただいま」


久しぶりに聞くフィデリオの優しい声。

感情が抑えられない。


「おかえりなさいっ!」

「うん」

「……フィデリオ様」

「うん?」

「フィデリオさまぁぁぁーーーーー」


胸の中に溜まっていた全ての想いが溢れ出し、ラウラはフィデリオの名を叫びながらその胸に飛び込んだ。

フィデリオは一瞬驚いたような表情を見せたが、優しくラウラを受け止める。

ラウラも内心自分の行動に驚いていた。

でも、体が勝手に動いてしまって止められなかった。

背中をぽんぽんと優しく叩かれ、ラウラは心の中の不安がすべて溶けていくような気がしていた。

しかし、こうなってしまうと今度は涙が止まらない。


「フィ……ひっ……オさまぁーーーーうう゛ぅ゛」

「うん、大変だったね」

「あ゛ぅ゛……もう、会えないかとぉ……」

「うん」


フィデリオの優しい声が、胸に響いてくる。

自分の泣き声に、ラウラはふと我に返った。


ちょっと待って!

私、フィデリオ様に背中ポンポンされてる!

洗いたてのシャツと薬草の香りに包まれ、幸せな気分とともに急に恥ずかしさが襲ってきた。


「私っ! あの、申し訳ございません!」


ラウラは慌ててフィデリオから離れる。

顔をあげると、あれだけ会いたかったフィデリオが目の前に立っていた。


ああどうしよう。

やっぱり私、フィデリオ様のことが大好き。


そう思った瞬間、ロクセラーナのことを思い出す。


「あっ!」

「ん?」

「あの魔……とても綺麗な人が、屋敷に居たと思うんですけど」

「あーあの魔女なら、地下牢にいるよ、安心して」

「えっ!?」


思いもよらない答えに、ラウラは頭が追いつかなかった。


フィデリオ様は、ロクセラーナのことを魔女だとわかったの?

二人が恋に落ちたから、あの魔女はここに来たんじゃないの?

魅了は?

いったいどういうこと?


目を大きく見開くラウラに、フィデリオは優しく微笑んだ。

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