第七話 ラボラトリー

 俺は言われるがまま、午後の照る日差しに焼かれながら、防空壕目指して進んでいた。

 道中、またしてもゾンビに囲われてしまうかもと心配したが、不思議なことには、ゾンビ達は食糧でも狩りに行くのか、夕刻以外はあまり姿を見かけないようになった。


 そもそも奴らが何を主食としているのか分かってもいない。

 B級映画のワンシーンよろしく、脳にかぶり付くゾンビの群れを想像して、俺の足は震えた。



 3時間ほど歩いただろうか。

 標高は低い山だったが、段々と遊歩道が途切れだした。機動力では自分の足の方が勝る。

 俺はバイクを目立つ木の側に乗り捨て、先を急いだ。

 しばらくすると、メイドのかなえの言う通り、比較的拓けた山裾に防空壕があるのが見えた。


「あれがそうか……?」


 GPSは当たりを知らせている。

 俺は恐る恐る、防空壕の入り口へと近づいた。



「お待ちしてました、酒井様」


 初めて見る新田かなえは、えらく軍人めいた姿だった。

 妙齢の女性に似つかわしくなく、迷彩服に重装備を備えている。


「メイド服じゃないんですね」


「何を馬鹿な事を仰ってるんですか、酒井様。あの様な軽装では、すぐにやられてしまいます」


 新田かなえは、ごく普通の線の細い女性に見えた。俺を見る目や周囲を警戒する様子には鋭さが垣間見えたが、それは俺が心の底から会いたかった「人間」に違いなかった。



「もたもたしている時間はありません。ひとまずはラボの中で詳しいお話をお伝えします」


 メイド長かなえに続き、防空壕の苔むした入口を掻き分け、しばらくボロボロの坑道を進むと、そこは眩しい照明に照らされた別世界だった。


「これが、我らが高橋財閥のラボラトリーです」


 呆気に取られてポカンとしていると、


「酒井様には、これから究極の選択をして頂きます」



 ……嫌な予感しかしない。

 

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