第六話 世紀末メイド長

 電話の声は女性だった。


「酒井さん。わたくしの声が聞こえてますか?」


 久しぶりに聞く人間の声だった。

 思わず衛星電話を取り落としそうになるほど、人間の存在が感じられない世界で。

 しかしそれははっきりとした口調だった。


「あ、はい、酒井です。あの……どちらさまですか?」


「高橋財閥メイド長、新田かなえと申します」


「め、メイド長……!?」


 資産家なのは知っていたが、まさかメイドを雇っていたなんて。

 俺のヘイトは一気に加速した。


「坊ちゃんから伝言があります。この電話が通じているという事は、あなたは坊ちゃんから物資を受け取っていますね?」


「え、あ、はい。高橋は無事なんですか?」


 電話口の向こうでメイドが舌打ちをするのが聞こえた。質問に答える気はないらしい。

 どうやら相手は相当癖の強いメイドさんのようだ。


「その衛星電話にはGPS機能がついております。私のいる場所へは、そうですね。3時間もかければたどり着けるでしょう」


「はぁ……」


「GPSの示す地点に防空壕があります。そちらは現在、わが社のラボとして秘密裏に使われております。あなたはここに来て、坊ちゃんの伝言を聞いてください」


「ま、待ってください! いきなりメイドだの、高橋の伝言だの言われても」


 狼狽える俺に、メイドのかなえは淡々と繰り返した。




「あなたは世界に選ばれました。すぐにここへ来るように」



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