動物園のアイドル

梅竹松

第1話 ぜひ動物園のアイドルに会いに来てください!

 私の名前は倉沢舞菜くらさわまいな。とある動物園で飼育員として働いている成人女性です。

 小柄であまり体力に自信のない私ですが、一生懸命動物たちのお世話をしています。

 今日はそんな私の仕事についてお話しますね。


 私の働く動物園では多種多様な動物が飼育されており、今日も来園されたお客さまを笑顔にしています。

 小さなお子様を連れたファミリー、付き合ったばかりだということが一目瞭然の初々しい学生カップル、定年退職を迎えて第二の人生がスタートしたご年配の夫婦などなど、お客さまも様々です。


 そんな幅広い層に来園していただいている我が動物園ですが、どの層のお客さまにも人気の動物がいます。

 それは私の担当しているパンダ。基本的にのんびり屋で派手な動きをするわけではあらりませんが、竹や笹の葉を食べる姿がとても愛らしいと評判なのです。

 パンダが目当てで来園されるお客さまも多く、まさに動物園のアイドルと言えるでしょう。


 私はこのキュートなアイドルのお世話をするために飼育員になったと言っても過言ではありません。

 というのも、私がこの仕事に憧れるようになったのは、幼い頃に両親に連れてきてもらった動物園でジャイアントパンダを見たことがきっかけだからです。


 今からおよそ20年近く前。小学校低学年の頃に、私は両親と一緒に動物園を訪れました。

 園内ではどの動物ものびのびと暮らしていて非常に魅力的でしたが、当時の私はその中でも園に2頭しかいないジャイアントパンダに一目惚れしてしまったのです。

 ゾウやキリンほどの迫力があるわけでもないし、ライオンやシロクマみたいにカッコいいわけでもなく、小動物のように元気に動き回るわけでもない。

 だけど、一心不乱に竹を頬張る姿がとても可愛くて、気づけば、「パンダのことをもっと知りたい」「近くでお世話をしたい」と思うようになっていました。


 私はその日から図鑑を見たり、動物を特集している番組や動物関連の動画を視聴したりして過ごすことが多くなったように思います。

 さらに小学校高学年になる頃には、動物園の飼育員の仕事について自分で調べるようになっていました。


 調べれば調べるほど喜びややりがいがあることを知って、義務教育を終えた時には動物園に就職することを決意。

 高校卒業後、専門の学校に進み、専門的な知識を身につけて採用試験に合格。

 動物園で働く夢が叶ったというわけです。


 さらに幸運にも、私はパンダのお世話を任せてもらえることになりました。

 動物園では、動物にストレスを与えないために基本的に決まった飼育員がお世話を担当します。必ずしも希望する動物のお世話ができるわけではありません。

 そのため私のように希望の動物を担当できる飼育員は非常に幸運なのです。

 もちろん他にも何種類かの動物の世話を任されたためパンダに付きっきりというわけにはいきませんが、それでも夢が叶ったので私は満足しています。

 園長をはじめ他の従業員の方はとても親切で頼りになりますし、来てくださるお客さまもみんな非常に優しいので本当に恵まれた職場に就職できたなと思いました。


 では、ここからは主な業務について説明させていただきますね。


 動物園の飼育員の仕事は主に担当する動物のお世話をすることです。

 時にはお客さまに動物の説明をしたり、迷子のお子さまを保護したり、落とし物や忘れ物を報告したりすることもありますが、基本的に動物の体調管理をしていると言ってよいでしょう。

 エサを調理して与えたり、展示スペースの清掃をしたり、動物用の遊具などの点検をしたり、とにかく動物たちがストレスフリーな環境で過ごせるよう努めています。

 同じ動物でも成長段階やその日の体調に合わせて異なるエサを与える必要がありますし、与える量も変わります。エサは完食することもあれば食べ残すこともあるので、どの程度食べたかを記録することも忘れません。


 また、清掃の時には必ずフンを確認するようにしています。

 フンは動物の体調を知る大事なバロメーターのひとつなので、毎日チェックをする必要があるのです。


 そして、動物に異変を感じた場合は他の飼育員や園長に報告し、診療が必要だと判断した場合はすぐに獣医にみせます。

 その際、担当の飼育員が診療に付き添うことも多々あります。

 体調不良以外でも、予防接種や出産の時は立ち会いますし、特に出産の時は夜通し見守ることも少なくありません。

 飼育員は動物から信頼されることが何より重要なので、体調不良や出産など動物の精神が不安定になる時はできる限りそばにいてあげる必要があるのです。


 私はまだ動物の出産に立ち会った経験はありませんが、この仕事を続けていればいずれその瞬間に立ち会うことになるでしょう。

 無事に赤ちゃんが産まれてきた時には感涙にむせぶかもしれません。

 逆に、もし万が一死産だったり産まれて数日で亡くなってしまった場合はしばらく立ち直れないと思います。悲しいことですが、産まれてきた動物の赤ちゃんが確実に元気に育つとは限らないのが現実なのです。


 しかし、今からそんな心配をしていても仕方ありません。

 幸いにも私の担当している動物たちはみんな健康で今のところ体調を崩したことはありませんし、特に私の推しであるパンダは元気すぎるくらいです。

 今日もエサの竹を食べたり、展示スペースを動き回ったりしてお客さまを楽しませている姿は「愛らしい」の一言に尽きますね。


 私にできるのは、そんな彼らの健康を陰から支えることくらいなので、これからも精一杯お世話しようと思っています。

 特に当園でも人気のあるパンダの元気がなければお客さまは純粋に楽しめないでしょうし、何より動物たちの苦しむ姿は見たくありません。


 だから今日も栄養バランスを考えたエサを与え、展示スペースを清潔に保ち、ストレスのない環境の維持に努めます。

 そうすれば動物たちは元気な姿を見せてくれますし、お客さまにも喜んでいただけます。

 ……なんだかアイドルのプロデュースみたいですね。


 以上、長くなりましたが、これで私の仕事の説明を終わりたいと思います。

 当園では、アイドル級の人気を誇るパンダをはじめ多くの動物たちがのびのびと暮らしているので、ぜひ一度お越しいただければこれほど嬉しいことはございません。


 我々従業員一同、お客さまのご来園を心よりお待ちしております。

 


 

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