第3話

キッチンにあるへこんだ鍋が見える位置にテーブルがある部屋の中。


コリティとセインは家で今話題のことについて話し合っていた。


ここ最近、どうみても放逐された令嬢がここの地区に住み出したのだが。


「別に触らなかったらいいじゃない」


やけに気にする男に首を傾げるコリティは、平民だ。


「それが一番ならよかったんだがな」


暗い顔を浮かべる美男子は昨日鍋で街の同級生達と丘を滑っていたようなお茶目な男だ。


男用のコップを取り出して、お茶を出しながら聞き流す。


鍋は当然ボコボコになって全員母親達に頭を殴られていたけど。


セインはうまく立ち回ってゲンコツを回避する小狡いやつである。


「セインの心配事がよくわからないわ」


「その女にいくつか質問して強烈な違和感と嫌な予感をおれは感受、いや受信した」


「そうなの?」


「ああ!」


彼は珍しく声を荒げる。


「よく聞け、最近ここには令嬢が入荷しただろうが。令嬢にはいくつかのパターン、シリーズがある」


「まるで玩具のようよ」


セインはため息を吐いて面倒そうに髪をかきあげる。


半月前に腹に、インクで顔を書いた同一人物とは思えない。


「令嬢のじじぃ、いや、祖父についての会話がチラッとでてきたせいで長話になった。いいか?令嬢シリーズにはな」


話をまとめると【令嬢】を【溺愛】する【祖父】または【祖母】がいるらしい。


しかし、令嬢が生家で虐げられている間、なぜかそれを軽く見たり、耳に入ってなかったり手が出せなかったとほざく【身内】の話。


そのくせ、令嬢に転機が起こると今までのことを棚にあげて全方位に復讐、報復、仕返しを行うらしい。


薬指の輪をくるりとしながら語る。


それは放逐した先の、平民街に及ぶことも少なくないとか。


蔑む話はあるにはあるが、殆どの対応は特に親しくならないように未知の物体を遠巻きに眺めるのが、関の山な対応。


セインはなにを心配しているのかというと、今の自分たちを見捨てた扱いするかもしれない身内が令嬢にいることだ。


「だからおれはその令嬢の汲み取り式洗濯機みたいな変身パーツジジイ……祖父のことを聞いて手紙を送った」


彼にしては珍しい。


コリティと同じく触らないタイプなのに。


「手のひらドリルジジイが迎えにくるまで待ってたら、報復発射範囲に入るかもしれない。今までお前のことを愛していたのじゃ。お前のことを虐げた奴らにメにものみせてやるわい、とか言われたら詰むんだよ」


愛していたと言う割に生家で影も形も助けなかったやつが、そういうこと平気で言ってやりすぎるんだよと頭をぐしゃぐしゃする。


ちょっと、いやかなり考えすぎな気がしなくもないけど。


彼が手紙を送った半月後、令嬢の家で豪華な馬車を見た。


セインはドヤ顔でどうだという仕草をしていたので、首を振る。


「な。作ったやつ渡したんだよな」


「形のいいクッキーを言われた通り渡して、がんばってねと言っておいたけど」


指示されて、セインの言う通りにした。


「そうしておいたら平民潰すの免じてやめてやるかの流れになるんだよ」


男のいうことがよくわからなかったけど、ある日家に手紙が送られてきてやけに豪華な紋章の栞が同封されていた。


いつものようにコリティは彼に伝えると、安堵していたので眉を下げる。


「よくしてくれて、ありがとうだって」


「令嬢が平民生活に戸惑ってて、コミュニティに入れなかっただけで潰されるなんて、ごめんだからな」


祖父らしき相手の手紙もあって、礼として書いてあり金額の書かれた紙があった。


これは、ここに好きなだけ数字を書けといいながら渡されるアイテムだ。


すでに記入されていて、金額に驚く。


それを見せればセインはハッと馬鹿にしたように鼻で笑う。


「やっぱり手のひらドリルはクズだったか」


「なに?」


「あのな。あの令嬢の父親は入婿。母親が正当な血筋って言ってた。つまりあの祖父は愛しながらも正当な血筋を回収したんだ。多分どっかに嫁がせるな」


「穿った見方なような……」


愛しているから迎えにきたのかも。


男は首を振る。


「人は一つだけの気持ちだけじゃなくていくつもある。確かに溺愛もあるんだろうが、貴族としても孫を使いたい気持ちもあるんだろうな。この金は口封じだ。ここにいた時のことは悪く言うなということや言うな、語るな、思い出すな、忘れろって意味もあるかもしれない」


「セインってアホなときがあるのになんでたまに天才になるの?」


「おれのことどう思ってるのか、説明する必要あった?」


平民の二人は渡されたお金の紙を見ながら、特になにか思い出す記憶もない令嬢のことなど言われずとも。


「つまるところ、この金で鍋を買える。な?」


言えるような会話すらなかったと、困ったように二人掛けのソファに座りながら締め括った。

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魅了は中途半端だから問題になるし平民のところに放り込まれても困る〜あからさまなやり方と溺愛祖父と追放令嬢について上品に語る平民のお気持ち〜 リーシャ @reesya

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