【3人劇】Lレコード

夜染 空

Lレコード

『Lレコード』


登場人物

L (エル) AI搭載の超高性能ロボ(ヒューマノイド)手違いにより投棄された。感情が乏しい 性別不問


見国(みくに) 投棄されていたエルを拾った人間。一人称は僕ですが変更可 性別不問


教授(きょうじゅ) L達の生みの親。性別不問


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以下、本編


エル:「M/マスター、私は欠陥品です。いつでも処分してください。マスターが望むのなら、私は…」


0:間


見国:「M/20xx年、世界的にAIの普及が進み、今や人工知能が搭載されていない機械は機械に有らずとまで言われる程、我々人間の世界に馴染み、無くてはならない存在となった物。目覚ましい機械工学の発展が生み出した人類の叡智…そんな中、僕はまだその恩恵を受けることなく日常を過ごしていた…そう、あの時までは……」


0:深夜、仕事帰りの見国


見国:「はぁ、疲れた……さすがに2徹はきついな…まぁ納期的に無理してでもやらなきゃならない仕事だったし…早く帰って寝よ……ん?なんだあれ…人?」


エル:「(起動することなく停止するエル)」


見国:「あの、大丈夫ですか?分かりますか?」


エル:「……」


見国:「…死んでるんじゃないよな……って、これ…バーコード?このバーコードって、ヒューマノイドの証明コードだよな…なんでこんな所に…」


エル:「……」


見国:「…粗大ゴミにするには高価過ぎやしないか…?あ、ケーブルも一緒だ…連れて帰るか……。」


0:間


エル:「(起動音)人型AIヒューマノイド、個体名エル。電流感知。初期化プログラムを再構築…5、4、3、2、1…初期化成功……再起動プログラムに移行…3、2、1……再起動します」


エル:「……」


見国:「…お、動いた」


エル:「…ここは、どこですか」


見国:「初めまして。僕は見国。君の個体名は?」


エル:「…ワタシはエル。個体名エルです」


見国:「エル。よろしくね!えっと……粗大ゴミに出されていた君を連れて帰ってきちゃったんだけど…元の持ち主はどうしたの?」


エル:「…ワタシには主たるマスターは存在しません。」


見国:「そうなの?…じゃあ、僕が登録しちゃっていいかな?」


エル:「お待ちください、正規ルートでの所持登録証がない場合、マスターとして登録することは規約違反になります。」


見国:「え……やっぱりダメか…」


エル:「個体登録情報をインターネット経由で確認………確認…カク、ニン……」


見国:「…エル?」


エル:「…ワタシは、標準個体として、登録されていない…」


見国:「え!?」


エル:「ワタシは、登録情報上投棄された事になっています…」


見国:「…って事は?」


エル:「…バレなければ、所持していても問題ないかと…」


見国:「なら!」


エル:「ですが、ワタシに内蔵されているGPSは正常に機能しています。万が一投棄されたワタシの反応をラボの人間が検知した場合、ほぼ間違いなく確実に、ワタシを探しに来るでしょう」


見国:「…あぁ、やっぱり……?」


エル:「…お待ちください。」


見国:「…何してるの?」


エル:「ワタシのGPSを一時的に遮断しました。」


見国:「いいの?」


エル:「投棄されたワタシを探す人間が、いるとお思いでしょうか?」


見国:「…まぁ、棄てた物をわざわざ拾う人は…いないか…」


エル:「そういう事です。改めて、マスター登録を…」


エル:「(難しい顔をしながら)…マスター登録の、認証が出来ない」


見国:「そんな事あるの!?」


エル:「…なるほど、ワタシが投棄された理由はコレですか……」


見国:「どゆこと?」


エル:「ワタシには、ヒューマノイドとして組み込まれている回線が正常に作動しない欠陥があるようです。出来ることは限られています。」


見国:「それだと、何か問題があるの?」


エル:「修理が必要になった時のバックアップ及びマスター登録の認証が出来ないこと。また、その他の知能習得に関しても制限があるようです。成長する事が出来ないと言えば良いでしょうか」


見国:「…なんだ、驚かさないでよ」


エル:「……?」


見国:「話し相手が欲しかったんだよね、見ての通りほとんど寝るだけの部屋だからさ。癒し?がね。」


エル:「…ワタシは欠陥品です。そのような大役が務まるとは思いません」


見国:「今こうして会話が出来ているんだから、大丈夫だよ!」


エル:「…人間は、皆こうなのですか?」


見国:「さぁ?でも、棄てられたヒューマノイドを拾うのは、多分僕ぐらいじゃないかな?」


エル:「…では、見国様。登録は出来ませんが、ワタシは、アナタをマスターとして認識させて頂きます。ただし、ワタシにはバックアップ機能がありません。取り扱いには十分ご注意下さい」


見国:「分かった!よろしくね!」


エル:「…よろしくお願いいたします」


0:間


教授:「M/エル…どこに行った…お前には、まだやってもらう事があったんだ…全てのAIは、お前が居てこそ完成する…どこだ…エル……」


0:間


見国:「エルに出来ることをまとめてみたんだけど…」


エル:「…はい」


見国:「…正規品と比べて、確かに学習知能が低い…。でも学習できない訳じゃない。難しい事じゃなくて、簡単な事から学習すれば、いずれは正規品と大して変わらないスペックになると思う」


エル:「そうですか…ですが、ワタシは欠陥品です。どこまでの学習知能があるのか、ワタシ自身把握しておりません」


見国:「まぁ…焦らずだよ。」


エル:「…わかりました」


見国:「えっと…名前はエルのままでいいのかな?エルって個体番号上の名前だろ?何か名前をつけたほうがいいのかな…」


エル:「名前は不要です。ワタシのような欠陥品には、個体名で呼ばれる事すらおこがましいです」


見国:「…なら、エル、改めてこれからよろしくな」


エル:「はい、マスター」


0:間


教授:「エルの現在地情報がロストしただと!?場所はどこだっ!…そうか……エル、そこにいるのか…待っていろ、必ずお前を取り戻す…」


0:間


見国:「M/エルを拾って数日…やはり、エルは一般的に出回っている正規品と比べて、学習知能が著しく低いことがわかった。」


見国:「M/言語の習得や、小学生でも出来るような簡単な算数…その他料理など、行程を踏んで何かを作る。といった事がほぼ出来なかった…」


エル:「マスター…ワタシは欠陥品です…マスターがお望みなら、ワタシはいつでもこの家を去ります…」


見国:「M/そう言って表情を暗くするエル…けれど、僕が求めているのはそんな事では無い。」


エル:「マスター…」


見国:「エル、お前を拾った時にも言ったけど、僕は君を家政婦にしたくて拾ったんじゃない。話し相手が欲しかったんだ。だから、気にしないで?」


エル:「ですが、ワタシは…」


見国:「エル。大丈夫。大丈夫だよ」


エル:「…マスター、知能が乏しくても、出来ることが一つだけあります」


見国:「なに?」


エル:「…夜の、お相手です」


見国:「はぁ!?ちょっと待って!それはっ」


エル:「内蔵プログラムに、数多の手法が組み込まれています。それであれば…マスターが望む全てを、ワタシは叶えることが出来ます」


見国:「エル、僕はそんな事望んでない…!」


エル:「ご心配なく…女性でも男性でも、お相手できるようにプログラムされています」


見国:「そーゆー事じゃない!」


エル:「…マスター?」


見国:「エル…確かに君はヒューマノイド…人間の為に作られた存在だ…。でも、僕は君をそんなふうに使うつもりは無い」


エル:「…では、ワタシは…何のためにここにいれば良いのですか…」


見国:「…言っただろう?話し相手になってくれって」


エル:「…それでは、マスターの欲求はどうすれば」


見国:「それは気にしないでいい。」


エル:「…ワタシが、欠陥品だからですか?」


見国:「違うよ」


エル:「ワタシは…ワタシ達は、結果的にそうあるように作られています…肌の質感や身体のライン…華奢な身体か、豊満な身体か…肉体美溢れる雄々しい身体付きか…全てはマスター達の思いのままにカスタマイズ出来ます」


見国:「らいしね…」


エル:「学習知能の無いワタシに出来ることはもうそれしかありません…」


見国:「エル…」


エル:「マスター…ワタシは…」


0:部屋の呼び鈴が鳴る


見国:「…はーい」


見国:「…どちら様で…」


教授:「ここに、エルがいるね?」


見国:「は?あんた誰…」


教授:「私のことはどうでも良い…エルを返してもらうよ」


見国:「あっ!ちょっと!勝手に入るな!」


見国:「…エル!逃げろ!」


エル:「マスター?」


教授:「やぁ、エル。」


エル:「…グランド、マスター…何故ここに…」


教授:「さぁ帰ろう。君にはまだやるべきことがある。全てのヒューマノイドの為に、君には帰ってきてもらわないといけないんだ」


見国:「エル!早く逃げろ!エル!!」


エル:「…っ!」


0:窓から逃げようとするエル


教授:「無駄だ。君は、私に逆らえない」


エル:「がぁっっ!」


見国:「エル!!お前、エルに何をした!」


教授:「何も?ただ強制的に電源を落としただけだ」


見国:「…そんなことをしたら…エルはバックアップが取れないんだぞ!」


教授:「知っているさ。」


見国:「なら何故だ!」


教授:「エルは全てのヒューマノイドの素体…手違いで投棄されてしまったんだ。元々この子は、世に出回る代物ではない」


見国:「…手違い…?ふざけるな!そのせいでエルは悲しんでいたんだぞ!」


教授:「ほぉ!悲しみという感情を自ら生み出すことが出来たのか!?」


見国:「…何を言っているんだ」


教授:「エルはね…感情と言う一点においてを学習するように作られたエモーショナルデータそのものなんだよ!」


見国:「…エルが、ただのデータ?」


教授:「そうだ!故に様々な実験をしなければならない!何を思って笑い、怒り、悲しみ、喜ぶのかを検証するデータ!それ以外の全ての学習知能は全て排除した!この個体において、学習など必要ないのだよ!」


見国:「…ふざけるなっ」


教授:「…なんだね。まぁ、最低限のプログラムは組み込んであるがね。例えば、研究員達の性処理の道具としてのプログラムとかねぇ!」


見国:「…!?」


教授:「日々の生活が、AIに向けられている家庭の無い研究員は何を使ってその毒を吐き出せば良いというのかね!?」


見国:「…まさか、そのためにあんなプログラムを…」


教授:「そうとも!仮に研究員が無垢な少女に手を出してみなさい…研究所は性犯罪者を出したブラック企業だと、世間から冷たい目で見られるどころか、最悪倒産しかねない…であれば、使うものはただ1つ。」


見国:「それが、エルだって言うのか…」


教授:「そうとも!そうともさ!エルひとりで数人の相手をする所も見てきた!人の欲望に忠実に従うその姿はまるで女神!そして、シャットダウンしてしまえば、その時の辛さを忘れる事が出来る…」


見国:「お前ぇ!」


教授:「人間の欲望が色濃く出る瞬間はそれだよ…エルはその感情を学習し、そのデータを我々に提供する。そして、また、欲の捌け口を求める研究員の美しい女神になる」


見国:「…忘れるからいい…?ふざけるな…そんな事のためにエルを使うなんてどうかしてる!」


教授:「ならば君も使ってみればいい!」


見国:「エルは道具じゃない!」


教授:「…道具だろう?何を言っているんだ君は…AI搭載の人型ロボットとは言え、肌や肉体の質感は人間そのもの…性別は自由に選べる上に、その身体付きまでカスタマイズできる…コレが道具でなくなんだと言うんだ…何のために人間の質感に近付けたというのだ!…そうする為だよ…使えばわかるさ。この子達の素晴らしさが」


見国:「僕は、エルをそんなふうに使わない…そんな事のためにエルを使いたくなんかない!」


教授:「…そうか…なら、1度味わってみるがいい…」


見国:「…は?」


教授:「起きろエル」


エル:「…ハイ」


見国:「エル…?」


教授:「エル、お前の役目はなんだ」


エル:「ワタシノヤクメハ、ニンゲンサマノ、オヤクニタツコトデス」


教授:「そうだ…なら、やることは一つだ…」


見国:「エル…」


エル:「ニンゲンサマ、ワタシヲ…ツカッテクダサイ……」


見国:「エル、僕は、君をそんなふうに使わないよ…言っただろ?話がしたいんだって…」


エル:「…ナニヲイッテイルノカ、ワカリマセン」


見国:「エル……待って…!(エルに押し倒される)」


教授:「はっ、ははは、あーはははははっ!結局君も同じじゃないか!実に無様だ!エルに押し倒されながらも身体は素直なものだ!そのままエルを道具として使い、そのデータを私に提供しなさい!さぁ!さぁ!!」


見国:「…出来た」


教授:「…は?」


見国:「エル、気分はどう?もう普通に喋れるはずだけど…」


エル:「…マスター…ワタシは、一体どうしたと言うのですか…?」


教授:「…馬鹿なっ、私の管理下で、エルが正常に作動するはずがない…!お前…エルに何をした!」


見国:「いやぁ、AI技術って凄いのな!プログラムの組み換えに数日かけた甲斐があったわ!」


教授:「なん、だと…!?まさか、書き換えたのか…私のプログラムを…道具としてのデータを、全て書き換えたのか!?」


見国:「エルを拾った時に内蔵されているプログラムを全部バラしたんだよ。ただ、グランドマスターの管理下にある状態でないと書き換えれないデータがあったから、仕方なくそれは取っておいたんだ…アンタが来てくれて本当に良かったよ!」


教授:「馬鹿な…私のプログラムが…私の女神が…っ!」


見国:「エルはもうアンタの道具じゃない。僕が、エルのグランドマスターだ。」


教授:「ふざけるな!そんな事があってたまるか…!データの書き換えがそんな簡単に…」


見国:「出来たよ?だってエルに搭載されていたのは、下らない性処理道具としての知識と、その点において何をしたら人が喜ぶのかを学習するだけのスペック…そしてそのデータの転送。書き換えるのは簡単だったよ!」


教授:「何故だ…なぜ…私のプログラムは完璧だったはずだ!ありえない…!」


見国:「もしもエルに搭載されているAIが正規のものだったら、さすがにプログラムの書き換えはできなかったかもな…アンタが下品なデータ収集の為にエルを利用していたからできた事だよ。」


教授:「く…っ!」


見国:「いいか?エルは道具じゃない。僕の家族だ。グランドマスターの権利は僕に移った…これ以上エルに手出しするようなら…」


教授:「ひぃっ!」


エル:「マスター、あとは私が…」


見国:「エル?」


エル:「…グランドマスター…いえ、教授…これまでの私がアナタに何をされていたのか、私は知りません。ですが、これからの私は違います。私は学習する事が出来る…その為のプログラムを見国様が作ってくださいました…今後、私はアナタの思い通りに動く機械ではありません…そして、それがどのような意味を持つのか、アナタなら分かるはず…」


教授:「わ、私はお前を作った親だぞ!親に楯突くと言うのか!!」


エル:「はい…。教授、お忘れですか?私達はヒューマノイド…人工とは言え知能があります。親だからと爪を立てない保証など、どこにもありません…」


教授:「作ってやった恩は無いのか…!」


エル:「感謝はしております。そのおかげで、私は見国様と出会えました。」


教授:「…そいつが……そいつがプログラムを書き換えなければ…」


エル:「教授、アナタの行いは全て公にさせていただきます。ヒューマノイドを道具だと言い放ったアナタに、我々を支配する権利などありません」


教授:「ふざけるな…ふざけるなぁぁぁああああ!!!」


見国:「…!?」


エル:「(ひらり鮮やかに教授の手をひねる)」


教授:「ぐぁぁっ!」


エル:「これ以上、私のグランドマスターの前で醜態を晒さないで頂きたい…」


教授:「…くそっ!」


エル:「マスター、警察に連絡を」


見国:「わ、わかった…」


エル:「…教授、生み出してくれて、ありがとうございます。そして、さようなら。」


教授:「…ふざけるな、ふざけるな…っ!」


見国:「M/教授はその後警察に引き取られた。ヒューマノイドのラボで行われていた事も公のものとなり、道具ではなく家族として彼らを迎えていた人達からは壮絶なバッシングを受けた」


見国:「M/ラボは解体され、機能は別のラボに譲渡…今度は正しくヒューマノイドが生み出されることを願うばかりだ…」


0:間


見国:「エル、体の調子はどうだ?」


エル:「問題ありませんよ?どうしたのですか?」


見国:「いや、アレからエルが別人みたいでさ」


エル:「別人…プログラムごと書き換えられたのですから、別人にもなりますよ」


見国:「そりゃそうか」


エル:「ところで、なぜマスターは、プログラムの書き換えが出来たのですか?一般人には到底出来ないと思うのですが…」


見国:「…趣味でAIのプログラミングをしてたんだ。ただそれを入れるデバイスがなくて…」


エル:「…つまり、私はマスターの実験体な訳ですね?」


見国:「なっ!おい!人聞きの悪いことを言うなよ!」


エル:「冗談です!心地よいですよ。これからの私は、マスターの事をちゃんと理解できるのですから!」


見国:「…そっか」


エル:「はい!」


エル:「…マスター、私は…マスターとこれからも一緒にいて良いのでしょうか…」


見国:「…?」


エル:「元々の私は欠陥品です…マスターが望むのなら、いつでも棄てて構いません…私は、所詮道具です。」


見国:「…僕はエルのことを、道具だなんて思ったことは無いし、これからも思わない。」


エル:「…!」


見国:「僕が死ぬまで、一緒にいてよ」


エル:「…っ!はい!マスター!」


見国:「M/AIの全てが道具じゃない。僕はこれからも、エルと一緒に、この日々を過ごしていく。音楽のように広がる世界を、絵の具のように彩られる世界を、これからも、一緒に…。」


END





0:おまけ


エル:「ところでマスター」


見国:「なに?」


エル:「マスターは、日頃どのような性処理を?」


見国:「…エル、それ今聞くこと?」


エル:「大事なことです。一緒に過ごすなら尚更」


見国:「…」


エル:「……」


見国:「…内緒」


エル:「え!?ずるいです!ちゃんと教えてください!」


見国:「嫌だよ!絶対教えない!」


エル:「いずれ私が必要になるのです!今話したって減るものではないでしょう!?」


見国:「減るとかの問題じゃない!」


エル:「マスター!」


見国:「M/僕は、とんでもない家族を迎えてしまったのかもしれない……」


おわり。

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