第14話 夏祭りと花火デート

 2010年8月5日、夏休み中盤。


 朝、目が覚めるとガラケーのバイブが枕元で震える。


 画面見ると、カレンダーが「8月5日」を示してる。


 …俺の誕生日だ。


 遊園地デートの時、彩愛が「誕生日、楽しみにしててね!何かすごいこと考えるから!」って笑顔で言ったのが頭に浮かぶ。


 どんなサプライズか分からないけど、朝から胸がドキドキしてる。


 窓開けると、蝉の声がけたたましく響いて、夏の熱気が部屋に流れ込んでくる。


 カーテン揺れて、外の青空が眩しい。


 母さんが台所から「悠翔、お誕生日おめでとう!」と、声をかけてくる。


「ありがと」って返すと、「ふーん、今年は彼女いる誕生日か。楽しみなんでしょ?」と、ニヤニヤ。


「うるさいって」って口では言うけど、心の中では楽しみにしていた。


 ガラケー見ると、彩愛からのメールが来てる。


『お誕生日おめでとう!今日、夕方6時に駅前ね。サプライズ企てたから楽しみにしてて!浴衣着てきてね、お願い!』って書いてある。


 笑顔の絵文字とハートが5つ並んでて、彩愛らしいなって思う。


「浴衣?」と呟いて、ちょっと驚く。


 母さんに「浴衣どこだっけ?」と聞くと、「クローゼットの奥だよ。彼女とデートならちゃんとしなさいね」って笑う。


 紺色の浴衣引っ張り出して、帯を適当に締める。


 鏡見ると、「まあ、ダサくないか」と満足。


『ありがとう。6時ね、楽しみにしてるよ。浴衣着ていく』って返すと、すぐ『やった!めっちゃ楽しみ!悠翔くんの浴衣姿楽しみにしてる!』って返信が来た。


 俺も彩愛の浴衣姿を想像して心臓がちょっと速くなる。



 ◇


 昼過ぎ、部屋でコミックス読んで時間を潰す。


 母さんが「悠翔、お昼は?」って聞いてくる。


「軽くでいいよ。デートあるから」って言うと、「ふーん、デートならお腹空かせておきなさいよ」と、ツナサンド持ってくる。


「ありがと」って食べてると、ガラケーがまた鳴る。


 友達のタカシから『誕生日おめでとう!遊ばねえ?』ってメール。


「今日は予定あるからまたな」って返すと、『おお、彼女か!楽しめよ!』って返ってくる。


 夕方5時、浴衣に着替えて駅に向かう。


 夏の陽射しが少し和らいで、夕暮れのオレンジが空に広がってる。


 浴衣の裾が歩くたびに揺れて、帯がちょっと緩い。


「ちゃんと着れてるかな?」って心配になる。


 駅前のロータリーに着くと、人が賑わってる。


 夏休みだし、地元の神社で今日、夏祭りがあるらしい。


 提灯の明かりが遠くに見えて、太鼓の音がドンドン聞こえてくる。


 通りすがりのおじさんが「若いの、浴衣似合ってるねえ」って声かけてきて、「あ、ありがとうございます」って照れながら返す。



 ◇


 6時ちょうど、改札前に立つ。


 紺の浴衣にガラケー持ってる俺。

中身は30歳なわけで少しだけ恥ずかしい。


 周りを見ると、祭りに行くっぽい浴衣姿の人がちらほら。


 すると、「悠翔くん!」って声がして、振り返ると彩愛が走ってくる。

【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818622172148206942


 薄紫の浴衣に、花柄の帯締めて、髪はポニーテールに赤いリボン。

手に小さな袋を持ってる。


 すると、「お誕生日おめでとう!」って笑顔で言われる。


「ありがと…彩愛…。浴衣…めっちゃ可愛いな」って言うと、「ほんと?浴衣、頑張ったんだから…//」と、帯触りながら顔赤くする。


「似合ってるよ。めっちゃ綺麗だ」と笑うと、「良かった…悠翔くんもかっこいいよ!浴衣似合うね…//」と、目を潤ませる。


「照れるな」って言うと、「えへへ、私も照れるよ…//」と笑う。


「で、サプライズって何?」と聞くと、「ふふ、秘密!ついてきてね!」と手を引いてくる。


「うん、楽しみにしておく」

「うん!たのしみにしてね!お祭りはリストにないけど、どうしても一緒に来たかったの!」と、目を輝かせる。


「マジか、嬉しいな。祭りって最高だろ」

「うん、悠翔くんと一緒ならもっと最高だよ!」


 手をつないで、神社までの道を歩き出す。

夕陽が提灯に映って、2010年の夏らしい雰囲気が広がってる。


 道端で子供がP●CCAのシャーペン持って走り回ってて、懐かしいなって思う。


 神社に着くと、境内が人で賑わってる。


 赤と白の提灯がずらっと並んで、焼きそばやたこ焼きの匂いが漂ってくる。


 太鼓の音と子供の笑い声が混ざって、夏祭りって感じだ。


「何から行く?」

「うーん、まずはたこ焼き!」

「おお、いいね。俺、奢るよ。誕生日だし」「え、ダメだよ!誕生日だから私が出すから!」と、喜ぶ。


 屋台のおじさんに「たこ焼き2つお願いします!」頼む。


「お似合いのカップルだねえ。はい、できたよ!」

「ありがとうございます!」


 熱々のたこ焼き、割り箸でつついて、「ふー、熱っ!」と、言いながら食べる。


「美味しいな」

「うん、めっちゃ美味しい!祭りのたこ焼きって特別だよね」

「一口ちょうだい」と言うと、「うん、はい!」と箸で持って俺の口に運んでくる。


「おお、ありがと。うまい!」って言うと、「えへへ、私も欲しい!」って彩愛が言うから、俺もたこ焼きあげると、「ん、美味しい…//」と、頬を染める。


「お前、可愛いな」と言うと、「やめてよ…//」って照れる。


「祭りの食べ物ってなんでこんな美味いんだろな」

「うん、雰囲気だよ!悠翔くんと一緒だからもっと美味しいのかも…//」


 次に、金魚すくいへ。


「やってみる?」

「うん、やりたい!昔、全然すくえなくて悔しかったんだ」

「じゃあ、今回は俺が取ってあげる」ってポイ持つ。


 紙がすぐ破れて、「うわ、下手すぎ!」と自分で笑うと、「悠翔くん、下手だね!私もやる!」と、彩愛が挑戦。


 3回やって1匹しか取れなくて、「あはは、私も下手!」と、2人で大笑い。


「仲良いねえ。金魚1匹プレゼントしとくよ」って袋に入れてくれる。


「ありがとうございます!」って2人で頭下げる。


「名前つけようぜ」と言うと、「うん、じゃあ…金ちゃん!」と彩愛が笑う。

「シンプルだな。いいよ、金ちゃん」


 焼きそばも買って、ベンチに座って食べる。


「祭りの焼きそばって独特だよな」

「うん、ソースの匂いがたまらないよね。悠翔くん、もっと食べなよ!」

「おお、ありがと。彩愛も食べなよ」

「うん、一緒に食べると美味しいね…//」


 屋台の明かりが浴衣に映って、2010年の夏祭りらしい雰囲気が最高だ。


 境内歩きながら、りんご飴買って半分こ。


「甘いな」って言うと、「うん、懐かしい味だね。子供の頃、祭りでお母さんにねだってたよ」って彩愛が言う。


「俺もだ。いつも一個じゃ足りなくて、駄々こねてた」って笑うと、「えへへ、悠翔くんの子供時代、想像すると可愛いね」と笑う。


「金魚すくい下手な子供の彩愛も見たかったな」

「うう、からかわないでよ…//」

「でも、今こうやって一緒に祭りに来れて嬉しいよ」

「うん、私も!最高だよね」


 少し離れたベンチに座って、彩愛がカバンの中を漁り始める。


「ん?どした?」

「え?…え?」と、何度もカバンの中を探すが、どうやら何かが見当たらないようだ。


「携帯落とした?」

「ち、違うの…!ゆ、指輪…買ったのに…落としちゃった…みたい」と、絶望した顔をする。


 どうやら俺の誕生日プレゼントを落としてしまったらしい。


「せっかく…買ったのに…」

「…とりあえず、戻りながら探してみるか。あと、落とし物センターとかさ」

「うん…」


 結局、きた道を戻っても見つからず、落とし物センターにも届いていないようだった。


 2人でそのまま祭りの会場を出て、少し離れた公園のベンチに座る。


「ごめん…なさい」

「…人混みすごかったもんな…。しょーがないよ。俺は2人で夏祭りに来れただけで十分だよ」と頭を撫でるが、彩愛は目に涙を溜めていた。


「…私…誕生日もちゃんと祝えないなんて…」

「気にしなくていいって。俺はもう十分もらったから…」と、優しく抱きしめた。


「…俺はこうしてるだけで幸せだよ」

「…ありがとう…//」


 そのまま、少し離れてキスをした。


 すると、ちらっと違う方向を見ると、煌々と光る建物が目に入る。


 …おい、こんなところにラブホあったのかよ。


 公園の雰囲気をぶち壊して…と、思っていると、彩愛も俺の視線に気づいてそちらを見る。


「ば、場所変えるか」と、立ちあがろうとすると、俺の浴衣の裾を引っ張った。


「ん?」

「…あ、あげられるもの…あった…。一生に一回だけの…//大事なもの//」と、彩愛はホテルを指差しながら、小さなカバンからコンドームを取り出してそう言った。

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