天下無双と恐れられた最強ヤンキー、金髪ロリっ子になる。
ななみん。
第1話
この
入学してわずかひと月だというのに、内外問わず喧嘩すること255連戦無敗。ド派手な金色の髪。整った容姿、それに加え身長は180オーバーであり学年問わず女子からの人気も高い。もはや彼を止められる生徒どころか教師などいやしないだろう。
そんな
「
今日も今日とて晃の前には敵が立ちはだかる。もっとも、彼にとって単なる石ころ以下の存在による決闘宣言でしかない。
「はっ、くだらねえ。秒で終わらせてやるよ」続けてクイクイっと小手先で挑発すると、
「いいからここで死ねや!」それを目の当たりにした相手は
そうして互いに拳を振り上げ交差する。
次の瞬間、不動の構えを見せる絶対王者に対し挑戦者は地に伏せた。
「ったく、ウォーミングアップにもなりゃしねえ」
晃は息ひとつ上がることなく場をあとにする。首の骨を鳴らす小気味のいい音だけを残して。
こうして人知れず256勝目を手にした。
「ねえ聞いた? 貴島君また勝ったんだって」
「怖そうに見えて女の子に優しいのポイント高いよね」
「わかるー。もうダメ元で告っちゃおうかな!」
翌日、女子生徒の間でそのような会話が繰り広げられているとは露知らず。
晃はいつものように堂々二時限目から登校する。
これには特別な理由があるわけではなく、低血圧ゆえ純粋に朝に弱く布団から出られないのだ。
遅れてやってくるヒーローを目に焼き付けたい生徒達は、授業そっちのけで窓際へと集まり団子状態に。後にこの現象は学院の風物詩となる。
「貴島君、よかったら一緒に……ってあれ?」
呆然と立ち尽くす女子生徒はさておき。
昼まで爆睡していた晃は、人目から逃れるように立ち入り禁止の屋上で一人弁当を食らう。
無理やり姉の霞から持たされた弁当を見られるわけにはいかない。
晃もまた思春期まっただなか。
そういうものを恥ずかしく思う気持ちは最強とはいえ歳相応なのだ。
「おいおい、なんの冗談だこれは……?」
とある日、気持ちよく目覚めたはずの晃は驚愕していた。
なぜなら鏡に映っているのは金髪の美少女で、その動きが自分のものと完全にシンクロしていたからだ。
「ふっふっふ。ようやくうまくいったようね!」
不敵な笑みを浮かべる女性がいつのまにか部屋の外に立っていた。
「おい姉貴。勝手に開けるなって言ってるだろ。そんなことより、俺になにをした?」
「もちろん一服盛りましたぁ! 女体化してしまうお薬ver.4をね!」
「てめぇまたかよ!」
晃は霞に掴みかかろうとするも、ただ両手をぐるぐると振り回している光景はもはや微笑ましい。
どう見ても力の差は歴然であり、晃は背後から抱きつかれてしまった。
「いやー可愛くなったね。本当お人形さんみたい」
「やめろっ! いいからさっさと離れろ!」
「まあまあまあまあ、まあまあまあ」
そんな大騒ぎがあったものの、晃はいつもどおり家を出た。
姉のお下がりの制服を身にまとい、無理やりセットされたツインテールを揺らし、大股で歩く姿がすれ違う人々の視線を集めたのは言うまでもない。
「わー、あきらちゃんかっわいい!」
「だから気安く頭に触んな!」
「怒った顔もいいね~」
「本当なんなんだよ、お前らは……!」
こんな扱われ方ばかりは当然
だが姿形が変わろうと俺は俺。喧嘩はできなくなったがやれることはあるはずだ。
晃は決してへこたれない。
この強靭なメンタルはもちろん彼を彼たらしめるものだ。
周囲の反応はというと、元々の人気の高さもあってか男女問わずすんなりと受け入れられている。
とはいえ、喧嘩できなくなったためストレスは溜まる一方。
最近では身軽さを生かしたダンスで体を動かし発散するようになった。
「前に仇討ちで挑んで負けたものです。よかったら付き合ってください!」
「知らねえよお前なんて。てか男と付き合うとか気持ちわりーんだよ!」
「もう一度きつめの言葉でお願いします!」
「この、死ね、最低でも三十回は死ねゴミクズ! クソ雑魚ダメカス人間!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
放課後。何回断っても、挙句激しく罵っても晃に群がる列が途絶えることはない。
なんなんだこいつら、完全にイカレてやがる……。
晃はこの日、生まれて初めて恐怖という感情を覚えたのだった。
天下無双と恐れられた最強ヤンキー、金髪ロリっ子になる。 ななみん。 @nanamin3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます