【KAC20255】踊る無双布団

ニイ

唯一つの手段

 俺の彼女、花咲まどかは、“布団の中では天下無双”である。


「布団入ったから、今日はもう動かないよ〜。わたし、寝モード突入〜!」


 そう言って布団にくるまったが最後、彼女は何をしても起き上がらない。

 テスト前だろうが、大雨だろうが、親が来ようが、布団の魔力には絶対勝てない女だ。


 でも、そんな彼女と唯一戦う手段がある。

 それが——ダンスバトルである。


「ダンスバトルしよっか」


「……は?」


 ぴくり、と布団が動いた。


「ほら、文化祭でダンスパフォーマンスやるって言ったじゃん。メンバー足りないんだって。まどかも出ようぜ」


「やだ〜。布団と心中するって決めたんだもん……」


「じゃあ勝負な。俺が勝ったら参加。まどかが勝ったら、今日の課題プリント俺が全部やる」


「……いいよ。寝ながらでも勝てるし、楽勝でしょ。」


 


 ——数分後。


「いっくぞー!」


 俺は部屋のど真ん中でステップを踏む。リズムは完璧、キレも悪くない……はず。

 スマホから流れるブレイク系ヒップホップに合わせて、フロアを使ったフットワークを見せつける!


「ふんふん……なるほどね?」


 布団の中から低くうなる声。次の瞬間——


 ズバァッ! 


 布団がはじけ飛んだ。


「——調子乗んなよ。ブレイクは、わたしの主戦場だって言ったよねぇ?」


「聞いた事ねえよ!?」


 まどかはTシャツ姿で床に飛び出すと、そのまま驚異のスピンを披露。

 チェアからのフットワーク、連続ウィンドミル、最後は片手バランスからのヘッドスピン未遂!


「かっ……かっこよすぎる……!」


「ダンスに負けるとか、絶対イヤ。だって、私は——布団の中でも外でも天下無双だからッ!!」


 完全敗北だった。

 布団から這い出てきた脱力彼女が、まさかバトルで俺をボコボコにするとは。

 こんな一面があったなんて


「……はぁ。じゃあ、出るよ。文化祭。汗かいたら、逆にスッキリしたわ」


 まどかはそう言って、俺の隣に腰を下ろした。


「てか、なんでそんなに誘ってくれたの?」


「……いや、やっぱさ。クラスで踊るの、どうせなら彼女と並んでたいだろ」


「ふふっ、そーいうとこ。……ちょっとは評価しといてあげる」


 文化祭、俺たちは並んで最前列。

 まどかのブレイクは、拍手喝采だった。


 ——たぶんこの子、布団の中でも外でも、ずっと俺の天下無双なんだと思う。

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