ある旅立ち

せとあきは

ある旅立ち

 今日は記念すべき俺の旅立ちの日だ!


 俺はついに冒険者となったのだ!


 英雄となり未来永劫語り継がれる――。


 そんな冒険者に俺はなりたい。


 冒険者組合の受付嬢はこの村随一の美少女である。


 英雄となり、この街に凱旋した暁には彼女に求婚しよう。


 俺には輝かしい未来が見えていた。


 組合所に隣接する居酒屋にはいつも酔い潰れているおっさんがいる。


 彼は昔冒険者だったそうだ。


 俺はそんな彼を軽蔑している。彼には冒険者として生きる度胸が無く逃げ帰って来たに違いない。彼に酒を奢ると無事帰ってくることができるという噂があった。


 だが、俺はそんなことをしない。


 それは俺には自分の力のみで生きて帰ってくる自信があるからだ!


 決して迷信なんか信じるわけにはいかないのだ。




 街を出てしばらく経った頃、ふとあの酔い潰れたおっさんがこっちを見ていたことを思い出してしまった。どうして彼は俺をあんな目で見ていたのだろうか。


 酔った虚ろな目ではなく、何かを哀れむような目をしていた。


 きっと、俺が酒を奢ってくれなかったのが気に障ったのだろう。何か引っかかる所を感じたが、俺はそう思うことにした。


 冒険者には仲間と冒険に向かう者と一人で向かう者がいる。


 俺には信じられる仲間が居なかった。


 だから俺は一人で冒険をするのだ。それに一人で冒険者する人達には英雄として讃えられている人が多い。


 俺は英雄になるのだ。


 街を少しでも離れてしまったら、そこからは危険が常に存在する世界が広がっている。あまりの危険に恐怖して一日で冒険から帰ってくる者は多い。もちろん、帰ってこなかったと言って冒険が無事進んでるわけでもない。


 街の外では人間の命なんてものはすぐに消えてしまうのだ。


 街を出て一日の距離なのにチラホラ白いモノを見かけた。それはかつて冒険者だったモノである。


 一日の夜の終わりに俺は一人の冒険が困難なことを思い知った。


 それは当然のことなのにどうして俺は気付かなかったのだろうと後悔した。


 眠るという行為がここまで大変なことだとは思わなかった。


 気配に眠りから覚め、気付いた時には周囲を囲まれていた。あいつらにとって俺は食い物でしかない。


 なぜだか、あのおっさんの哀れむ目が脳裏をよぎった。

   



「おいこのタグ見ろよ。これアイツだろう」


「あーいたな、そんな馬鹿」


「自分だけは違うと思って冒険に出たのだろうな」


「それが違うと最後にわかったことだろう」


「彼もこれで英雄だな」


「そうに違いねえ」


(了)

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