第13話 東京発AI到着
休日の学校の静寂を破るように、遠くから低く響くエンジン音が近づいてくる。
冬の冷たいアスファルトの上を、大型の輸送トラックがゆっくりと進んでいた。
車体の側面には、東京にあるアーク社のロゴが刻まれている。
トラックが、学校の正門前で静かに停車する。エンジンの音が途切れると、辺りは再び静寂に包まれた。しばらくして、運転席のドアが開き、運転手が降り立つ。その動作ひとつひとつが慎重で、この積み荷の重要性を物語っていた。
「来たか」
学校の玄関から現れた残路が、腕を組んでトラックを見上げる。いつものぶっきらぼうな口調だが、その視線は鋭く、わずかな緊張を帯びていた。
隣に立つ小鳩が、踵をあげ、つま先立ちになってトラックの積み荷を見つめている。
トラックの荷台が開かれる。そこには、厳重に梱包された金属製のコンテナが鎮座していた。冷たい風の中、それが静かに降ろされる。
コンテナのロックが外されると、中から慎重に取り出されたのは、透明なケースに入った漆黒のプロセッサーボードだった。無駄のない設計と細密な回路が、ただの機械ではないことを物語っている。
残路はボードの入ったケースを手に取り、光の加減を確かめるように角度を変えた。隣で覗き込む小鳩が、興味津々といった様子で尋ねる。
「これ……何?」
「最新型のAIプロセッサーボードだ」
「AI!?こいつが……」
物珍し気に、小鳩が残路の手の中を覗き込む。残路はボードを小鳩に店ながら言った。
「従来のものと比べて演算能力が飛躍的に向上している。情報処理速度は俺たちが今使ってるやつの……ざっと十倍ってとこか」
「十倍? そんなに?」
「処理速度だけじゃない。エネルギー効率も改善されてるし、神経回路のシミュレーション精度も段違いだ。これを使えば……」
残路は一瞬言葉を切り、じっとボードを見つめた。残路の横顔を、小鳩はそっと盗み見た。その瞳には、技術者としての冷静な分析と、それを超えた何かが宿っているような気がした。
「……今までとは違う領域に踏み込める」
「違う領域……」
小鳩はその言葉を繰り返しながら、目の前のボードを改めて見つめた。小鳩は、この小さな基板の中に広がる可能性を完全には理解できないでいた。だが、残路の口ぶりから、それが単なる性能向上ではないことは伝わってきた。
「で、これ、どうするの?」
「桜の根元に組み込むが……まずは動作チェックだ。下手に組み込んでトラブルになったら目も当てられないからな」
残路はボードケースを慎重に持ち上げると、歩き出した。その背中を追いかけながら、小鳩はドキドキと胸が高鳴るのを感じていた。
何かが変わる。そんな予感が、冬の冷たい空気とともに彼の肌を撫でていた。
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