魔法少女は、退屈な男性を満足させてあげるだけのお仕事です!

米太郎

第1話

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 私が魔法少女になって、悪いヤツをやっつけるっていう夢だ。おそらく、これが10回目ってことになるのかな?


 目の前に凶悪そうな大男。腕を一振りするだけで、ガードレールがひしゃげてしまった。

 周りにいた人たちも、蜂の子を散らすように逃げていって、私だけが取り残されている。


 足が震えて動けないでいる私のところに、モフモフした白い妖精さんがやってきて、話しかけてきた。



「やっぱりまた魔法少女になる決心をしてくれたんだね、白石アヤメっち!」


「なんだか、そうみたいだね……。全然覚えていないけど。つまりこの状況って、私が魔法少女になって、アイツを倒さないといけないってことだよね?」


「そうっす! アヤメっちは理解が早くていいっす!」


 気持ちの良い返事をするモフモフ妖精。


「魔法少女に関する話をするのも、9回目になるっすけど、また聞きます?」


「いや、しなくていいかな。なんだか、君の馴れ馴れしい感じも、懐かしい気がするな。このやり取りも何回もやってるってことかな?」


「ご名答っす!」



 モフモフは、小さな人差し指を立ててニコニコした顔になった。


「じゃあ、9回目なので省略するっす! 君は魔法少女! タイクツダーって敵をやっつける役目を担ってるっす! 世界をタイクツダーの手から救ってくださいっす!」


「とりあえず、OK。全然覚えてないけど、魔法少女のお決まりの感じで、変身してパンチとかキックとか、物理攻撃で倒せばいいんだよね?」



 私の質問に対して、モフモフは小さくため息をついた。

 もしかすると、このやり取りも9回目なのかもしれない。


「やっぱり覚えてないんすね。タイクツダーに物理攻撃は効かないっす。魔法なんかも全く効かない。効くのはのみっす!」


「精神攻擊?」



「そうっす! タイクツダーの心を満たしてあげれば、浄化されて消えるっす!」


「なるほど? つまり、なにをすれば良いの?」



「一発芸っす!」

「……はっ?」


 私たちの話している間に、大男はドスンドスンとこちらへと近づいてきていた。腕を振り上げて今にも攻撃して来ようとしている。



「とりあえず、変身も省略っす! 早く、一発芸をするっすーーー!」


「なにそれ、私わからないんだけどーーー!!」


「うー、それじゃあやっぱり、いつもと同じ流れになるっすよーー!」


 モフモフした妖精は慌てて私にステッキを持たせると、私の変身が強制的に始まった。

 変身している間は、時間が止まってくれるらしい。大男も動きを止めて私のことを見ていた。



 ――キュピピーン!


 身体が光りに包まれる。

 魔法少女の変身って、なにも分ってなくても身体が勝手に動くみたい。


 キラキラ光った右手を伸ばして、ピーン!

 左手もピーン!


 右足と左足も伸ばしてピーン!


 綺麗な大の字のポーズになるように、身体が動いた。



 なんだか、カッコよくはないポーズの気もするけれども、これがお決まりのポーズっていうことだね。

 精神攻撃が必要って言ってたけど、やっぱり変身して、実力行使していく流れかな?


 よーし!!

 タイクツダーなんて、コテンパンにやっつけちゃうぞ!


 変身が完了して、光がおさまった。



 早速気合いを入れて構えると、急に大男の方が光始めた。


「ウウォー……。アリガテェー……、ガンプクダー……」



 そう言って、大男は光に包まれて消えてしまった。私はまだなにもしていないのに……?


 モフモフした妖精は私の肩に乗っかり、話しかけてくる。


「やっぱりタイクツダーには、これが効くっすよね! アヤメっちの姿は、満足感が桁違いっす!」


「逆バニーガール……?」



 強制的に変身させられたのだけれども、逆バニーガールと言われた私の姿。

 その名の通り、バニーガールとは真逆の部分に布がある。


 大事な部分だけ隠されているのがバニーガールだけれども、逆バニーガールは姿だった。

 ぱっくりと開いた、上半身アンド下半身。


 なんで腕の先まで布があるの……?

 網タイツは長すぎるんですけど……?

 それなのに、大事な部分に布がない……?


 そんな姿を、大の字になって見せびらかしていたの、私……?



「これには、タイクツダーも大満足っす! 元の人間状態に戻ったサラリーマンも、『用事を思い出した』って言いながら、そそくさとトイレに向かったっす! さすがアヤメっち!」



「……モフモフくん。……君さ、これを9回も私にやってるの?」


「そうっす! アヤメっちは、稀代の魔法少女っす! 色気半端ないっす! 最高っす!!」



 とりあえず、興奮冷めやらないモフモフした妖精野郎を、魔法少女の力で握りつぶす。 ぬいぐるみみたいに、柔らかく潰れるモフモフ。


 もしもリンゴだとしたら、はじけ飛んでいたところなんだけどな。


「こんなもんやってられっかーーーーっ!! こんな魔法少女なんて絶対やりたくないわーーっ!! 記憶消して、元の姿に戻せーーーー!!!」



 次回は、絶対にやらないんだからっ!!!

 お嫁に行けなくなっちゃうよーー!!



 Fin

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魔法少女は、退屈な男性を満足させてあげるだけのお仕事です! 米太郎 @tahoshi

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