夢の中でも浮気になりますか?

一花カナウ・ただふみ

夢で逢瀬を重ねて

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 布団の中でため息をつく。私は焦っていた。婚約者のいる身でありながら、こんな不埒な夢を見続けるなんて。



 彼との出会いは舞踏会だった。婚約者と一緒に出席をした。

 自分よりも身分の高い相手からダンスの相手を求められたら、たとえ婚約者のいる身であっても受けなければならない。私は婚約者と恋愛関係ではないが、だからといって他の男性と踊るのは気が引けた。

 そんな私の思いを察してくれたのか、彼は緊張を解くようにリードしてくれる。さすがは天下無双と名高い騎士様だ。交渉や政治に長けている私の婚約者よりも体の使い方が上手い。

 恋をするなら、こんな人だったかも。

 武人の手が離れていく。名残惜しく思ったのは一瞬だけで、向こうも貴族の義務でダンスに誘ったのだと自分に言い聞かせてそれきりだった。



 そのはずなのに。

 私は頭を抱えている。夢の中での騎士様との逢瀬。

 屯所に彼を見に行ったのが最初の夢。二人でこっそりお茶会をしたのが次の夢。逢瀬の夢を見るたびに段々と距離が縮まって、さっき見たのがプロポーズをされる夢。口づけを迫られたところで私は拒み、彼は「式までお預けだね」と寂しげに微笑むのだった。

 夢には婚約者が登場しないものの、騎士様と結ばれることはどことなく忌避感を抱いていた。私は親が決めた婚約者のことを悪くは思っていないのだ。

 私は不安な気持ちを悟られないように起き上がるのだった。



 またこの夢だ。

 私は教会にいた。参列者が拍手をする中を私はゆっくりと進む。結婚式だ。私の視線の先には盛装の騎士様がいる。

 先に進むのが怖い。

 花嫁に向かって彼が手を差し伸べる。私はその手を取ろうとする、と。


「ペトリの降臨だ!」


 私が入ってきた教会の扉が勢いよく開いた。びっくりして見やると、婚約者ペトリの姿があった。

 騒然とする中、ペトリは私の手を取る。


「行こう、ベロニカ。彼との結婚は反故にするのだろう?」


 私は頷く。そして彼と一緒に駆け出した。

 これはすべて夢の話。結婚式の夢を最後に同じ夢を見ることもなくなった。

 私がこの夢の話を打ち明けて、ペトリが私の心を知るために魔法を掛けたと聞かされることになるのは、もっと先の話。

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