第5話 魔王軍幹部リリス

俺の仕事は清掃だけでは無い。

食堂で調理の手伝いもある。

魔王軍には専属の料理人がいるが、俺は彼らの仕事を手伝わなければならない。


「これ、ほんとに食べ物なのか?」


異世界の食材に苦戦しつつ、なんとか形にした料理を幹部たちに提供する。


ちなみにこの場にいる幹部は3人だが、魔王軍には幹部は全員で4人おり、現在は1人不在だそうだ。魔王と共に人間へ襲撃をしに出かけているらしい。




「........美味しい」


青髪の無口な魔術師――リリスがスープを一口飲み、小さく呟いた。


彼女は魔王軍幹部の一人で全魔族の中で魔王の次に魔力量が多いらしい。しかし、魔法について詳しくない俺は、それがどれほど凄いのかよく分からない。


普段は無口でほとんど喋ることは無いが、機嫌が良いとたまに喋ってくれる。彼女のように感情が読みにくい相手から褒められるのは、単純に嬉しい。


アイシャやクロエも満足そうに料理を頬張り、全て完食してくれた。



ーーー



そんなこんなで雑用をこなしつつ、俺は異世界らしい挑戦も始めていた。それが魔法だ。

きっかけは、偶然倉庫で見つけたボロボロの魔道書だった。



「魔法か........これが使えるようになればここを脱出できるんじゃないか....?」


この魔王城の監視体制はすごく、ここから逃げようとする裏切りものはすぐに殺される。


しかもこここの周りには魔王軍にも属していない、凶悪な魔物が多く潜んでいるという。

俺がここまで何にも出会わずに来れたのは奇跡ということだ。


そんなことを考えつつ、ページを開くと、何やら複雑な文字がびっしり書かれている。


正直言って、何を書いているのか一切分からなかったが、読んでいるうちに、呪文のようなものが頭に浮かんできた。


「火を灯せ........《ファイア》!」


意気込んで呟きながら手をかざしてみる。



……が、何も起こらない。


「まぁ、そんな簡単にはいかないよな」


とはいえ、諦める気にはなれなかった。せっかく異世界に来たのだから、魔法を覚えない手は無い。


その日から、俺は空いた時間を見つけては魔法の練習を始めた。


ーーー


そんな日々が続いたある夜。

ひと気のない倉庫で、ついに俺は小さな灯りを灯すことに成功した。


「やった........! 火が出た!」


指先に浮かぶ小さな炎。それは頼りないけれど、確かに俺の努力の結晶だった。


思わず声を上げたその瞬間、背後から気配を感じた。


「........何をしているの?」


振り返ると、リリスが立っていた。相変わらず無表情だが、その瞳はわずかに興味を示している。


「えっと、魔法の練習をしてて........少しだけ成功した、だけです」


そう答えると、彼女はゆっくりと近づいてきた。


「........それ、どうやったの?」


小さな声ながら、彼女の視線は俺の指先の小さな炎に釘付けだ。

俺はこれまでの試行錯誤を話す。


「........面白い........後で私の部屋に来て」


一体何が面白かったのか分からなかったが、たった一言、不穏な言葉を残して、リリスはその場を去っていった。


「魔族とはいえ女の子だろ....部屋なんて行ったらなんか言われるんじゃないか....?」


言われた以上は行かなければならないけれど正直気は進まなかった。

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