第40話 脱出

「行方不明者を発見できたは良いが、ここからどうやって出る?」

 

 俺は祟魔が過ぎ去ったことを確認しながら、2人に投げかける。

 課長や華南、織部たちにこのことを伝えるにはまずこの奈落から出なければならない。俺たちもいつ捕まるか分からないので、早めに出る方法を見つけておきたいところだが……。


「祟魔――モンスターがいるってことは、ここもある種の戦域っす。何かしら出られる方法はあるかと」

「んー……ここが戦域と仮定したら、セーブポイントが必ずどこかにあるはずじゃないかねぇ? ほら、セーブポイントには転送機能がついてるだろ」


 確かに戦域内には必ずと言って良いほど、セーブポイントが存在する。それを見つけることができたら、どこかの層に転移して出られる可能性は大いにあるはずだ。

 

「他に出られる手段も思いつきそうにないし、セーブポイントを探すしかねぇか」

「そうっすね。いくら北斗さんが回復してくれると言っても、油断は禁物っす。なるべく戦闘は避ける方向で行きましょう」


 見回り役の祟魔が周囲に居ないことを確かめ、先へ進む。マップの北側は粗方探索しつくしたので、残るは南側だ。

 セーブポイントらしきものが無いか探りながら岩に囲まれた通路を歩いていると、2体の祟魔がこっちに向かってきた。あっちはまだ気づいてはいないようだが、あそこを通らないと南には下がれない。

 

「ここは僕に任せるっすよ」

 

 ユウキはニヤリと笑みを浮かべながら、ウィザードからエンジニアへと姿を変える。白衣を身に纏った彼はポケットから手のひらサイズの球体を取り出すと、ボタンを押して祟魔たちに向かって投げた。

 飛んでいった球体は祟魔の足元に落ち、そこから黒煙が周囲に発生。祟魔たちの視界が塞がれる。

 

「今のうちっす!」

 

 気配遮断を用いながら、祟魔たちの間を通り抜ける。その後も、ユウキの爆撃地雷とドローンを駆使しながら探索を続け、約1時間。南側の探索もだいぶ終盤に差し掛かってきたその時。通路を挟んだ奥にセーブポイントらしき東屋を発見する。だが、通路の左側から2体の祟魔が接近して来ていた。

 

「ストップ。左の方から来るぞ」

 

 後ろのユウキと北斗に小声で止まるよう指示を出す。この奈落は比較的声が響く構造になっているので、自然と祟魔の話し声が耳に入ってきた。

 何か情報を得られるかもしれないと、俺たちは死角から聞き耳を立てる。

 

「いや~、白童子しらどうし様の下についてからは食糧に困ることも無くなったな」

「うんうん。加えて、職も与えて貰ったんだ。本当、有難てぇ話だよ」

 

 白童子……? 聞いたことない名前だが、下についてるってことはもしやそいつがここの城主なのか?


「イノ、そろそろ」

「あ、あぁ」


 考え込んでいたら、北斗に声を掛けられた。祟魔たちへ視線をやると、もうそこまで来ている。鉢合わせまで後、3秒。


 3、2、1……。


 ゼロになった瞬間、死角から飛び出して一気に接近。祟魔が手にしていた槍で突きを繰り出してくるも、瞬時に避けて背後を取り、首を絞める。ユウキと北斗も短剣と錫杖を使い、最短で仕留めることに成功。

 他に敵影が無いか確認し、セーブポイントへと駆け出す。

 

「よし、これで戻れるな」

「っすね。騒ぎになる前に早く出ちゃいましょう」


 俺たちがセーブポイントの中へ入ると《窓》が出現。第1層、第2層、第3層、第4層と項目が表示される中、俺は第4層のAランク非戦域を選択。転送が開始されるのだった。

 

 

 ◇◆◇◆


 

 第4層Aランク非戦域に到着した俺たちは、拠点のある裏通りを進む。最近は戦で物資の調達があるのか、荷車を引いた人々が行きかっていた。町家の店には徳川家のシンボルである三つ葉葵の紋が掲げられ、本格的に家康が天下統一を成し遂げているのが見受けられる。

 

 少し歩いたところで拠点に到着し、扉を開けて中へ入る。すると、中で織部と華南が待っていた。


「えらく遅かったな。もうとっくに退場時間を過ぎてるぞ」

「ホンマやで。どこ行ってたん?」

「説明すると長くなるから、詳しいことは課長への報告と一緒に話すでも構わないか?」

 

 呆れたような表情で言ってくる2人に対して、俺はそう告げる。


「……分かった。ひとまず、観文省に戻るとしよう。サナもそれで良いか?」

「ええよ」

 

 華南と織部が了承を貰えたところで、俺たちはダンジョンを後にした。

 


 ◇◆◇◆

 

 

 オフィスに戻り、課長と織部、華南に奈落であったことを報告し終えると、少ししてから課長が口を開いた。

 

「なるほど。城主の名は白童子というのかい」

「なんや酒吞童子みたいやな」

「華南と北斗は聞いたことあるか?」

「いや、無いな」

「俺もさっぱりだ」


 代報者歴が一番長い課長でも知らないらしい。祟魔の中にはみんなが知らないものもザラにいるが、怨級以上ということになれば祟魔の性質的にも代報者のみんなは知っていないとおかしくなる。

 キーボードを叩く音がオフィスに響く。と、パソコン画面に向かって睨めっこしているユウキが顔を上げた。

 

「んー、省庁のデータベースで検索かけてもこれと言って目ぼしいものはないっすね」

「だが、城主が怨級以上となれば、酒吞童子と同じ鬼の類のものかもしれないな」

「せやね」


 華南の発言に織部が同意する。酒吞童子といえば三大妖怪の1つ。童子という名前がつく鬼は他にも有名どころでは酒吞童子の配下の茨木童子などがいる。そいつらと同じ類なら、怨級以上でもおかしくはないだろう。

 

「どちらにせよ、最上層まで攻略を進めないといけないことには変わりない。奈落調査の件に関しては、ひとまず伏せる形で依頼主へ報告をお願いできるかな?」

「分かりました」


 伏せるってことは奈落調査の件は省いて伝えるべきだな。まぁここは無難に探しているが、未だに見つかっていない。捜索については継続する形で話せば良いだろう。

 

 退勤時間をとっくに過ぎているので、今日のところはここで解散ということになった。

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