小さなステージで

のっとん

小さなステージで

「わたしたち姉妹のアイドル! いちかアンド」

「ももかでーす!」


 わあっと歓声が上がった。

 狭いライブ会場に小さなステージ。お客さんは4人だけ。

 本当はもっとお客さんがいると嬉しいんだけど、少なくてもファンは大切にしないとね。


「みんなー! 今日はキラキラスターライブに来てくれてありがとう!」

「ありがとー!」


 わたしたちのMCにみんなが応えてくれる。

 それぞれ手に持ったポンポン付きの自作うちわや、ペンライトを振って盛り上がっている。ペンライトはわたしとお姉ちゃんのメンバーカラーピンクと水色だ。


「それじゃー歌を歌います!」


 お姉ちゃんがわたしの方を振り向いた。ライブ開始の合図だ。

 タブレットを操作すると曲が流れ始める。


「無敵の笑顔で荒らすメディア♪」


 最初はお姉ちゃんと順番に歌うことになっている。


「知りたいその秘密ミステリアス♪」


 ここは睨んで。よしっ! ポーズも完璧!

 今日のために、すっごく練習したんだから。みんなの目はわたしに釘付けになるはずよ。お姉ちゃんには負けないわ。




 一歩下がって。サビはお姉ちゃんのソロだからダンスで勝負よ。

 本当はわたしだって歌えるけど、お姉ちゃんが許してくれないから仕方ない。でもわたし負けない。わたしはダンスで勝負するんだか‥‥‥ら‥‥‥え?


 ライブ会場が消えた。天井が見える。木の模様が怖いおじいちゃん家の天井だ。

 ステージも消えた。おじいちゃん家の布団の匂いがする。

 背中が痛い。お姉ちゃんが心配そうな顔でこっちを見ている。わたし転んだんだ。


「うぅっ」


 鼻の奥がつんと痛くなる。

 大丈夫、大丈夫だから。頑張れももか。お姉ちゃんより上手くなって、みんなを釘付けにするんでしょ。


 目をぎゅっと瞑って涙を押し込むと、素早く立ち上がる。

 背中も、もう痛くない気がする。

 曲はまだ続いている‥‥‥大丈夫。まだ踊れる。


「だいじょーぶ!」


 こつんと頭に手を置いて笑顔を作る。ももか渾身のドジっこポーズだ。


「本当に大丈夫?」

「おねえちゃん、続けよ!」


 2回目のサビはわたしのソロパートだ。

 お姉ちゃんが少し下がって、わたしは中央へと躍り出る。布団が小さなステージへと戻っていく。


 見てて。わたしは天下無双のアイドルなんだから!

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小さなステージで のっとん @genkooyooshi

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