第5話

そんな俺を目を見開いて見つめてくるソウ達を居ないものとして、女だけに視点を合わせる。



「お前が、茉依?」



事前に聞いていた名前を呼べば、ピクリと震える女の体。



それなのに、



「そうだけど。あなたがカナ?」



意地でも逸らさないその瞳は、怯えるように揺れながらも僅かな光を保っている。



震える体。怯える瞳。



瞬時に男が怖いんだろうと悟った。




眉を顰める俺を不思議そうに見つめる瞳は、黒く濁っているのに、綺麗に見えて。



震えるぐらい怖いくせに、強気で虚勢を張る姿が酷く美しく思えた。




だからか、気付いた時には「哉希って呼べ。」勝手に口から言葉が溢れていて。



誰にも呼ばせなかった名前をこの女に呼ばせたい。心が強く訴えてきたんだ。




驚いて声を上げるソウ達にひとつずつ返事を返し、最後に女を見れば、頬を赤く染めていて。



純粋な反応が可愛いな。



柄じゃないとわかっていても、そんなことを思ってしまい、そんな自分に呆れながらも、悪くないなと素直にそう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る