もしも生まれ変われるならば
村雨
もしも生まれ変われるならば
あなたはいつも幸せそうだ。
わたしがあなたを眺めていると、あなたはきょろきょろ何かを探す。
そしてついにあなたの目線がわたしを見つけると、あなたの表情はそれはもう甘い幸せに満ちるのだ。
あなたはいつもひとりだ。
部屋が寒い日、薄暗い部屋であなたを眺める。
その背中がわたしを見ようとしないから、わたしはにゃんと鳴いて足に擦り寄る。
それでも何も喋らずに、ただゆっくりゆっくりとわたしの冷えた背を撫でるあなたを見た夜は、せめて隣りで眠るんだ。
あなたがわたしを探す。
「──」って名前を呼んで、きょろきょろ辺りを見渡して、しらばらく様子を眺めてみれば、焦ったように何度も「──」って、
仕方がないから飛び降りて、あなたの前でにゃんと鳴いたら、あなたの表情が安堵で染まった。
そんなあなたを、
そんなあなたをどうして独りにできるだろうか。
わたしの一生は、あなたの一生に寄り添うは短すぎるようで、わたしはあなたを置き去りにしてしまうらしい。
あなたは、あなたは何を思うだろうか。
同じことを思うだろうか。
それでもどうしても泣くのだろう。
わたしは最後に鳴いてあげられるだろうか。
駄目なんだ。
わたしが姿を消したなら、あなたはずっとわたしを探して「──」って呼び続けるだろうから。
それでもいつかはその日が来るから、
もしも生まれ変われるならば。
もしも生まれ変われるならば、わたしは人になりたいと思う。
あなたが猫になりたいというように、わたしだって人になりたい。
あなたの幸せに満ちた顔を、今度は私が撫で回してもいいだろう。
あなたが私を見ないならば、今度こそ抱き締めて背中を撫でてあげたいのだ。
今度はあなたの一生に寄り添えるように。
もしも生まれ変われるならば、
あなたの幸せに満ちた顔に触れたい。
あなたをわたしがひとりにしない。
今度こそは独りにしない。
もしも生まれ変われるならば、
今度もあなたと出会って、
あなたの日常に溶け込んで、
にゃんと鳴いたらどんな顔をするだろう。
あなたは何を思うだろうか。
もしも生まれ変われるならば 村雨 @murasame08
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