第7話

 ど、どうする? 弓を絞ったままわたしは固まる。

 チラッとエリスさまの方を見る。

 あれ、いないぞ。


 すると、なんとエリスさま、素早く跳んで、剣で熊の顔面をぶったたく。そのまま熊の背後にさらに跳ぶ。

 すごい、はやい、うまい。あれなら熊の牙も爪も届かない。だけれどだけど、あれは熊を怒らせるだけにならないかな。


 しかし、なんとなんと熊はキャインと犬のような悲鳴をあげて、森の奥へと走っていった。


 こ、これは幸運か。それともエリスさまの一撃が強烈だったのか。

 後者ということにしておこう。


 熊に襲われたわたしたちだけど(正確にはわたしが連れて来ちゃったんだけど)、このまま野営しようということになった。




「暗い森を移動するのは危険だ。熊がうろついていてもいなくてもね。このまま野営した方がいい。火を絶やさないように。わたしが寝ずに見張っておくから、モルナはきちんと休むんだよ」

 お優しいエリスさまはそう言ってくれるけど、2人で旅をしているんだから!


「じゃ、エリスさま。途中で見張り、交代しましょう。わたし先に寝ますから」


 そういって返事も聞かず、地面に敷いた毛布にくるまった。


「気にしないでゆっくりおやすみ」

「ぐぅ」

「えっ、早いな」


 珍しいエリスさまの驚く声を聞きながら、わたしは夢の世界へと跳んでいった。







 パチッ、パチッと木の爆ぜる音で目を覚ます。


「ん……」


 エリスさまが焚き火に照らされている。そして、わたしをじーっと見つめていた。


 わたしはバッと身を起こした。


「起きたかい、モルナ」

 エリスさまは疲れを感じさせない声音で言った。


「はい。よく寝ましたよ。さぁ、エリスさまも休んでください」


 わたしはそう言ったけど、エリスさまは首を振った。


「いいや。起きているよ心配だからね」


 熊のことを言っているのだろうか。わたしはエリスさまがいるから安心して眠れたけど、エリスさまはそうじゃないらしい。


 その事実に、わたしは寂しさを覚えた。


「エリスさま。わたしが見張りじゃ頼りないですか」


 エリスさまは目を丸く見開いた。

「そんなつもりじゃないんだ。わたしには君を守る責務があるからね。ソーンヒルの人々からお預かりした宝物だから」


 それを聞いて、わたしの身体は熱くなった。焚き火に近づきすぎたかな。


「だいじょーぶですって。もっと頼ってください! ほらほらちゃんと寝ないと疲れ取れませんよ」

 地面に敷いた毛布のほうにエリスさまをひっぱる。


 エリスさまは苦笑いを浮かべた。

「ああ、わかったよ。山猫姫。君を信頼していないなんてとんでもないよ。それじゃ、少し休ませてもらうね」


 そういってエリスさまは毛布に横になった。そして、マントを顔までかけて休まれた。


 ああ、残念。これじゃ寝顔が見れないな。


 あー! もしかしてエリスさま、ずーっとわたしの寝顔を見てた? そうだとしたら、恥ずかしすぎる!



 そうして見張りを続けていた。

 エリスさまは穏やかな寝息をたてていらっしゃる。わたしはマントをとって、寝顔をみたい欲求と戦っていた。


 いいかな、いいよね。エリスさまもずっと、わたしの寝顔みてたもんね(?)

 誰にともなくいいわけをしてしまう。そして、エリスさまをおおっているマントをつまんでぴらっとめくる。


 エリスさまはスー、スーっと規則正しい寝息をたてている。


 ちょっとめくっただけじゃちゃんと見えないな。もう少し……。


 いやまてわたし! 起きちゃったらどうすんだ!


 せっかくエリスさまがわたしを信頼して、見張りを任せてくれたんだ。真面目にやりなさい、わたし!






 結局わたしは眠らずに、悶々としながら夜明けを迎えた。


 マントの中で眠っていたエリスさまがにわかに起き上がった。



「おはよう、モルナ。見張りありがとう。安心してすっかり眠ってしまったよ」

 エリスさまはいつもの柔和な笑顔を見せてくれる。その言葉が、わたしには嬉しかった。


 それから馬に水を飲ませ、わたしたちも簡単な食事を取って出発した。もうすぐ森を抜けられるだろう。


 わたしとエリスさまは並んで馬を歩かせていた。


「モルナ、カミラ嬢のことだけど」

 エリスさまが唐突に切り出した。


 カミラ? どうしてここでカミラの名前がでるんだろう。


「カミラ嬢とはすごく仲が良いようだけど、一緒にいて長いのかな」


「はい! 子供のころから一緒ですよ!」

 わたしはカミラの顔を思い出した。たった一日会わないだけで、ものすごく遠い存在に感じた。


「なるほど。君とカミラの関係はすでに完成の域にあるよね。言葉も無く通じあったり、いつも本音でぶつかったり。ソーンヒルでは、ずっと君たちをみていたよ」


 たしかにカミラとは、姉妹のように仲が良い。ずっと同じ時間を過ごしていたし、ベッドで一緒に寝ていたし。もしかして、もしかしてだけれども、エリスさまもしかしてもしかして嫉妬している!?






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