第22話 セカンドルテナントライアン
「全滅?!ボス二……サラエボのリーゼ隊が、六機全て被撃墜!?」
いやいやいやいや、可笑しいだろ?(笑)初撃と偏差射撃しか攻撃の機は与えてないハズだ。
俺のブッ込みから逃れた敵機…ハインが居たとして(無論いないが)なんでイオタがハインごときに獲られる理由があんだっつーの……
『初撃で四機が蒸発、続く偏差の置き射撃に残る二機が獲られた感じだな』
「ファッキンケツ穴野郎共が……パイロットは?」
もう俺がサラエボ行って〆るしかねーだろアイツ等。
『四人は蒸発、二人は未帰還だ』
―――黙祷。
「……俺はどうすればいい?リーゼ無しの艦艇なんて只のブイだろう、俺が行くのか?」
『ああ、それはゾラが考える。お前は戻れ』
「ラジャっ」
ジュリアンとの通信を終え、帰投する。
拡張感覚にミアーハの位置がマーキングされる。
この拡張感覚……疑似現実感覚により宇宙を数十倍サイズ程度の巨人として感覚できる……によって、有視界機の欠点である下方の視界なども問題なく通っている。
「見えた、ランディング……誘導頼む」
着艦ルートが視界へとグリッドされてゆく。
ヒヤリ、と左右の闇に不気味さを感じた。
……いや、なんの根拠もない本能に根差す危機感だ。
正直なところ、只の怯懦に過ぎないのではないか。
「いやいや、帰投の瞬間を狙われるのが一番危険だ」
宇宙機雷、コンシールされた浮遊砲台に何つもの僚機が落とされていった。
ライアンの記憶。
「不思議だ…どの過去も全て自分のこととして違和感無く感じられる」
重力子アラートに耳を研ぎ澄ませながら着艦。
ハンガーではなく機体の駐機場へ停める。
「少尉、お疲れ様です」
「ルテナント?僕がですか?」
キャノピ―が上がるなり、整備士に歓待を受ける。
「ああ、実況ビューで見てたぜ。信じられん、ワケ分らん活躍だったぜ」
「恥ずかしいですね、どんな感じでした?・・・っと、ありがとうございます」
降りつつ、渡されたジュースの開けながらダベる。
「どんな感じ、って当事者だろが!あの鬼のような撃墜ショーの主役がどんなでした?って」
「いやいや、だって必死ですからなんも解りませんよ!リーゼなら兎も角、僕の機体なんて粒子砲弾の一撃で即バラバラですからね」
「へえ、必死になるだけでで20機のハインを一瞬で撃墜できるんなら、俺もロケット戦闘機のパイロットに志願してみるかあ」
「あ、お名前はなんて言うんですか?」
「ん?アスナ東寺だ」
え?アスナ??
目前の整備士、ムキムキマッチョな黒人の男性をしばらく見つめてしまった・・・薄い本が出たら大惨事が起こるかもしれない・・・いやいや、そんなんどうでもいいって!
僕はアスナ・・・トウジさんの両手を握る。
「二基のロケットブースターの完璧な同調、最高の加速でしたッ!重力の穴に突っ込んだアトは敵がみんな止まって見えましたよ。見事なシゴトをありがとうございます!」
「おっ、おお、そっかよかったぜ。でも出力同調はインジェクション周りからバーナー、アフター系の追加ジェットでいくらでも誤魔化せるからな、ソフトがイイんだよ燃調制御系の、な」
握りしめた両手を二回ほど降って、離し再びジュースのボトルを取る。
「そうなんですか?ヴァルナに居た時のマシンはフルスロくれる度にチャタと不快なシミ―で機体がビクンビクン脈動し出して真っすぐ飛ばすだけで信じられないくらい神経使ってましたけど・・・」
「ああ、そりゃあ機体のガタだな。コレだって五回も全力出撃すりゃもうポンコツだぜ?」
「そうですか・・・大事に乗らないと、ですね」
「おいおい、ヤレやガタを惜しんで死んでくれるなよ?ジオメトリーやアライメントは多関節のリーゼと違ってすぐ出せるんだ。機体の心配は命の次にしてくれよ」
「わかってますよ。・・・フフ、でも
「とんだスピード狂だなあwまぁ若いうちは・・・わかるぜ」
「あとこれも前の部隊のハナシなんですけど、片肺がクシャミを起こしたみたいになって不安定になるのって何が原因なんです?落ち着くか点火不能になると必ず毎回アフターバーナーが無くなってるんですけど」
「あーそりゃ燃調系の不具合だな。エアが多くなるとエンジン内の温度が上がり切ってバーナーやジェット類が溶け落ちちまうんだよ・・・てか加速中に失火とかヤバくねえか?」
「ええ、スピンで意識が落ちたりデブリに突っ込んだり・・・最悪でした」
「よく生きてられたな・・・全開から急なオフ、全閉を繰り返すとコイツでも起こりうるから気を付けろよ。オフ時は燃料がカットされるから筒内温度が余熱で急上昇・・・」
格納庫内に呼び出しコールが響き渡った。
『ライアン、ライアン少尉。大至急ブリッジへ来い。以上』
「えー・・・大事なハナシの途中なのに」
「フフ、機体も冷えたことだし俺もそろそろ整備に入りたい。行って来いよ」
「はい。すいません、また聞かせてください」
「ああいいさ。またな」
良い整備士、いい戦隊だ。
エレベータに乗り込み、ブリッジへ上がる。
「遅い!もう、やっぱりあたしより男同士で喋ってるほうが楽しいのね」
ゾラがおかんむりだ。
「抱きしめたいんだけど、いい?」
「駄目よ。あたしを拘束、制圧していいのは部屋の中だけ。少尉、報告しなさい」
敬礼する。
「ハッ!中尉殿。サラエボ隊と032宙域を哨戒機動中、敵性ハイン25機と遭遇、これを撃滅しその後基地を発見するも手を出せず帰艦してまいりました」
「うむ、ご苦労。カメラを見たが、随分と敵に奇麗な機体を残してやったのだな」
「ハイ、中尉殿。私の突撃速度では重粒子質量弾頭は弾速が遅く、使用に難がありますので」
光速度不変の法則だかで、レーザーしか使えんのだよな・・・つーかレーザーがどの速度からでも光の速さで飛んでくってのが実感はできても納得ができん・・・いや、信じてるし頼もしい兵装だけど。
「そうか。敵の基地を目前に撤退・・・転進したことといい、私はおまえに疑いを抱いている。いまだゲリラ共に気を通じているのでは・・・サラエボ隊の全滅にはお前の手引きがあったのではないか、とな」
「はっ、この身の不明、恥じるばかりであります」
まぁ、疑いってのは状況を感情で繋げてストーリーを作っちゃうもんだから、論理や現実的な行動機序の開陳じゃ無くすことは出来ないんだよなあみつを。
「今私が話したように、疑念は現実や時系列を無視した感情的な妄想から始まる。これを払しょくするには・・・どうすればいいかわかるか、少尉」
「はっ!以後も誠心誠意の献身を続けるだけであります」
「違うな。それでは次の裏切りのための雌伏と見られるだけだ」
「は・・・それ以外は・・・わかりません」
「そうか。では教えてやる。疑う者全てを殺し尽くせばよい」
「全然よくありません」
「フフ、安心したぞ。ならばもう衆目の前、橋の下で溺れた子犬を助けるしかあるまい」
「子犬、ですか・・・状況を理解すれば、弱り切った戦隊長殿をこの身を挺して助ければよい、そういうことですね」
・・・これはプライベートの行為後の甘い雰囲気の中でするべきやりとりなのでは?
そう疑問しながらゾラを見ると、彼女は赤面し、黙してしまっていた。
「うっふっふ、ゾラ戦隊長殿。勇者には労いと褒美が必要かと存じますが」
楽し気なまりんぬ艦長の声に押されるように、ゾラの口が開いた。
「あっ、ああ、そうだな。ライアン少尉、ご苦労だった。下がって休むがよい」
「ハッ!」
踵を返したところに、まりんぬ艦長の言葉が続いた。
「ゾラ隊長殿、戦後の勇者の猛りを鎮めるのは選ばれし女の役割、使命ですぞ。隊長が行けぬのであればこのまりんぬ、不詳ながら・・・」
「わかった、私に任せよ。後は頼んだぞ」
「はい」
腕を絡ませてきたゾラを引いて、僕の部屋へ向かう。
彼女を脱がすまで、僕たちは無言だった。
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