第13話 ユーミの事情

森の木立に置かれたベンチの上、男女四人が語り合っている。

爽やかな風に小鳥達の声が浚われていった。


「ユーミ、あなた・・・ジュリアンに改造・・・生き返らせられたのね」


「はい・・・気づいたらあの男達と河原でバーベキューをしていて」


「いきなり意味不明な状況ね」


「そうなんです。殺らなきゃ、ってエンリカさんの顔と一緒に思い出したんですけど」


ユーミの言葉の途中、エンリカが突然空を叩く音と共に立ち上がった。

そして大きく手を振り、森林映像に囲まれたレクリエーションルームの出口を指す。


「大尉!艦長!出て行ってください!」


「まぁまて、落ち着けよ中尉。我々はユーミ君に対しての責任がある」


「そーだ。エンリカ中尉のことは全面的に信頼しているが、ユーミ君はまだ不安定だろう。自らを害す自殺に偽装されることがないように男手として待機する。これはキャプテン宣言だ」


「ケンケン艦長、命令ではないのか?」


「俺自身に対してだからな。宣言が適当だろ?」


エンリカはため息を付き、座る。


「お二方とも、やはり若い娘がお好きなのですね」


クロードは顔を背け、答える。


「邪推だよ。わたしはハイティーンには・・・ハタチ前近い少女には興味がないのだ」


「若いと言ったらエンリカ中尉だろう。イエローは70までそのままの若さだというが」


「俗説、ただの流言飛語ですわ。生理的な機能の所為もあって、やはり老化は避けられません。骨格でそう見えるだけです・・・ユーミ、ごめんなさいね?話を続けて」


言いながらもユーミへの当りが柔らかく、余裕あるものに変化した。

男二人は無駄に精神感応を駆使し目を背け合いながらも精神のため息、サイコため息をつきあう。


「はっ、はい。その、そこに一緒に居たフランセットさんから僕が女であることを指摘されて・・・そこからまた意識が、場面が飛んで・・・お城のようなところでお茶を頂いていて」


「お城?ラブホテルではないの?」


「あっ、その、ラブホテルってわからないです・・・ごめんなさい」


エンリカの髪が一瞬立ち上がりかけたのを横目で見たクロードが、カットに入る。


「ラブホテルというのは男女が性行為を行うために45分ほど入る小城だ。中世の日本という国の文化的遺産らしい」


「えっ・・・そっ、そんな場所じゃありませんでした!」


忽ち顔を赤く染めたユーミが否定し、顔を伏せる。

その顔を、テーブルを這い下から全白眼で蛇のように伺いながらエンリカが口を開いた。


「白い城壁に青の尖塔がいくつも立つ、森の中の古城?おとぎ話に出てくる騎士のように装甲されたリーゼがフラフラしてる」


「フラフラしてるのか、そんなのが」


「・・・想像を絶するな」


「ひっ!・・・はっ、はい。どれもツァイみたいに顔が付いてて、一度使わせてもらったんですけど・・・」


ユーミは自らの両肘を抱くと、ぶるり震えた。


「・・・そう。アレは今の人類に使えるものじゃないんだけど、あなたは・・・って、そんな下らない事はどうでもいいのよ!ハナシを先へ!!」


エンリカが机を叩き、びくりと跳ねた三人の動揺を横目にカップに口を付ける。


「そこでゆっくり療養するうちに、あの男とフランセットさんに教えて貰いました。大気圏への突入で燃え尽きた僕をあの男が・・・魔法、で生き返らせたこと。そして何故か女として生き返ってしまったこと・・・あの男は、おまえは生理不順の女のように狂暴だったから、多分その姿が本来の正しい器なんじゃないかと言ってましたけど・・・でも確かにこの、女になってから同世代女子へのイラ立ちなんかは消えてしまいましたし、同性・・・男性へ対しての蔑むような侮りも感じなくなりました」


ミーユは一息つき、カップに口をつけ降ろすと、続けた。


「ただ、下血したときはびっくりしてこのまま死ぬのかと・・・」


「あー、小学生あるあるだよねー懐かしすぎる」


「お、今の中尉は女学生のようだぞ。いいな」


「そうですかあ?」


エンリカは無駄に語尾を伸ばしながら、気だるげにテーブルにヒジを着く。


「そうそう、そんな感じだ。いや、若い中尉もやはり素晴らしい」


「ふふ、今夜は中世の学生服でお邪魔しますね」


「楽しみだ」


クロードが割って入り、ユーミを促す。


「・・・では、ユーミくん続けてくれたまえ」


「この雰囲気で、ですか」


クロードの誘いに難を主張するミーユ。


「そうね、あなたが居た所はメレッセのお城ね。大地の・・・名前は忘れたけどオスギデス落下にも耐えきった要塞みたいなところよ」


「えっと、さっきのケンケン艦長とエンリカさんの雰囲気で言い辛くなっちゃったんですけど・・・その、そのお城でとても美しい男の子と出会ってしまって」


ユーミが頬を染め俯いた。


「あー!あーあーあーあー!ジーク!人類の宝石!あんたと同じ年じゃなかった?てゆーか、あなた・・・ユーミが男だったら負けて無かったのに・・・・・!ああああー!!!!!」


「・・・中尉が、僕の中尉が壊れてゆく・・・」


テーブルをガリガリを引っ掻きながら狂い悶える女の異様に、やりきれない視線を落とすユーミ。


がばっ!と身を起こしたエンリカは全白眼でユーミを注視し口を開いた。


「ひっ・・・」


「それでどうしたの?ひょっとして筆おろしへの協力を要請された?」


「はっ、はい・・・でも、わたしは男だったし。あんなステキな彼には似合わないからって・・・でも彼、ジークはすごい良い子で・・・こんなわたしでも大切に思ってくれて・・・」


すっかり一人称がわたしになってしまったミーユは染めた頬とは逆にすっかりと白く細くなってしまった手指と爪で、テーブルにのノ字を書き始めてしまった。


その乙女な様子にクロードの目がシェードの中で光る。


(拳ダコどころか直突き、指貫で鍛えた弾丸のような指先までまるで白魚のように艶めかしくも細く可憐に・・・惨いな・・・と、不味い!エンリカ中尉が)


般若のように歪んだエンリカの顔がキバを向きつつミーユに迫ってゆく。


「でも、そんな素敵なジークくんの初めてには世界で最高の女性を与えるべきじゃないですか!だから、エンリカさん!お願いしますっ!」


突如立ち上がったユーミがエンリカへ向き、頭を深く下ろした。


「あら、あたしは既に禁止されてんのよ、お兄・・・ジュリアン様に」


諦めたような声音に、しかし隠し切れない満悦を滲ませながらのたまうエンリカ。


「え・・・な、何故です?!男だったからこそ言えます!男のひとから見たら女神の化身にしか見えないエンリカさん以外に彼に相応しいひとなんて存在しません!」


「・・・だから、よ」


満足げにカップを口にし、エンリカは答えた。


「え?・・・あっ!」


「そう、初めてで最高のモノを与えられてしまったら・・・・・もう他の女には反応できなくなってしまうでしょう?だから・・・ね」


「そんな・・・でも、そのままジークと一緒になってしまえば」


「あら嫌よそんなの」


「えっ」


「あたしはケンケン艦長みたいな野性的な男がいいの。美しい男ならジュリアン様とあなたでもう食傷気味だったし・・・ま、あなたならいいわ。ジークとの交合、許してあげる。頑張りなさい」


いきましょ、とケンケンの腕を取り上げ、エンリカがレクルームを去っていった。



「・・・見事、だな。ユーミ君」


「いえ、なんかもうひたすらエンリカさんに誘導されてるばかりで・・・正解にむけて何回もダメだしされてましたし」


クロードが座るユーミと去っていったエンリカの消えた背中を何度も見くらべる。



「大したものだ、わたしには何も分からなかったよ」


「・・・今になって冷や汗が出てきました」


懐から取り出したハンカチで首回りをぬぐうユーミ。

そのハンカチの刺繍を何とはなしに目にいれながら 、クロードの思考は深く沈降して行く。


(クマさんのアップリケか……ならばおそらく下もそうだろう。…ふ、だからどうしたというのだ。ユーミは既にハイティーン、今はまだ見れてはいるが、この一年で骨格は様変わりするであろう、まるで肉食獣のよう精悍な様に……なればいっそ此処で)



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新登場リーゼ、NietzscheVii・ヴィー


FSSをパ……ハイジが昇天前に当時のメレッセ家当主であるジュリアンの母に脳髄を吸い出されていた時に、記憶に無駄に溜め込まれていた蔵書に登場していた終末兵器の見かけ上の仕様……ドラマ演出の美しさを狙った様式美を現リーゼ最先端の技術の粋を結集し作り上げられた変なロボット。


人口生命体はゼロからの再現に可能性が無かったため、ニュリンクと呼ばれるウラニオス……宇宙世代に発生した、集団的共感覚を肉体として器質的に備えた新人類……その内の極少数、アクティブな発振感応力を持つ個体を選別、強化した人間を用い、惑星や宇宙のあらゆる宙域で重い計算とセンサリングが必要になるパワーサプライやデバイス間のマネジメントを「なんとなく」という肌感で処理させている。

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