第6話 天野家・スーパー恵比寿屋屋上で

「天野のマツでだいじょーぶアリアリリリリ……」


「通信回路と音声回路をやられましたね。せっかくいっぱい言葉を覚えたのに……」

 ブツブツと文句を言いながら、パパはママからたくさんの回路を引き出して、自分のパソコンに繋いでいた。


「……ですが、頭脳回路に損傷はありません。こちらの言語は理解できますが、言葉が返せないだけです」

「だからここへ来られたんだな。ママ、良くやった」

 咲良が誉めると、ママはVサインををして見せる。


「頭脳回路が無事だっていうことは、わたしのダンスの振り付けデータも無事なんだな」

「自分のアニメの録画も残っているって事ですよね、良かった」

「……だから! ママをDVD代わりに使うには止めなさいって言ってあったでしょう! 保存は機密優先ですからね!」

 パパに叱られて、咲良と大雅は「ちぇー」と、揃って口をとがらせた。



 三丁目のスーパー恵比寿屋は、銀河ハイツから一番近いスーパーである。


 二階屋の建物は、一階が店舗で、二階は、事務所と従業員のロッカーと休憩室になっている。

 二階の上にある屋上は、貯水タンクと空調の室外機が並んでいるだけのもので、何ヶ月かに一度、点検の業者が上がる以外は従業員も来ない場所だ。

 もちろん建物内から屋上に出る扉には、常時鍵がかけてある。


 だからここが、天野家の第二基地に設定されているとは、誰にも気づかれていない。


 天野家の第一基地である「銀河ハイツ102号室」が機能不全におちいった時の退避場所として、この「スーパー恵比寿屋屋上」を設定してあったのだ。



 時間は午後5時を回り、辺りは夕闇に沈み始めている。

 夕方の買い物客の賑わいが、屋上まで聞こえていた。


「少し早いが、夕飯にしながら状況を整理しようか」

 咲良の声に、大雅はスーパーのレジ袋を取り出した。

 中はもちろん、おにぎりである。


「……ツナマヨが無い」

「すみません大佐、売り切れでした。鮭で我慢して下さい」

「おや、わさび昆布なんてあるんですね。珍しい」

「新商品だそうです、中尉。渋谷さんのオススメですよ。お茶どうします? 麦茶か緑茶か烏龍茶で……」

「レモンティーがいいな」

「咲良! ご飯の時に甘い物を飲んではいけません。麦茶にしなさい」


 すったもんだとしながらも、おにぎりを食べつつ、全員で各状況の共有を始める。


 まずはママ。

 銀河ハイツで布団屋に襲撃され、一時機麻痺状態となったママだったが、修復プログラムが起動して回復。

 布団屋が逃走した後、天野家の押入れに繋いであった異空間のチャンネルを、第二基地恵比寿屋スーパー屋上に設定して、自身も急行した。

 鍵をかけずに出て行ったのは、その学習が欠けていたからである。

「ママは、ひとりでお出かけしたことが無かったですからね」

 と、パパが言い訳した。


 次に大雅。

 中学校裏庭にてヤンチャ君との戦闘後、二丁目更科にて現状を確認。すぐに銀河ハイツ102号室へ戻り、留守番をしてくれた大塚さんと交代する。

 異空間チャンネルの変更先を確認し、パパのスマホに電話して状況を報告。後、家に鍵をかけ、恵比寿屋屋上にてママと合流した。


 そしてパパ。

 会社備品倉庫にて、女子社員と戦闘後、大雅からの電話にて状況を確認。

 会社を早退して、恵比寿屋屋上でママと大雅と合流、すぐにママの調整に入る。


 最後に咲良。

 私鉄高架下にておばさんと戦闘後、恵比寿屋屋上に直行。現在に至る。


「これまでの敵の行動と、今回の直接戦闘から導き出した答えなのだが、敵の司令官……いや、作戦統率をしているのは、電子頭脳もしくは電子頭脳を介して敵母星に居るものと考える。そのコネクターとなっている機器が、敵基地にあるはずだ」


 言って、咲良が二つ目のおにぎりを手に取った。


「大佐、それは……」

「そうだ軍曹。我々から敵基地に乗り込んで、機器を破壊する」

「いえ、その鮭、二つ目ですよね。鮭は一人ひとつでお願いします」

「えー、ツナマヨ我慢したのにー」

 ぶつくさ文句言いながら、咲良はおかかのおにぎりを取り出す。


「大佐が敵から奪った銃を解析しましたが、やはり親機との連動で転送させる仕組みですね。開けてみれば単純な作りです。この程度の科学力で、私のママをどうにかしようとしていたなんて…………」

 パパはその先の言葉をボソボソと小さい声で言った。


 咲良と大雅が近づいて耳を傾けると、パパはニッコリ笑って、

「子供は聞いちゃいけませんよ。R指定です」

 と、軽く片手を振った。

 あのパパが、ものすごーく怒っていることが分かって、咲良と大雅はちょっと震える。


「自分は敵のやり方が気に入りません。小型調査機の件も、アプリ実験の件も、今日の件も、我々が努力して築き上げた『普通』をないがし

にするものです」

 大雅が力強く言った。

 咲良がそれにうなずく。


「わたしも軍曹に同意だ。奴らの強引なやり口では、明日にでも大量の戦闘員を母星から転送させて、地球侵略を開始するかもしれない。そんな事になったら、我らの母星からも援軍を要請せざるを得なくなる。地球を巡って星間戦争が始まってしまうぞ」


 その時、ママと繋がっていたパパのパソコンが、「ピピーッ」と警告音を鳴らす。

 パパが画面を覗いた。

「大佐、敵基地の場所が判明しました」


 咲良が、ゆっくりと立ち上がった。


「地球に住む侵略者は、我々、天野家だけだということを、知らしめてやらねばなるまい」


「大佐、そういうのを地球では『天下無双』と言うんだそうです」

 大雅が言う。

「天の下にふたつと無い、という意味です」


「天の下とは、我ら天野家にもってこいの言葉ですね」

 パパが言った。


「そうだな」

 咲良が笑う。

 そして、


「総員戦闘準備。深夜を待って敵基地を奇襲、これを殲滅せんめつする。名付けて『天野家天下無双作戦』。我らの大切な普通を死守するぞ!」

 そう、高らかに発した。

 パパと大雅が敬礼で応える。


 天野家の決戦が今、始まる。


続く

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