第5話 咲良・私鉄高架下で

「わたしをどこに連れて行く気だ?」

「ちょっと遠くよ。銀河系の外までは行かないから、心配しないでね」

 おばさんはにっこりと笑う。


 そして二人は、私鉄の高架下に差し掛かった。

 高架の上では電車が引っ切り無しに走り抜けて行く。そのたびに大きな音が、反響している。


「ママ、武器転送」

 電車が通過する重い金属音の中で、咲良がママに命じた。

 だが、応答は無い。

 振り向いたおばさんの手には、銃のような武器があった。


「咲良ちゃんは、これが何だか分かるわよねぇ。撃たれたら、銀河の果てに飛んで行っちゃうわよ」

「そうだな。この擬態を強制放棄させられて、わたしの本体は貴様らの母星まで転送させられる……って寸法か」

「さすがね、大佐」

 おばさんは咲良の額に向けて、銃を構える。


「ママをどうした?」

「あのお人形は、布団屋が回収しているはずよ。とても素敵なお人形だものね」

 それを聞いた咲良は、烈火のような怒りをぶつける。


「何てことをするんだ、貴様らは! ダンスの振り付けは全部ママに記録してあるんだぞ! 明後日の本番までに復習できないじゃないか!」

「……は?」

 何を言われているか分からないおばさんは、きょとんとする。


「わたしが、明後日の本番で間違えたら、全部貴様らのせいだからな!」

「貴様こそ何を言っている?」

 おばさんは気を取り直して、ふたたび咲良に銃を向けた。


「さようなら咲良ちゃん」

 引き金にかかった指に力がこもる。

 また、電車が通って行った。


「ママの機能にはロックがかけられている。わたしが設定したキーワードでなければ解除できない」


 咲良の言葉にも、おばさんは指を外さない。

「ママが健全を保てなくなってから、一定の時間に対処が無ければ、自爆するようにプログラムされている。ママは言わば、我が星の軍事機密のかたまりだ。その流出を防止するために、部隊長たるわたしがそう設定した」


 おばさんの眉が少しだけ動く。


「ママを拘束してからどのくらい経った? 地球時間で30分過ぎると、自爆装置が稼働するぞ」


「そのキーワードを教えてもらおうか」

 向けた銃を下ろさずに、おばさんが言う。


 咲良は意を決して、口を開いた。


「じゅげむじゅげむごこうのすりきれかいじゃりすいぎょのすいぎょうまつうんらいまつふうらいまつくうねるところにすむところやぶらこうじのぶらこうじぱいぽぱいぽぱいぽのしゅーりんがんしゅーりんがんのぐーりんだいぐーりんだいのぽんぽこぴーのぽんぽこなのちょうきゅうめいのちょうすけ」


 おばさんは思いっきり眉をひそめる。

「……何を言っている?」

「だからキーワードだ。……何だ、覚えなかったのか?」

「そんなに長い言葉を覚えられる訳が無い!」

「地球の小学生はみんな覚えているんだぞ? 仕方無いな。もう一度言ってやろう。その銃には録音機能は付いていないのか?」


 咲良に言われて、おばさんはチラッと持っていた銃の方に視線を向ける。

 その一瞬の隙に、咲良は思いっきり銃を蹴り上げた。

 銃はおばさんの手からすっ飛んで、高架の壁に当たり、地面に転がる。


「くそっ!」

 拾おうと飛びつくおばさんを、もう一発蹴り倒して、咲良の手は銃を取った。

 うつぶせに倒れている身体に馬乗りになった咲良は、おばさんの後頭部に銃を付き当てる。


「撃てばいい。母星に帰るだけだ」

 おばさんが不敵に言った。

「弾丸を撃つだけが銃の攻撃では無い。これで相手を殴り倒すのも有効だ。……わたしの部下だったら基礎教練からやりなおさせるところだぞ」 

「……このクソガキッ!」

 悪態を吐いた次の瞬間、おばさんの身体は消えた。


「逃げたか」

 言って咲良は、ひとつ大きく息を吐いた。


続く

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