第2話【幕間】騎士団の受付け係

 レイジが受付けを去った直後。


「それにしても、あの人もよくやるわよねぇ」


 対応していたサンドラに対し、同僚で同じく受付け業務を担当するミリーが言う。


「騎士団に入ったからには前線に出てバリバリ戦いたいって思うのが普通じゃない?」

「でも、彼の仕事ぶりは上から評判がいいのよ?」


 ミリーを諭すように話すのはふたりの先輩でこちらも受付け担当をしているアンナだった。


「この前も一番隊のラジアル隊長が仕事の早さを褒めていたし」

「予備で持っていった、ほとんど未使用の武器や防具が野盗の手に渡って売りさばかれるっていうのは以前から問題視されていましたからね」


 サンドラが思い出したように呟くと、そこへアンナが情報を追加する。


「それが現在ではほとんど解消されているらしいわ。これも彼が頑張ってくれたおかげよ。おかげで補充用の予算を別にあてられるって経理の子も喜んでいたわ」

「いろんなところで感謝されているのね、彼」


 前線に出て敵を倒すという騎士らしい働きではなく、裏から仲間を支える縁の下の力持ちタイプ。

 それが騎士団におけるレイジの評価だった。


 むろん、戦えないヤツと見下す者もいるが、彼がいなければ困る場面も多々あり、隊長クラスからの評価も高いため表立って悪口を言うケースはほとんどない。


 レイジの話で盛り上がる三人だが、ここでひとりの女性が受付けを訪ねてくる。


「失礼します」


 凛とした声が受付けカウンターに届く。

 サンドラたちが振り返ると、そこには騎士団の制服に身を包んだ若い女性が立っていた。


 短い赤髪に切れ長の目。

 澄んだ青空のような瞳に射抜かれたサンドラはしばらく動けなかった。


「どうかしましたか?」

「あっ、い、いえ、すいません。なんでもないんです。それで、ご要件は?」


 サンドラが尋ねると、女性騎士は周囲をキョロキョロと見回し、お目当ての人物がいないと分かると彼女へこう告げた。


「人を捜しているんです。遺失物管理担当のレイジ・スプリングリバーという方なのですが」

「えっ?」


 今まさに話題の中心だった人物の名前が出て驚くサンドラ、ミリー、アンナの三人。


 一方、女性騎士はさらに続ける。


「彼は朝一番にここへ職務の確認に来るとうかがいました。ひと目お会いしたいと思ったのですが」

「残念だったわね。ついさっき新しい依頼をこなすために出ていったわ」

「そうですか……分かりました。では日を改めてまた来ます」


 女性騎士はそう告げると深々と頭を下げて立ち去っていった。 


「はあ……驚いた。あの子が噂のご令嬢みたいね」

「ご、ご令嬢!?」

「あれ? サンドラは知らなかったの? さっきの赤い髪の美人ってアイゼンバーグ家当主の愛娘なの。名前は確か……エルネスタ・アイゼンバーグ!」


 興奮気味に語るミリーだが、サンドラはあることに気がついた。


「アイゼンバーグって……」

「そうよ。今この騎士団を束ねているゴードン・アイゼンバーグ騎士団長の娘があの子なのよ」

「おまけに実力も相当なもので、騎士団でも選りすぐりのエリートが集まる一番隊へ配属されただけにとどまらず、条約改正のために隣国を訪問する外交大臣の護衛任務にも参加するらしいわ」


 リンドレー王国に暮らす者でアイゼンバーグの名を知らぬ者はいないだろう。


 代々騎士団の要職についてきた名門一族であり、特にエルネスタは歴代最強の呼び声が高い超天才であった。


「それにしても、なんであのご令嬢がレイジ・スプリングリバーを捜しているのかしら」

「何か訳ありって感じだったわねぇ」

「ひょっとして男女の交際にかかわる問題――なわけないわね。エルネスタ・アイゼンバーグといえば貴族からも縁談の話を持ちかけられているって噂だし、わざわざ騎士団の中でも一番縁遠い位置にいる彼と付き合うはずないか」

 

 ミリーはため息をつきながら自己完結。


 エルネスタが帰った後はいつも通りの業務へ戻る三人だったが――サンドラだけは少し複雑な心境を抱いていた。


「あの人……レイジさんに何の用があったんだろう……」


 そんなことばかり考えるサンドラは、この日ほとんど仕事に身が入らなかった。

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