第3話 業務連絡

 仕事からの帰還後にまず訪れるのは騎士団の倉庫だ。

 ロデウス高原近くの森から回収してきた物はここで武器と防具に分けて保管する。もちろん状態の良し悪しを吟味し、問題なければ再利用という流れだ。


 仕分け作業は担当者に任せ、俺は五番隊のアレックス隊長の執務室を訪れて回収任務が滞りなく終了したことと危うく野盗に奪われるところだったことを報告する。


「こちらが回収した武器や防具のリストになります」

「おぉ、助かるよ」

「それから、アレックス隊長はこちらをお探しでは?」

「うん? ――あっ!」


 俺は馬車の近くに落ちていた小さな麻袋を渡す。

 その中には一枚の紙が綺麗に折りたたまれていた。


「こいつは俺にとって大切なお守りなんだ」

「どういう効果があるんです?」

「いや、魔道具とかの類じゃない。最近、娘が妻と一緒に文字の読み書きを勉強していて、俺に励ましのメッセージを書いてくれたんだ」

「なるほど。それは絶対になくせませんね」

「その通りだ。しっかり胸ポケットにしまっておいたんだが、戻ってきたらボタンが引きちぎれていて戦闘中に落としちまったみたいで……娘になんて謝ったらいいかずっと考えて業務に身が入らないくらいだったよ」


 冗談っぽく言った後、アレックス隊長の表情が一変。

 父親から五番隊隊長の顔つきになった。


「しかし、相変わらず仕事が早いな」

「もう何年もやっていますからね。段取りは完璧ですよ」

「はっはっはっ! 頼もしい限りだ! 君のような存在がいてくれるからこそ、俺たちも存分に力を発揮できるってモンだ!」

「そう言っていただけると俺も嬉しいです」


 アレックス隊長は現騎士団長からも注目されている有望株。

 三十歳という若さで隊長職に就いているあたり、上からの期待の高さもうかがえる。


 それでいて偉ぶる素振りも見せず、俺みたいな下っ端騎士相手にも紳士的に対応してくれるので人望も厚かった。


 遺失物管理所のシモンズ所長とは別のベクトルで理想の上司と言えるだろう。


「今回もすべて回収できたか。君が遺失物管理担当となってからは本当に回収率が高くなったな。以前は半分も残っていれば大満足って数字だったのに」

「たまたまですよ。運がよかっただけです」


 ――実際はちょっとしたアイテムを駆使して効率的に武器の回収と運搬をやっているのだが、それを伝えると「そいつを応用して前線に立て」と命令が来て、今以上に忙しくなるだろうから黙っておく。


 報告を終えた俺はいつもの職場である遺失物管理所へ戻ろうとしたのだか、急に呼び止められる。


「ああそうだ。もうひとつ確認をしておきたいことがあったんだ」

「なんです?」

「君はエルネスタ・アイゼンバーグって知ってるか?」

「えっ? うーん……聞いたことあるような、ないような」


 少なくとも顔は思い浮かばない。

 でも、どこかで聞き覚えはあった。


 腕を組み、記憶の糸をたどっていると、アレックス隊長は苦笑いを浮かべながら口を開いた。


「知らないのならそれでいい。呼び止めて悪かったな」

「いえ、とんでもない。こちらこそ、もうここまで出かかっているのですが……」

「気にするな。むしろそちらの方が望ましいよ」


 知らない方が良いというのもおかしな話ではあるが、アレックス隊長がそれで納得してくれるというならこれ以上追求する必要もないだろう。


「では、失礼します」

「ご苦労様。また何かあった時は頼むよ。君を信頼しているからね」

「光栄です」


 一礼をしてから執務室を出て管理所へと向かうのだが……どうにも、さっきのアレックス隊長の反応が気になる。


「誰だったかなぁ……」


 出世とかまったく気にしてないから騎士団内の人脈ってほとんどないんだよな。

 たまに報告で顔を合わせる隊長クラスか受付の三人、それと直属の上司であるシモンズ所長くらいか。


 正直、騎士団長の名前さえうろ覚えだし。


 でも、そんな俺でさえ名前を知っているということは有望株かとんでもない落ちこぼれの二択になる。

 もしかしたら後者で、同じ遺失物管理所へ異動させるって話かもな。


 ……自分で言うのもなんだが、本当にうちへ流されてくるほど能力がないなら俺の耳に入っていてもよさそうなものだがな。


「まっ、そのうち分かるだろ」


 気にしてもしょうがないし、もうちょっとしたら定時だ。

 さっさと所長にも報告して帰り支度を始めるか。

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