勇者はエプロンが似合うんだってよ!

いまい あり

勇者はエプロンが似合うんだってよ!

 戦いを終えて岩場に座る一人の勇者がいた。これまで数々の異世界を平和にした男。人々は敬意を込めて「天下無双の勇者・ムラケマ様」と呼んだ。

だが勇者は戦い疲れていた。心で平穏な生活を望んでいた。


 その夜、勇者は奇妙な夢を見た。人の形をしたあやかしは勇者に向かって手招きをしている。相手の様子を伺いながら近づいてみた。


「夢なら怖いものなどない!」


妖は勇者が近づいてきたのを見てニッコリと笑った。

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」


妖は屋敷の中を案内する。ふわふわした白い世界。柔らかな感触の床。

勇者が知っている殺伐とした世界とは正反対だ。


妖は勇者を広い食堂に連れてきた。


「お食事はここで。ご自分の分だけ準備して食後の片付けもして下さい。」


招かれたと思ったがどうやら違うらしい。


次の部屋には寝心地がよさそうなベッドが用意されていた。


「眠る時はこちら」


とりあえず食事も寝所も用意されている。一体何なのか勇者はこの妖の意図が理解できない。


突然、妖は手に持ったピンクの布を差し出した。


「はい、エプロン。仕事は掃除、洗濯など家事全般です。洗濯は毎日、お布団とシーツは最低でも3日に一度は干すように!お庭の手入れもよろしく!」


掃除?洗濯だと?俺を一体誰だと思ってるんだ、この妖は!


「天下無双の勇者でしょ。でも先ほど岩場に腰を下ろしましたね。あれは精霊界の家政婦に応募した印です。そして見事採用されました。おめでとうございます!」


は?家政婦?俺が?勇者の俺が家政婦だと?

どう考えても不似合いだろ!


「平和な生活をお望みでしたね?精霊界の家政婦なら穏やかに暮らせます。ささ早くエプロンをつけてお仕事して下さい」


「いや、あの、でも、、」


「大丈夫!すぐ慣れます!一つだけ難を言えばピンクのエプロンは似合わないってことかしら。ふふっ」


「そう思うならはずせ!」


「それは家政婦の制服なので悪しからず!家政婦なので長い名前は呼びにくいので【むらっち】と呼ぶことにしますね!」



「うわぁぁぁやめろ!」勇者は手足をバタバタしながら抵抗した。


「まぁダンスするほど嬉しかったのですね。精霊の世界の時間は無限です。永久に平和な生活が確約されましたものね」

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勇者はエプロンが似合うんだってよ! いまい あり @hinaiori

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