幕間 偽装の考察

 続き


 【蘇芳】の能力についての考察です

――――――――――――――――――――――

 【Dr.アレク】は、【蘇芳】と【粉擬】が特に口を挟む様子が無い事を確認してから、考察の続きを語る。


 「《魔術》の直接的行使は不可だが、【魔導具アーティファクト】の使用による間接的行使が可能な事や、他者や【魔導具アーティファクト】が行使した《魔術》による影響を普通に受ける事を考えると、恐らくは【代償】の内容は、【【白瀬】自身が《魔術》を行使する上で必要な詠唱やコストを送受信する事が出来ない】とか辺りかな?


 多分、多少はズレていても近い筈だ。だからこそ、【魔導具アーティファクト】を経由すれば、間接的に《魔術》を行使出来ると考えられるからね。


 まぁ、【代償】の考察は此の程度で良いだろう。掘り下げた所で、克服なんて……出来ない。……うん、普通は・・・出来ないからな」


 最後に、何故か遠い眼をして口角が引き攣った歪な笑みになったが、直ぐに元の愉しげな笑みに戻る。


 【粉擬】は、今の表情の変化を見て記憶に引っ掛かる物を感じる。


 (口調に聞き覚えがある。確実に会った事があるだけでは無い。


 【終戦の探索者】と云う自称が事実だとしたら、……まさか……?)


 「……えっと、つまり……?」

 「【千姿万恰トイシェン】以外の《魔術》を始めとする力の元には、【白瀬】自身では接続出来ないって事か?」

 「其の考えで良いよ。


 まぁ、簡単に云うなら、【千姿万恰トイシェン】以外のサーバーには、一切アクセス出来ないスマホか何かみたいな感じかな?


 【魔導具アーティファクト】に関しては、燃料を提供しているだけで、接続するのは【魔導具アーティファクト】だから使えるって感じだと思われる」

「成る程な……」 


 【千姿万恰トイシェン】の【代償】に関する考察を聞いて、完全な理解が出来ていなかった【蘇芳】の戸惑いと疑問の声に、【粉擬】が簡単に纏めた答えを尋ね、【Dr.アレク】が分かり易いだろう例えを使って、【粉擬】の確認を肯定する。


 「……もしかして、例外がいる・・・・・んじゃない?」

「……確かに存在するよ・・・・・・・・。だけど、不可能だと思った方が良い」


 克服に関する部分で言い淀んだ理由を、実際に克服した者がいるのでは・・・・・・・・・・・・・・?と推測した【蘇芳】の問いに、 【Dr.アレク】は確かに克服した者がいる事は認めたものの、然し不可能だと答える。


 「理由は?」

 「【特異体質プログラム】を知らないのに、【能力コマンド】を問題無く弄れる訳ないだろ?」


 【粉擬】の問いに、そう簡単に答える。何かの比喩かと思ったが、【Dr.アレク】の表情からしてどうも何か違うらしいと感じる。


 (つまりは、そう答えられる根拠があると云う事だ。誰かが書いただろう記録では無い、確実に正しいと判断出来る根拠が)


 「悪いが此処までだ。そうだな……、君等は【まだ権限が足りない・・・・・・・・・】とだけ言わせて貰うよ」


 二人を見る【Dr.アレク】の表情に有無を言わせぬ迫力じみた物を感じて、其れ以上の追求を諦める。


 「では、本命といこう。


 【千姿万恰トイシェン】は、恐らくは【拾の大罪】と呼ばれる【王権】の一つである【虚飾】の系譜の【特異体質】だ。


 【虚飾】は【否定】や【虚偽】と云う概念を根源とする【特異体質】であり、虚実の境界を揺るがし反転させるとすら語られる、正しく神格に匹敵する能力とされている。


 あくまでも私の予想だが、【千姿万恰トイシェン】は【偽装】と云う、文字通り【偽りを装う、或いは纏う】概念を能力として発現させた【特異体質】であり、《魔術》の行使不可は、先程言った様に《魔術》を行使する為の力の大元との接続を【否定】した結果と考えると、……うん、恐らく間違っていない筈だ」

 「其れが全て正しいとして、何で貴方はそこまで確信を持って言えるの?その【虚飾】?に関する記録か何かを見たとか?」


 (いや、違う。もし、俺が今思い浮かべている奴の正体・・・・が正しいのなら、答えは――)


 【蘇芳】の当然の疑問。其れに対して答えたのは、【Dr.アレク】では無く【粉擬・・】だった。


 「――……いや・・実際に遭遇したから・・・・・・・・・、だろ?」

 「……そうだ・・・


 【蘇芳】にとって、其れは予想外の答えだった。だが、何故・・、【粉擬・・はそうだと思ったんだ・・・・・・・・・・


 「思い出したよ・・・・・・あんただったか・・・・・・・

 「やっと気付いたか。


 まぁ、互いに見てくれが・・・・・・・・変わっちまったからな・・・・・・・・・・


 どうやら知り合いだったらしい【粉擬】と【Dr.アレク】だったが、二人の間にある雰囲気は友好的と呼ぶには、主に【粉擬】が【Dr.アレク】に対して棘々しさを伴う、因縁と云うべき繋がりを感じさせる関係が垣間見える。


 「だが、此れで信用は出来るんじゃないか?」

 「嗚呼、信頼は出来ないがな」


 二人だけに通じるやり取りに、一人部外者の【蘇芳】は口を挟めない。


 【粉擬】が睨む様に【Dr.アレク】を見据え、其れに余裕のある笑みを返した状態で数秒程見つめ合い、不本意だと吐き捨てる様に【粉擬】が舌打ちして視線を逸らす。


 「確かにあんたは適任だ。其れは認めざるを得ない。


 だが、俺はお前を頼りたくなかったよ。【どっちつかずダブルクロス】」

 「其れでも頼るしか無いだろ?なら、諦めろよ」


 本心から【Dr.アレク】の知識と経験を元にして導き出される推測が必要だと理解しながらも、其れを認めたくないと態度と言葉で示す【粉擬】に、冷たく其れでも必要だろうと【Dr.アレク】が突き付ける。


 「分かっているさ。分かっているとも。俺が悪かった。続けてくれ」

 「まぁ、【彼女・・】にも頼まれていたからな。続けるぞ。


 【千姿万恰トイシェン】の推定される効果の有効範囲は、自身と接触している、又はしていた物まで適応されると考えられる。服とかにも恐らくは適応されていただろうからな。


 因みに、自身と服とか以外、例えば、そこにいる【粉擬】とかに接触せずに姿等を変化させた事は?」

 「……無い、筈。少なくとも、記憶にある範囲では自分だけしか能力は使えた事は無いよ」

 「なら、効果範囲は合っていると考えて良いだろうな。


 効果範囲を自身と接触した対象のみと考えるなら、【代償】の《魔術》不可と合わせて考えて、其の分、能力の出力はかなり大きくなると考えて良い。其れこそ、神格すら欺く程にね・・・・・・・・・

 『ザザッ、ブツッ。直ぐに使える様になると思うか?』

 「流石にそこまでは分からないさ。本人次第だろうよ」 


 割り込む様に【猟犬の召喚獣】を介して尋ねた【猟犬】の言葉に、【Dr.アレク】は肩を竦める。


 思案する様に沈黙した【猟犬】から視線を【蘇芳】と【粉擬】へと戻すと、考察を続ける。


 「先程も言ったが、【千姿万恰トイシェン】は【偽装】と云う、文字通り【偽りを装う、或いは纏う】概念を能力として発現させた【特異体質】だと考えられる。


 つまり、【偽装した認識や情報を・・・・・・・・・・対象に重ねて貼り付ける・・・・・・・・・・・】様な力だと考えて良い筈だ。仮に、【偽装した認識や情報で対象を上書きする】の様な改変系の能力なら、君は既に廃人か、自我を喪失した異形になり果てていただろうからね。


 恐怖や苦痛で能力が解除されるのは、単純に其れ等に意識が向いて、維持出来なくなるからじゃないかな?」

 「成る程な。確かに、今まで【白瀬】が使っていた能力を上澄みの様な物と考えて、其れを単純に強化した物と推測すると、そんな感じになるのか」

 「……え?待って?今まで黙って聞いていたけど、かなりヤバくない?私の能力」

 「完全にヤバいが??」


 【蘇芳】が、普段から使っていた自身の能力が、実はかなり強力な権能である可能性が高い事実に愕然とし、其れに今更かと【粉擬】が半眼で呆れた様に肯定する姿を見ながら、【Dr.アレク】は表情を真剣な物に変える。


 「懸念点としては、【偽装した認識や情報で対象を上書きする】を行使出来る可能性がある・・・・・・・・・・・事だ。


 上手く君等のボスが【偽装した認識や情報を対象に重ねて貼り付ける】能力だと認識させていた場合、或いは、【千姿万恰トイシェン】に其れを可能にする余地が存在していた場合、今、私が其の可能性を示唆した事で、【対象の上書き】、つまりは【対象を改変する事】が可能になったならば、真っ先に使用者である・・・・・・・・・・君自身が改変される可能性が高い・・・・・・・・・・・・・・・


 其の場合、制御を少しでもしくじれば、君は恐らく二度と元には戻れないと思って良い」

 「……虚実の境界を揺らぐ・・・・・・・・・からか」


 【蘇芳】は、其れを聞いてゾッとする。


 下手すれば、【蘇芳】では無い別の何かに変貌したまま、二度と【蘇芳】と云う存在には戻れない事を想像して、自身の存在が砂上の楼閣の様に不確かで、何かの拍子に容易く足元から崩れ落ちる様な錯覚に陥り、身を震わせる。


 其れに気付いている【粉擬】は、情報を少しでも増やす為に、【虚飾】と呼ばれる力を説明する時に出てきた権能、或いは【代償】である力の一つを思い出して口に出し、【Dr.アレク】が正解だと頷く。


 「そうだ。【虚飾】に連なる【特異体質者】に訪れる破滅の要因の多くが、自身の能力によって境界が崩れて所持者本来の存在が喪失して、抜け殻となるか、別の何かへと成り果てる事だ。


 そして、其の状態になって引き返せた例は殆ど無い。……其の能力故に、認識すら出来ていない事例が多く存在する可能性がある事から、実際の所は不明だがな。


 兎に角、君は【千姿万恰トイシェン】を【偽装した認識や情報を対象に重ねて貼り付ける】能力だと認識を固定するんだ。其れが君自身の存在を維持する楔になる」

 「どうやってよ?そもそも其れが出来たとして、本当に其れで大丈夫なの?


 ふとした拍子にしくじったら、私は私じゃない何かになるかも知れないんでしょ!?」


 恐怖で声を上ずらせて叫んだ【蘇芳】を落ち着かせる様に、【Dr.アレク】は【蘇芳】の眼を見て、笑って少し申し訳なさそうに続ける。


 「いや、散々脅す様な事を小難しく並べ立てといてアレなんだが、ぶっちゃけると、別に今まで通りの使い方で全く問題ないんだ」

 「はぁ?」

 「君等も分かっているとは思うが、【彼女】の直感と観察眼は私も一目置く程度には優れているからね。


 【彼女】の助言だったにしろ、君自身の本能的な物だったにしろ、今まで問題なく運用出来ていた時点で、態々わざわざ変に使い方を変える方が危険と云う物だ」

 「相変わらずの悪癖だよな。大戦時・・・から前置きとかが長くて仕方ない」

 「良いだろ?此れが一番、考えを纏め易いんだ。


 其れに、【彼女】が其の辺りが不向きだったから事、私を使ったんだろうからね」


 戦火に焼ける屍体と破壊された家屋が広がる過去を幻視しながら、其れを隠す様に幾らか意図的に呆れた声で文句を言う【粉擬】に、【Dr.アレク】肩を竦めて半笑いで其れに返す。


 「まぁ、良い。


 私個人の意見としては、【偽装】する情報を限りなく詳細にイメージして固定し、構成した情報ミームを薄い膜の様な感じで対象の表面を覆い隠す、と云う使い方だろうと思っている」

 「要するに、被せるなりたい物をちゃんとイメージする程、効果が上がるって事だろ?」

 「そう云う事。


 暗殺者や間者スパイとして対人や対組織だけでは無く、神話生物の様な存在に対する弱点となる武器があるとして、其れを悟られずに相手に攻撃する事が出来ると考えると、非常に優秀な能力だろうね」


 【蘇芳】は自身の掌を見下ろす。


 今まで、自身と共にあった力について突然、色々聞かされて未だに、完全には理解出来ているとは云えないが、取り敢えずは目指すべき方向性が示された事は分かった。


 脳裏に、エントランスに顕現した【邪神イゴーロナク】の姿がフラッシュバックする。


 恐怖で手が震える。


 其れでも、もし、此の力が通じるなら、其の時は……。


 【蘇芳】の心に恐怖では無い、別の感情が種火の様に小さく灯った。

――――――――――――――――――――――

 【千姿万恰トイシェン】、又は【準王権:【偽装】】

 ・自身と接触した対象に、情報の皮を付与する能力。


 ・情報の皮とは、物理的な物では無く、情報ミームを被せる例えであり、付与する皮に籠められた情報量次第では、対象の五感を完全に誤魔化して、情報元の存在だと誤認させる事を可能にするだろう。


 因みに、【Dr.アレク】さんは分類上は・・・・自己申告の通りの非異常の人間。

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