幕間 偽装の考察
続き
【蘇芳】の能力についての考察です
――――――――――――――――――――――
【Dr.アレク】は、【蘇芳】と【粉擬】が特に口を挟む様子が無い事を確認してから、考察の続きを語る。
「《魔術》の直接的行使は不可だが、【
多分、多少はズレていても近い筈だ。だからこそ、【
まぁ、【代償】の考察は此の程度で良いだろう。掘り下げた所で、克服なんて……出来ない。……うん、
最後に、何故か遠い眼をして口角が引き攣った歪な笑みになったが、直ぐに元の愉しげな笑みに戻る。
【粉擬】は、今の表情の変化を見て記憶に引っ掛かる物を感じる。
(口調に聞き覚えがある。確実に会った事があるだけでは無い。
【終戦の探索者】と云う自称が事実だとしたら、……まさか……?)
「……えっと、つまり……?」
「【
「其の考えで良いよ。
まぁ、簡単に云うなら、【
【
「成る程な……」
【
「……もしかして、
「……
克服に関する部分で言い淀んだ理由を、
「理由は?」
「【
【粉擬】の問いに、そう簡単に答える。何かの比喩かと思ったが、【Dr.アレク】の表情からしてどうも何か違うらしいと感じる。
(つまりは、そう答えられる根拠があると云う事だ。誰かが書いただろう記録では無い、確実に正しいと判断出来る根拠が)
「悪いが此処までだ。そうだな……、君等は【
二人を見る【Dr.アレク】の表情に有無を言わせぬ迫力じみた物を感じて、其れ以上の追求を諦める。
「では、本命といこう。
【
【虚飾】は【否定】や【虚偽】と云う概念を根源とする【特異体質】であり、虚実の境界を揺るがし反転させるとすら語られる、正しく神格に匹敵する能力とされている。
あくまでも私の予想だが、【
「其れが全て正しいとして、何で貴方はそこまで確信を持って言えるの?その【虚飾】?に関する記録か何かを見たとか?」
(いや、違う。もし、俺が今思い浮かべている
【蘇芳】の当然の疑問。其れに対して答えたのは、【Dr.アレク】では無く【
「――……
「……
【蘇芳】にとって、其れは予想外の答えだった。だが、
「
「やっと気付いたか。
まぁ、
どうやら知り合いだったらしい【粉擬】と【Dr.アレク】だったが、二人の間にある雰囲気は友好的と呼ぶには、主に【粉擬】が【Dr.アレク】に対して棘々しさを伴う、因縁と云うべき繋がりを感じさせる関係が垣間見える。
「だが、此れで信用は出来るんじゃないか?」
「嗚呼、信頼は出来ないがな」
二人だけに通じるやり取りに、一人部外者の【蘇芳】は口を挟めない。
【粉擬】が睨む様に【Dr.アレク】を見据え、其れに余裕のある笑みを返した状態で数秒程見つめ合い、不本意だと吐き捨てる様に【粉擬】が舌打ちして視線を逸らす。
「確かにあんたは適任だ。其れは認めざるを得ない。
だが、俺はお前を頼りたくなかったよ。【
「其れでも頼るしか無いだろ?なら、諦めろよ」
本心から【Dr.アレク】の知識と経験を元にして導き出される推測が必要だと理解しながらも、其れを認めたくないと態度と言葉で示す【粉擬】に、冷たく其れでも必要だろうと【Dr.アレク】が突き付ける。
「分かっているさ。分かっているとも。俺が悪かった。続けてくれ」
「まぁ、【
【
因みに、自身と服とか以外、例えば、そこにいる【粉擬】とかに接触せずに姿等を変化させた事は?」
「……無い、筈。少なくとも、記憶にある範囲では自分だけしか能力は使えた事は無いよ」
「なら、効果範囲は合っていると考えて良いだろうな。
効果範囲を自身と接触した対象のみと考えるなら、【代償】の《魔術》不可と合わせて考えて、其の分、能力の出力はかなり大きくなると考えて良い。其れこそ、
『ザザッ、ブツッ。直ぐに使える様になると思うか?』
「流石にそこまでは分からないさ。本人次第だろうよ」
割り込む様に【猟犬の召喚獣】を介して尋ねた【猟犬】の言葉に、【Dr.アレク】は肩を竦める。
思案する様に沈黙した【猟犬】から視線を【蘇芳】と【粉擬】へと戻すと、考察を続ける。
「先程も言ったが、【
つまり、【
恐怖や苦痛で能力が解除されるのは、単純に其れ等に意識が向いて、維持出来なくなるからじゃないかな?」
「成る程な。確かに、今まで【白瀬】が使っていた能力を上澄みの様な物と考えて、其れを単純に強化した物と推測すると、そんな感じになるのか」
「……え?待って?今まで黙って聞いていたけど、かなりヤバくない?私の能力」
「完全にヤバいが??」
【蘇芳】が、普段から使っていた自身の能力が、実はかなり強力な権能である可能性が高い事実に愕然とし、其れに今更かと【粉擬】が半眼で呆れた様に肯定する姿を見ながら、【Dr.アレク】は表情を真剣な物に変える。
「懸念点としては、【偽装した認識や情報で対象を上書きする】を
上手く君等のボスが【偽装した認識や情報を対象に重ねて貼り付ける】能力だと認識させていた場合、或いは、【
其の場合、制御を少しでもしくじれば、君は恐らく二度と元には戻れないと思って良い」
「……
【蘇芳】は、其れを聞いてゾッとする。
下手すれば、【蘇芳】では無い別の何かに変貌したまま、二度と【蘇芳】と云う存在には戻れない事を想像して、自身の存在が砂上の楼閣の様に不確かで、何かの拍子に容易く足元から崩れ落ちる様な錯覚に陥り、身を震わせる。
其れに気付いている【粉擬】は、情報を少しでも増やす為に、【虚飾】と呼ばれる力を説明する時に出てきた権能、或いは【代償】である力の一つを思い出して口に出し、【Dr.アレク】が正解だと頷く。
「そうだ。【虚飾】に連なる【特異体質者】に訪れる破滅の要因の多くが、自身の能力によって境界が崩れて所持者本来の存在が喪失して、抜け殻となるか、別の何かへと成り果てる事だ。
そして、其の状態になって引き返せた例は殆ど無い。……其の能力故に、認識すら出来ていない事例が多く存在する可能性がある事から、実際の所は不明だがな。
兎に角、君は【
「どうやってよ?そもそも其れが出来たとして、本当に其れで大丈夫なの?
ふとした拍子にしくじったら、私は私じゃない何かになるかも知れないんでしょ!?」
恐怖で声を上ずらせて叫んだ【蘇芳】を落ち着かせる様に、【Dr.アレク】は【蘇芳】の眼を見て、笑って少し申し訳なさそうに続ける。
「いや、散々脅す様な事を小難しく並べ立てといてアレなんだが、ぶっちゃけると、別に今まで通りの使い方で全く問題ないんだ」
「はぁ?」
「君等も分かっているとは思うが、【彼女】の直感と観察眼は私も一目置く程度には優れているからね。
【彼女】の助言だったにしろ、君自身の本能的な物だったにしろ、今まで問題なく運用出来ていた時点で、
「相変わらずの悪癖だよな。
「良いだろ?此れが一番、考えを纏め易いんだ。
其れに、【彼女】が其の辺りが不向きだったから事、私を使ったんだろうからね」
戦火に焼ける屍体と破壊された家屋が広がる過去を幻視しながら、其れを隠す様に幾らか意図的に呆れた声で文句を言う【粉擬】に、【Dr.アレク】肩を竦めて半笑いで其れに返す。
「まぁ、良い。
私個人の意見としては、【偽装】する情報を限りなく詳細にイメージして固定し、構成した
「要するに、被せるなりたい物をちゃんとイメージする程、効果が上がるって事だろ?」
「そう云う事。
暗殺者や
【蘇芳】は自身の掌を見下ろす。
今まで、自身と共にあった力について突然、色々聞かされて未だに、完全には理解出来ているとは云えないが、取り敢えずは目指すべき方向性が示された事は分かった。
脳裏に、エントランスに顕現した【
恐怖で手が震える。
其れでも、もし、此の力が通じるなら、其の時は……。
【蘇芳】の心に恐怖では無い、別の感情が種火の様に小さく灯った。
――――――――――――――――――――――
【
・自身と接触した対象に、情報の皮を付与する能力。
・情報の皮とは、物理的な物では無く、
因みに、【Dr.アレク】さんは
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