File.1.5 いつか黒豹と交わる者達の幕間
幕間 ある後輩の話
【株式会社
その日、一人の男が、同じ子会社の更に支店に勤める同僚や先輩達と共に、親会社の頂点である【D・カダスグループ本社】の会議室に集められていた。
男――【熊沢 純一郎】は、226cmと云う長躯の上に、鍛え上げられてがっちりとした筋肉質と云う正に熊の様な巨躯を、居心地悪そうに縮こませて、同じ様に戸惑いながらチラチラと周囲を見回す同僚達を見る。
特に役職も無く、特段重要な案件を取り扱ったりもしていない【熊沢】の様な子会社の一般社員が、今回、本来なら来られないだろう親会社に呼び出されれば、よほどの自信過剰者でも無ければ、誰だってこうなるだろう。
同僚や先輩達は、緊張を紛らわせる為か、机の上に出された珈琲に手を伸ばしては、渇いた口を湿らす様に少し飲む事を繰り返している。
【熊沢】は其れを横目に見ながら、自身の珈琲から立ち上る、冷めて薄くなっていく湯気に紛れる様に燻る【
【熊沢】が【青い火】を見るのは、此れが初めてでは無い。どう表現すれば適当なのかは分からないが、何と云うか、【普通では無い物】がそう見える様だと云う事が、今迄見てきて何となく分かった事だ。
どうやら、両親の血統的な物の影響らしいが、その両親も実の所、良く分かっていないらしい。
【熊沢】自身も、生きていく上で
そんな理由から、何となく目の前の珈琲を飲む事は避けたい事であり、他の者達の眼を盗んで、途中で買ったペットボトルの緑茶を飲んで渇きを癒していた。
「申し訳ありません。お待たせしました」
暫く待っていると、二度のノックの後に、眼鏡を掛けた髪をオールバックにした、スーツを着た細身の中年の男性が、ファイルを左手に持って数人の部下らしき男女と共に会議室に入って来る。
【熊沢】は、入って来た人物を見て役職を持つ者達が瞠目し、隠そうとしているが明らかに動揺している事に気付く。それ程、上層の役職を持つ人物だったからなのか、それとも此処にいる筈の無い人物だからなのかは、分からないが。
斯く云う【熊沢】も、
この時点で、【熊沢】は入ってきた男性が普通の人間では無い事を理解する。
部下らしき男女がこちらにファイルを配っている間に、男性は空いていた上座に座り、鋭さを感じさせる三白眼で会議室にいる面々を見回すと、持ってきた資料が入っているだろうファイルと共に、会話を録音する為なのか【ボイスレコーダー】を机の上に置く。
だが、その予想が間違っている事を【熊沢】が気付いたのは、その【ボイスレコーダー】から微かに聞こえる何かと共に、
【熊沢】は直感的に此れを聞いてはいけないと感じる。
第六感と云うべき感覚が、あの男や部屋から早急に逃げるべきだと警告するが、【熊沢】の正義感が独り逃げ出す事を躊躇わせ、更にそもそもあれ程迄に【青い炎】を纏う様な何かを持つ男から逃げ出せるかが疑問であった。
【熊沢】は、全員の視線が外れた一瞬の隙を突いて、耳栓代わりに無線イヤホンを耳に捩じ込む。幸いな事に、使っているイヤホンはかなり小型なので、耳を良く見られなければ直ぐには気付かれないだろう。
【熊沢】はポケットに入れているスマホを、記憶を頼りに右手で操作して、ボイスレコーダーから流れる音を掻き消す為に、声が聞こえる程度の大きさで適当な音楽を流す。
「皆様、今回は
さて、では早速ですが。【人事部】のシステム障害及び、其れによる人事異動で発生した問題についての、こちらの調査の中間報告です。
先ずは、――」
【五十嵐】と名乗った男が、ファイルを開いて中を資料を確認しながら、今回呼び出した理由だろう内容を話し始める。
室内に広がる【青い炎】が気になって、上の空の様な状態でファイルを開いて資料を眺める【熊沢】は、確かに何やら【人事部】で問題が起きたらしい事は聞いたな、と思い出す。
だが、態々自分達みたいな平社員を含めて、本社まで呼び出してする様な内容には思えない。更に云うなら、
「――次に、
後輩として先輩に向ける物とは別に、特別な感情を抱いている女性の名前を聞いた【熊沢】は、ハッして【五十嵐】を見る。
直後に視線に気付いた様に【五十嵐】の眼がこちらに向く気配を感じた【熊沢】は直ぐに手元の資料に視線を落とし、該当していると思われる資料を探す。
直ぐに見付かったその資料には、確かに自身が知る【豹ヶ崎 れい】の顔が写る証明写真があるが、その内容は記憶にある物とは違っている。
少なくとも、彼女は派遣社員では無く正社員だった筈だし、彼女自身の成果もあるにはあるが数が少なく、あっても共同成果の様な形になっている。
更に奇妙な事は、其れに対して特に違和感を訴える者がいない事か。いや、そもそも可怪しいと感じている様に見える者が誰一人居ない。
【熊沢】は、何となく【青い炎】として見える物が、認識や記憶に作用する様な物なのではないか?と思う。だからこそ、他の者達は違和感を感じていないのでは?
【熊沢】はどう行動すれば良いか分からず、焦燥に駆られる。
其れを感じ取ったのか、【五十嵐】は発言を途中で止めると立ち上がり、【熊沢】の前に移動する。
【五十嵐】は、動揺する【熊沢】を観察する様に無言で全体を見ると、一度手が一度も付けられていない珈琲が入ったカップを見て、最後に【熊沢】の赤茶色の眼を奥まで見通す様にジッと見る。
「どうやら、彼は体調が悪そうに見える。
【安達】君、私が彼を病院まで送っていくから、済まないが私の代わりに引き継いでくれないか?」
「分かりました。【【五十嵐】本部長】」
「あの、いえ、大丈夫なんですけど……!?」
【五十嵐】は、先程まで自身が座っていた席の後ろに立つ男性を向いて、説明を引き継ぐ様に指示を出すと、慌てて否定する【熊沢】へと再び向き直る。
「体調不良を甘く見てはいけませんよ。今から検査の為に移動するので、御自身で移動出来そうでしたら、立って私について来て下さい。
もし立てない様でしたら、幸いな事にその椅子はキャスターが着いているので、座って貰ったまま私が押して移動しましょう」
「……分かりました」
そんな事を言われてしまえば、【熊沢】は立つしか無く、渋々立ち上がる。
周りの同僚や先輩達は、何処かぼんやりした様子で【五十嵐】と【熊沢】のやり取りを見ているだけだ。
明らかに異常な部屋から出たい気持ちもあったので、気遣うと云うよりも、どちらかと云えば警戒している様に感じる【五十嵐】と共に出入り口へと向かう。
「どうぞ」
「あ、ありがとう御座います」
【五十嵐】が扉を開けてから廊下で一歩引いて、【熊沢】に出口を譲る。
【熊沢】は、軽く頭を下げると廊下に出る。
【五十嵐】は扉を閉めると、【熊沢】の方へと顔を向ける。そして、
「《諢剰ュ倥?蝟ェ螟ア 遨コ逋ス 騾皮オカ》」
【五十嵐】の口から、囁く様に早口に紡がれた其れを聞いた瞬間に、【熊沢】の視界が急激に暗くなり、意識が遠退いていく。
誰かが後ろから受け止めた様な気もしたが、其れが本当に起きた事なのか分からない。
最後に見た【五十嵐】の顔は、非常に険しく、何処か苦々しそうにも見えた。
――――――――――――――――――――――
効果としては、1D3ラウンドの間、対象を気絶させる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます