第17話 破壊
同じ人物に複数の呼び名が使用されております。【豹ヶ崎】=【濱家】、【一】=【佐宮】
そろそろ言って良いと思ったので公開しますが、シナリオ的に【一】はKPCの立ち位置なので、基本的には自分から行動しません
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異様な気配を放ち熱に浮かされた様に興奮した【一】の様子に、本能的な恐怖を感じた【豹ヶ崎】は無意識に立ち上がり一歩後退る。
直前まで座っていた椅子の脚を、踵で蹴った感覚と、それによって鳴ったガタリと云う音を聞いて、自身の無意識な一連の行動に【豹ヶ崎】は初めて気付く。
同時に【一】も、自身の様子を【豹ヶ崎】がどの様に感じているのかに気付いたのか、スイッチを切った様に直ぐに元の落ち着いた様子に戻る。
「失礼。取り乱しました」
「い、いえ……」
【豹ヶ崎】は恐怖と戸惑いが入り混じった声で何とか返す。
【一】の二重人格の様な二面性すら感じさせる豹変ぶりに、【豹ヶ崎】に巣食い始めていた不信感は叩き潰され、代わりに起爆条件が分からない潜在する狂気のトリガーが存在する事への緊張感と、それが起爆する兆候を察知する為の警戒心が植え付けられる。
「……当時、此処の探索していた一人でしてね。組織の方針や制約で手出しが出来ずにいたんですよ」
【豹ヶ崎】の緊張感と警戒心を感じ取った【一】が、少しバツが悪そうに眼を逸らして自嘲する様に笑い、先程の異常な様子になった理由を語る。
【豹ヶ崎】はその様子に、職務に私情を持ち込んだ事を気にしているのか?と思うと共に、本当は【
「そうですか……。なら、今度こそ終わらせましょう」
「頼みますね。
……因みになんですが、今回の研修は私の完全な独断専行です」
「それ大丈夫なんですか!?」
サラッと告げられた、【一】の組織に所属する者として割と洒落にならない行動の告白に対して、【豹ヶ崎】は思わず突っ込みを入れる。
再び不信感が芽生え掛けたが、そもそも【一】個人に対しては信用は余りなかったので誤差でしか無く、もしもの時は【五十嵐】に全力で謝った上で【一】に全ての責任がある事を伝えれば良いかと切り替えて、それ以上は考えない様にする。
……責任を押し付けられそうになったら、全力で抵抗する意志を、取り敢えずは今から固めて置くとしよう。
「コホンッ。さて、質問どうぞ?」
仕切り直す様に、些か態とらしい咳払いをした【一】は、何か聞きたい事はあるかと【豹ヶ崎】に問う。
「では、【あの魔法陣】を無力化する方法はありますか?」
【豹ヶ崎】の質問に、【一】は笑って答える。
「えぇ、ありますよ。しかもかなり簡単で、それこそ濡れた布で拭いただけでも、【魔法陣】を構成する血液インクは容易に拭い取れるでしょう。
魔法陣は、一部でも欠けたり、歪んだりすれば正常に機能しません。
少なくとも、【短剣】に手出しするよりもリスクも小さいです」
想像以上に簡単な無力化に繋がる情報だ。リスクが
「心配しなくても上司として、責任持って貴女をちゃんと生還させますよ」
「……信じますよ」
「えぇ、信じて下さい」
【豹ヶ崎】がその言葉とは裏腹に、【一】を信じていない事は、彼女自身も恐らくは感じ取っているのだろう。
……だからと云って、何故そんなに表情や雰囲気を態とらしい程に胡散臭くしているのだろうか?巫山戯ているのか?
とは云え、【魔法陣】を無力化する目処は立った。残り時間なんて物があるかは分からないが、直ぐに行動しよう。
【豹ヶ崎】はバケツに改めて水を入れる。
濡れた布で拭くだけでも良いと云われたので、鞄の中に入っていた雑巾でも問題無いのだろうが、手で持って拭くのは流石に危険だろう。何かモップの様な柄の付いた道具が必要だ。
「玄関にモップを取りに行きます」
「分かりました」
確か玄関にあった筈だと【豹ヶ崎】は思い出して玄関に向かう。下駄箱の横にある、掃除道具が収納されている場所を確認すると、記憶にある通りにモップがあった。
廊下を進み、【魔法陣のある部屋】を開けようとして、止まる。
「どうしましたか?」
「……一度、【恵居】が【アトリエ】にいるか、把握しておいた方が良いと思いまして」
「成る程。確かにそうですね。ではどうやって確認しますか?」
「それは……」
【豹ヶ崎】は最初は【アトリエ】の扉を僅かに開けて、直接見て室内にいるかを確認しようと思ったが、少しリスクが高いか?と考え直して扉から聞き耳を立てる事にした。
モップやバケツを置いて、【アトリエ】の前へと可能な限り足音を抑えて移動する。幸い床が軋んだり、うっかり大きな物音を立てたりする事無く、【アトリエ】の前に着いた。
【豹ヶ崎】は慎重に【アトリエ】の扉に耳を当てる。
集中して
慎重に扉から離れた【豹ヶ崎】は忍び歩きで【魔法陣のある部屋】の前に戻ると、部屋の扉を開ける。
あの忌々しい【魔法陣】は、【豹ヶ崎】と、連れ出す為に入った【一】から簒奪した《魔力》と【正気】の残滓を未だに消化しているかの様に、赤褐色の淡い燐光を放っている。
【豹ヶ崎】は、欠損させて大丈夫なのか?と【一】に視線を向けて無言で問う。対する【一】がそれを正確に読み取ったかは分からないが、無言で肯定する様に頷いた。
その動作を見て、問題無いと判断した【豹ヶ崎】は【魔法陣】の破壊に動く。
モップをバケツに入れて濡らすと、水が滴り落ちるそれを手前にある【魔法陣】の線の上に置く。
……《魔力》や【正気】が奪われる様な感覚は感じない。保険程度だったが、どうやら意味があった様だ。
モップの柄を握る手に力を籠める。
モップの先を動かすと、拒絶する様に【魔法陣】の赤褐色の光が明滅し、古い映像を再生した際に発生する砂嵐の様なノイズが室内にちらつき始める。
それでも、【豹ヶ崎】はそんな事は《魔力》や【正気】を削り奪われる事に比べれば、些細な事だと構わずにモップで【魔法陣】を擦る。
【魔法陣】の明滅の間隔が早まり、室内のノイズが増加する。明らかに不安定になっていく【魔法陣】を前に、【豹ヶ崎】は一心に破壊する為に擦り続ける。
パチパチと焚き火や放電の様な小さく爆ぜる音が鳴り始める。そして、
バチンッ!!
と一際大きく爆ぜる、或いは大きな力に引っ張られていた物が耐えきれずに千切れた様な音が室内に鳴り響くと、【魔法陣】が力を失った様に赤褐色の輝きと室内のノイズが消失する。
床を見れば、モップで擦っていた場所の【魔法陣】の紋様は崩れて、水で滲んで薄まった赤褐色の塗料が広がっている。
【豹ヶ崎】が確認する様に【一】へと顔を向けると、【一】は肯定する様に微笑んで頷く。
『グア゙ァ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙〜〜ッ!!?』
苦悶に満ちた、喉を締め上げた様な【恵居】の絶叫が響き渡る。
同時に、部屋の中央に横たわる【短剣】が突き立つ【複製体】の身体が、急速に分解されて溶けた様に崩れて、腐敗した汚泥の様に変化する。
ふと、正面にある【壁の絵】を見れば、先程まで感じていた様な感覚は無く、何の力も感じられない。
この瞬間、【豹ヶ崎】は【魔法陣】が確かに破壊されて無力化出来た事を理解した。
後は【アトリエ】で【恵居】との決着を着けるだけだろう。ならば、万全の態勢で挑むべきだ。
「一応、聞きますけど、【恵居】はどうやって拘束するんですか?」
「忘れたんですか?我々に法は適用されませんよ?
目的を達成する為の手段は問われませんし、その過程で遭遇した脅威は排除せねばなりません」
「……ならば、使えそうな物を回収する必要がありますね」
【豹ヶ崎】は恐る恐る部屋に入る。
……何も起きない。【魔法陣】はやはり完全に無力化された様だ。
【豹ヶ崎】は【薬品棚】を調べる。
中には、【硫酸】や【水酸化ナトリウム】、【グリセリン】や【水銀】等の一般人でも知っている様な物が多くあったが、それだけでは無く、【液体に浸けられている漆黒の花弁の蓮の華が入った瓶】や、【蒼白い粉末が入ったシガレットケース】、【何かの灰に、刻んだ複数の乾燥した植物の皮や葉等を混ぜ合わせた物が入ったジップロックの袋】等の良く分からない物も複数あった。
【豹ヶ崎】は【硫酸】や【硝酸】の酸性の薬品を回収すると、【一】はどうしているのか確かめる為に振り返る。
【一】は屍体に突き立っていた【短剣】を握り、無表情でそれを見詰めていた。
否、その表情は単なる無表情では無く、様々な感情が入り混じった結果、無表情に見えているだけと云う印象を受ける様な表情だった。
【一】が【豹ヶ崎】の視線に気付いて顔を向ける。軽い笑みを浮かべている筈の【一】の表情が、何故か別の表情が幾つも重なっているかの様にブレて見えていまいち正確に捉えられていない様な感覚を受ける。
「良い物はありましたか?」
「……はい、一応は」
「他に行きたい場所はありますか?」
「大丈夫です」
「では向かいましょうか、【アトリエ】に」
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