第14話 回収物調査1
同じ人物に複数の呼び名が使用されております。【豹ヶ崎】=【濱家】、【一】=【佐宮】
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【豹ヶ崎】は【一】と共に【リビング】へと移動していた。少なくとも、回収した物を広げるなら、廊下の床よりもテーブルの上の方が良いと云う判断だ。
【豹ヶ崎】は鞄から【あの精神を蝕む忌まわしい部屋】から回収した【ノートパソコン】、【開封された封筒】、【手帳】、【ファイル】を取り出して並べる。
先ずは何から調べようかと考えて、見終えるのが一番早そうな【開封された封筒】から調べる事にした。
上質な紙を使用していると分かる淡い茶色の封筒は、一般的に書類を入れて郵送する為に使う様な形では無く、メールや手紙のマークとして見る様な感じだった。
蝋封――それを模したシールでは無く、本当に融かした蝋を専用の道具を押し付ける事で封をしている――を丁寧剥がして開かれた封筒の中には、封筒と同じく上質な白い二つ折りの紙が一枚と、チケットの様な物が一枚入っていた。
チケットには、国際会議の後や格式のある食事会の様な、料理や飲み物が入ったグラスが並べられた白いテーブルクロスが敷かれた、長いテーブルのイラストが背景に描かれており、その上に洒落た字体で【異食会会員用入場証】とシリアルナンバーらしき六桁の数字が書かれている。
白い二つ折りの紙はやはり手紙の様で、そこには、
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【恵居】様
前回、ご提供戴いた【雌のアミルスタン羊肉】は会場一同、大変満足出来る一品でしたので、此度も参加して戴く事を楽しみにしておりました。
然しながら、その開催前に降り掛かってしまった不幸によって、【恵居】様が今回の食事会への参加を辞退せざるを得ない状況となってしまった事は、私を含めて今回の食事会メンバー一同、大変残念に思っております。
私自身としても前回のシンプルなステーキとして味わった時には、とても満足する美味として堪能致しましたので、次回は他の食材とどう組み合わせて調理させようかと考えて胸を踊らせておりました。
この度、次回以降にも使用出来る【入場証】を同封させて戴きましたので、【恵居】様と極上の【雌のアミルスタン羊肉】が再び食事会へ来訪する日を、【異食会】一同お待ちしております。
【異食会】会員【呑鯨】
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と書かれていた。
【豹ヶ崎】は、此処に書かれている【雌のアミルスタン羊肉】が決してラムやマトンの様な普通の羊肉などでは無く、【恵居】の犠牲となった女性達の肉の呼び名であると予想出来ていた。
更にこの手紙が示す事は、この【異食会】と云う組織か集団に所属する者達は、女性の屍体と分かった上でそれを調理し、出来た料理を味わって食べていたと云う事だ。
食人をメインとしているのか、そうでは無く普通では無い様な食材を使った料理を楽しんでいるのかは分からないが、少なくとも、表で大っぴらに活動出来る様な集団では無いだろう。
(少なくとも、この部屋の異常に直接関わる物では無い、ですかね?)
情報として手紙の送り主は、女性達の誘拐等の協力者だとか、魔法陣等に関する情報の提供者だとかの様な直接的な繋がりを示す存在では無く、人肉の提供先程度の重要度が比較的低い相手だろう事が予想される。現状、深く掘り下げて調べる必要は無いだろう。
「【佐宮】先輩、【異食会】と云う組織、或いは集団について分かりますか?」
「本来ならば摂食しない猛毒を持つなどの、食材として忌避される物や、異常な存在を摂食可能に加工し、調理し、料理にして会場に提供し、会員達で食べて愉しむと云う集団です。
会員の中でも、運営等を担当する幹部クラスの者達は【会員名】を名乗っており、大抵は手紙やメール等で、その名前が確認される事がありますね」
一応、【一】に【異食会】について尋ねてみると、その集団についての情報は出たが、今回のこの部屋に
明言されなかったと云う事は、関係が薄く重要度は低いと判断して、次に【手帳】を確認する事にした。
劣化して黄ばみ始めているページには、装丁と同じく絵具や土の汚れが付着しており、腐葉土と腐肉が混ざった様な臭いが染み付いている。
内容を軽く流し見て分かったのは、この手帳は標的に関する情報を記録し、目的を果たす為のメモに使っていたと云う事だ。
小さく顔の辺りを切り取った写真が貼られ、名前や住所、通勤や通学のルート等が細かく書き込まれている。簡素に描かれた地図には何かマークの様な物が所々に描かれており、【豹ヶ崎】は襲撃や監視の為のポイントなのでは?と思った。
暫く見ていくと今迄写真が貼られていた場所に、後から剥がされた痕跡のあるページが現れた。
そのページに書かれていた名前は、【
捲って次のページを見ると、一言『失敗した』と書かれていた。
筆圧が強く震えている文字からは強い感情が感じられる。
次のページを確認するも記述等は無く、以降のページも白紙で、何も書かれていなかった。
一先ず、【恵居】が被害者のストーキングに使用する為の情報を記録した物だと判明した手帳だったが、やはり【虛洞 隱理】についての情報は余り書かれていなかった。
そもそも、彼女の事を【恵居】は何処で見付けたのだろうか?彼女の写真を始めとする情報が限り無く少ない事も含めて、【恵居】や今回の件を抜きにして気になってきた。
「【佐宮】先輩、【虛洞 隱理】について――」
「【濱家】さん」
【豹ヶ崎】が【虛洞 隱理】について何か知っているかを聞こうとする言葉を遮って、【一】が【豹ヶ崎】のこの部屋での名前を呼ぶ。
「【
その台詞は、【豹ヶ崎】に有無を言わさぬ雰囲気を感じ取らせた。
度々見せていた様に巫山戯てはぐらかすでも無く、【豹ヶ崎】を試したり、成長を促したりする為に敢えて情報を伏せているでも無く、ただ規則で決められている事だからと云う無機質さしか無いその台詞に、【豹ヶ崎】は言葉に出来ない不気味さを感じた。
【虛洞 隱理】とは何者なのかと云う興味と、それ以上に彼女について知る事は、既に忌まわしく、恐ろしい脅威が待ち構えていたこの部屋の様な事象に、自ら更に踏み込み、巻き込まれていく事を意味する事実への恐怖が、【豹ヶ崎】の内より湧き上がる。
恐らく、まだ片足でこれなのだ。【虛洞 隱理】について知る事が出来る頃には、どれ程沈み込んでいる事になるのか……。
【豹ヶ崎】は何かが背後から撫で付ける様な錯覚に陥る。いや、それは本当に錯覚だったのだろうか?
ともあれ、まだ調べなければならない物は残っている。遠いかは分からぬ先の事よりも、今は眼の前にある物に集中しよう。
……それが、ただの逃避や眼を逸らしているだけだとしても。
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