第12話 ???探索

 警告:屍体有り。


 又、同じ人物に複数の呼び名が使用されております。【豹ヶ崎】=【濱家】、【一】=【佐宮】

――――――――――――――――――――――

 残るは玄関から見て右側にある二部屋のみ。【アトリエ】には【恵居】が居る為、【豹ヶ崎】は消去法で、玄関側にあるもう一つの部屋を調べる事にした。


 【豹ヶ崎】が目的の部屋の扉のドアノブに手を伸ばす。


 その時、隣の部屋――【アトリエ】からガチャリとノブが回り、軋みながら扉が開く音が聞こえて、慌てて手を引いた【豹ヶ崎】は【にのまえ】と共に、そちらへと顔を向ける。


 【恵居】が【アトリエ】の扉を開けて、廊下に出てこちらに身体を向けていた。


 【恵居】は不審がる様子も無く、【豹ヶ崎】と【一】を見て軽く頭を下げて尋ねる。


 「【濱家】さん、【佐宮】さん、お疲れ様です。進捗はどうですかね?」

 「滞りなく進んでいますよ」

 「嗚呼、良かった。私の部屋にある物は色々と取り扱いが特殊だったり、中々見せられる物では無い物ばかりですからね。


 それに私の作品達も見る人を選びますし、何より私自身の風貌が、ね?」


 【恵居】は【一】の返答に安堵する様に笑うと、直ぐに自嘲する様な物に笑みが変化する。後半の発言は、残念さと苦労が見えるが、その為に行っていただろう凶行を思えば、同情する気にはならない。


 それよりも、悍ましい本性を草臥れた苦労人の様な言動の裏に潜ませるこの男が、この後どの様に行動するのかの方に神経が向いている。


 「では、引き続き頑張って下さい。


 あ、その部屋を清掃するなら、忠告……になるんですかね?取り敢えず、その部屋には色々あるので、二人で作業して戴いた方が早く終わると思いますよ。


 ……嗚呼、後、終わったら【アトリエ】を見て行って下さいよ。やはり、芸術は誰かに見て貰ってこそですからね」

 「こちらの時間があれば、そうさせて戴きますね」


 アトリエで自身の作品を見ないか?と云う誘いを、【一】に社交辞令で返された【恵居】は、それを気にする事なく、ニッコリと笑うと再び、【アトリエ】へと戻っていく。


 【豹ヶ崎】は緊張で浅くなっていた呼吸を、深呼吸する事で整えると、再度ドアノブに手を伸ばし、握った。


 ドアノブを動かすと、扉に鍵は掛かっている気配は無い。しかし、抵抗があったりする訳でも無いにも関わらず、何故かドアノブを捻る手が重く感じた。


 何となく、この先に何かあると云う直感的な物を感じる。


 今更、覚悟を決める為に心を落ち着かせる時間を取る事はしないが、これ迄以上の警戒と緊張に張り詰めた感覚を聴覚に集中させて、ゆっくりと扉を開く。


 「ッ!?」


 部屋の中には、左側に【ノートパソコンが載った机と椅子】、【本やファイルが入っている硝子の扉が付いた棚】があり、デスクワークか何かのスペースに見える。


 右側には【薬品瓶らしきラベルが貼られた茶色や透明の大小様々な瓶が入った、硝子の扉が閉められた棚】と、【秤やビーカー等の実験で使う様な道具が置かれたテーブル】があり、部屋の1/3程がこれの為の空間である様だ。


 まだ入っていない為、こちら側の壁がどうなっているかは分からないが、左右の壁には【明らかに盗撮されたと分かる複数人の女性の写真】が所狭しと貼られており、正面の壁には【異様な気配を放つ、地下から地上にある出口へと昇る為の石段の様な絵】が描かれており、直感的にカタコンベの様な場所の中から描いたのでは?と思う。


 部屋の床には【一面に広がる赤褐色の、円や六芒星等の図形と奇妙な文字らしき物の羅列を複雑且つ緻密に組み合わせた物――恐らくは魔法陣と呼ばれる物】があり、その中央には、【精巧な細工が施された金の柄に、白く発光し仄かに冷気を発する結晶を嵌め込んだ短剣が胸部に突き立つ、全身に奇妙な幾何学模様と魔法陣に使用されている文字らしき物の入れ墨を刻み、木乃伊の様に骨と皮ばかりになって罅割れた、乾燥して端が剥がれた表皮が毛羽立つ【恵居】らしき物】が横たわっていた。


 らしき、と表現したのは、変わり果てたその屍体の様な物の頭部、特に顎に当たる部分の形状が【恵居】の奇妙に変形した顎の形状と類似していたからだ。


 黒ずんで見えるその屍体はとてもでは無いが、自殺による物には見えない。そもそも、屍体なのかすら怪しく見え、悪趣味な造形の木像か何かの様にも見える。


 「あの、ここは……?」

 「敢えて云うなら、【書斎】か【作業場】になりますかね?


 少なくとも、生前から【恵居】が活動する上で重要な部屋だった事は確かだと思いますよ」


 短時間に数度見ていた事もあり、屍体には慣れて多少の事なら動揺しなくなっていた【豹ヶ崎】だったが、床や壁の狂気じみた異様さはそれ等とは別方向からの恐怖であり、屍体から受ける恐怖には鈍感になっていた【豹ヶ崎】の精神を揺さぶるには充分な物だった。


 「……ちょっと気分が悪くなりますね」


 口元に手を軽く当て、浅くなり掛けていた息を意識的に吐いてから、【豹ヶ崎】が短く感想を言う。


 「では、【アトリエ】から見ますか?」

 「いえ、このままこの部屋を調べます」


 【にのまえ】は、それに対して【アトリエ】から調べるか?と尋ねたが、【豹ヶ崎】は一度横に首を振ってそれを断り、部屋の探索を行うと答える。


 「ならば、お気を付けて。部屋にある物は回収して持ち出しても問題ありません。……屍体と短剣は止めておいた方が良いですがね。


 それと、この部屋に私は入りません」

 「……分かりました」


 あからさまに何かありそうな室内の状態に、直ぐに足を踏み入れるのは不味いと判断して【支給端末】で部屋の前から撮影する。


 更に、アナログ的な方法による記録が必要だと聞いていた為、情報のメモとして、これ迄に見てきた情報を含めて手帳に簡潔に記録すると、【豹ヶ崎】は部屋へと一歩足を踏み入れる。


 「ッ!?何が!?」


 その瞬間、身体を満たしていた何かが抜け落ちて、精神が僅かに削り取られる様な感覚が襲い、それによって脱力し掛けた身体を、両脚に力を込めて何とか踏み止まる。


 突然襲った経験の無い感覚に呆然とし掛けた【豹ヶ崎】だったが、力が抜けた際に下ろされていた視線の先にある床に描かれた赤褐色の紋様が、新たにエネルギーを得た事に歓喜する様に妖しく輝いているのを見て、この紋様が【豹ヶ崎】から何かを奪ったのだと理解した。


 「部屋に踏み入れた者から【魔力】と【正気】を奪っていく魔法陣です。


 不用意に居続ければ文字通り、この部屋に命すら食い荒らされますよ」


 部屋の外から【一】が部屋に仕掛けられているギミックを告げる。【魔力】は分からないが、【正気】を奪われ続ければ、精神が不安定になり発狂する事になるのだろう。あんな部屋で狂死するなんて冗談では無い。


 つまりは、何を調べるか目星を付けた上で、正確に情報を取得して、悪影響を受ける前にこの部屋から離脱しなければいけない訳だ。


 (さて、先ずは何処から調べるべきか……)


 長考している時間は無い。数秒程、考えて――


 (――机から、ですかね)


 【豹ヶ崎】はこの部屋を見て、最初に眼に付いた【ノートパソコンが載った机】から調べる事にした。


 屍体に触れない様に机の前に移動すると、軽く観察する。


 オフィスデスクの上には、少し型の古いノートパソコンとマウス、小型のコピー機があり、下に横並びの二つの引き出しがある。


 引き出しには鍵が無く、開けると左側には開封された封筒、右側にはボールペンと、絵具や土で汚れた手帳が入っていた。


 時間制限があるので、持っていける物は確認せずに鞄へと回収する。コピー機も回収したかったが、流石に嵩張ると判断して置いていく。


 【書類棚】を調べようと視線を向けた辺りで、【豹ヶ崎】の身体から【魔力】と【正気】が失われた感覚が襲う。


 狂気が近付いてきた。

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