第11話 寝室探索

 警告:自殺表現と屍体有り。


 又、同じ人物に複数の呼び名が使用されております。【豹ヶ崎】=【濱家】、【一】=【佐宮】

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 浴室から移動した【豹ヶ崎】は、向かいにある【アトリエ】やその隣の部屋では無く、リビングにあった扉の前にいた。


 明確な根拠がある訳では無いが、何となく【アトリエ】や、その隣の部屋に立ち入るのはこの扉の先を見てからの方が良い様に思ったのだ。


 ドアノブに手を掛けようとして、気付いた。


 鍵を掛ける為の摘みがこちらにある。つまり・・・鍵穴が向こう・・・・・・にあると云う・・・・・・事だ・・


 監禁に使用されていたと想像出来る場所を前にして、【豹ヶ崎】はゴクリと唾を飲む。


 【豹ヶ崎】は覚悟を決めるとドアノブを捻り、扉を開く。


 その部屋は、【豹ヶ崎】が想像していたよりも整然としていて、何より長い間閉ざされていた部屋特有の停滞して澱んだ埃っぽい空気では無く、【にのまえ】が先んじて掃除をしていたのかと思う程だ。


 軽く眺めた程度だが、テレビや本棚、ドレッサーやベッド等が一通り揃っており、部屋の大きさがそこ迄大きくは無い為、窮屈さは感じるかも知れないが、想像以上に自由に過ごす事が出来るようだ。


 窓に格子等も無く、特別な施錠する為に追加された部品も無い。やろうと思えば、窓からベランダに出られるのでは?とすら感じる。


 何と云うか、外から鍵を開閉される事を除けば、多少詰め込み過ぎている様にも感じはするものの、一人で過ごすだけなら割と良い部屋にも感じられる。


 何と云うか、監禁する為らしく見えた鍵とは裏腹に、部屋の中では自由に行動出来る様に見える矛盾を感じる。


 室内に留める為の拘束具の類は見られず、何気なしに天井辺りを見てみるが、少なくとも眼に見えるカメラの類は存在していなかった。


 ベッドには横たわった【恵居】がおり、口元の泡以外は綺麗で普通に寝ている様にも見える。まぁ、胸が呼吸で上下に動いていないので、恐らく死んでいるが。


 枕元に転がる錠剤が入っていたであろう空き瓶や、中身が取り出されたゴミが複数あり、床に水が溢れたペットボトルがあるので、死因として予想されるのは――


 「薬物の過剰摂取ですかね?」

 「そうでしょうね」


 今迄見た中で一番精神的な負荷が少ない見た目の屍体と、周囲に転がる痕跡から【豹ヶ崎】は薬物の過剰摂取、つまりオーヴァードーズによる中毒死だと判断した。


 【一】も否定しなかった事から、恐らく合っているのだろう。


 室内の物を探っていくも、テレビは正常に現時点で放送している番組が付いて、本棚にあった雑誌や漫画等も可怪しな点は見られない。


 ドレッサーに収納されていた化粧品は様々な種類の物があったが、【豹ヶ崎】はそれ等がどれも落とし易く、自然由来の物である事に気付いた。


 クローゼットの中には様々な女性物の服があったが、何と云うか統一感の様な物が感じ難く、複数の女性が同じクローゼットを共有して使っている様な印象を受けた。


 ベッドの下を覗き込むと、熊をデフォルメしたぬいぐるみがあった。引っ張りだして観察してみると、頭部に何か硬い物がある事に気付いた。


 更に、眼の片方を良く見ればレンズになっており、どうやら頭部にカメラが仕込まれており、それを監視の為に使われていたらしい事が分かった。


 【豹ヶ崎】は部屋は一通り調べ終えたと判断して次の部屋に移動しようと振り返る。


 「?張り紙?」

 「因みに、この張り紙は今初めて見ましたよ」


 入る為に開いた扉に何か紙が貼ってあった。【一】の言う通りなら、浴室にあった行方不明者を探す張り紙と同じ様に、暫定的第三者によって用意された物と云う事になる。


 「【濱家】、先に言っておきますが、この張り紙は《魔術》と呼ばれる超常の力の一つについて書かれてた物だと云う事を認識した上で見て下さい。


 そして、《魔術》とは、人ならざる物や、神話や伝承に語られる物がまだ表に跋扈していた時代に生きた者達によって構築された物であり、深淵からの一端故に精神を侵蝕する危険な力である事も」

 「分かりました」


 【一】の忠告を聞いた【豹ヶ崎】は、気をしっかりと持つ様に心掛けてから、張り紙を読む。


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 《魔術:人間の隷属》について


 《詠唱:謌代↓蠕薙∴ 【対象の真名】縺ョ鬲ゅr譚溽ク帙○繧 豎昴?蜈ィ縺ヲ縺ッ謌代′謇倶クュ縺ォ 豎昴?蜈ィ縺ヲ縺ッ謌代′謇倶クュ縺ォ 蜿悶j謨「縺医★邵帙j莉倥¢繧》


 ・人間の魂を縛り、術者に隷属させる《魔術》。対象の【真名】を知っている上で、実際に目視している事で行使出来る。


 ・術者が(固定値+任意)分支払った《魔力》と対象の《精神》を競わせ、それに打ち勝つ事で対象を隷属させる事が可能となる。


 ・この《魔術》は、簡易的に行使出来る上に効果が必ず発動する代償に、対象の《精神》に敗北すれば、術者自身が対象に隷属する事になる。


 ・更に、この《魔術》は本来の《術式》の劣化模造品を更に改変された物である為、一定確率で不具合が発生する。


 【追伸:だから、使っちゃ駄目だよ?【れい】ちゃん】

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 普通にかなり重要だと分かる情報が書かれていた。実際に此処に書かれている《魔術》が実在しているとして、【恵居】はこれで被害者を従えていたから、部屋が一見して監禁するには些か拘束や監視が緩い様に思える程度で良かったのだろうか?


 「と云いますか、清々しい程に私に向けて書いていますよね、これ」

 「ぶっちゃけ、私、正体分かったんですけど。過保護過ぎるでしょ」


 追伸に書かれた【豹ヶ崎】の名前は幾らなんでもわざとらし過ぎやしないか?と思った。と云うか、苗字じゃなくて名前な辺り、馴れ馴れしく感じる。


 ……予想通りなら、とてもではないが文句を言える様な相手では無いが……。そもそも、言おうにも、接触方法が分からないと云う問題もある。


 「肝心の詠唱部分が文字化けしているんですが。これでどう使えと?」

 「多分、わざとですよ。知りたいなら、後で解読しろって事でしょうね。勘ですけど」


 暫定ではあるが、予想通りなら間違ってもこんな態度を取って良い相手では無いが、その相手が見えていない事を良い事に、割と好き勝手【豹ヶ崎】と【一】が言っていると、突然、ザザザッと雑音が聞こえる。


 音が聞こえた方向を二人が見ると、勝手に起動したテレビが激しく乱れた映像を流し、雑音を漏らしていた。


 数秒程、電波を調整する様に乱れていた画面が唐突に一瞬、完全に消えて黒くなると、それは起きた。


 『君、た、チ、けっこ、ウ、好き、カッ、て、にい、って、ク、れる、ヨ、ね』


 ザッピングする様にアニメやドラマ、ニュース等の画面に次々と切り替わりながら、明らかに二人に向けた言葉を作ったと思ったら、再び画面が激しく乱れて数秒後に電源が落ちる。


 【豹ヶ崎】と【一】は顔を見合わせると、互いに黙って頷き、寝室から出ていった。

――――――――――――――――――――――

 因みに、詠唱の文字化けを解読すると、


 《我に従え 【対象の真名】の魂を束縛せよ 汝の全ては我が手中に 敗北者に隷属の詛いを今 取り敢えず縛り付けろ》


 となる。特に後半の二文が一番やらかしている。

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